表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
やめて下さい、死んでしまいます!  作者: 雲雀 蓮
幼少期(幼児~中学生)
11/40

表面だけは穏やかでした




そんなある日のことだった。



別のカウンセラーの人が来た。

男の人だった。



「初めまして、天音ちゃん」



にこりと穏やかに笑う彼。

一歩近づいてきたので、一歩下がる。

大柄というわけではないが、小柄というわけでもない。

標準的なその男性の手には何もない。



「この手に何か持っているように見える?」



両手をパーにして、私に見せる。

勿論首を横に振る。

それに応じるようにうなずいた彼は、こういった。



「うん、何にも持ってない。でもね、ほらっ」



手を一瞬握ったあと、花弁が沢山出てきた。

赤、黄、橙、紫。

色鮮やかなそれらは、彼の白衣を染めるかのようにあふれ出た。



「俺はね、魔法が使えるんだよ。

 シンデレラに出てきたような、いい魔法使いなんだ。

 君が幸せになれるような魔法を、今日からかけていくからね」



穏やかに笑う彼は、疑わしくもあり、頼もしくもあった。



あの記憶を消して。

今のダメな私を殺して。

前の私に戻して。



もし魔法というものがあるのならば、できなくなった行動をできるようにして。

そうでないと、私は一人ぼっちになってしまう。



「天音ちゃん、ほらほら兎さんだよー。かわいいねー」

「天音ちゃん、桜さいたよ―」


「天音ちゃん」



何度も何度も私の名前を呼ぶ。

その声がいつしか耳に張り付いて、おびえることなく受け取れるようになった。



「天音ちゃん、きてきて」



窓際に手招きするので、恐る恐る寄る。

すると、窓の外側に白いものが落ちていくのが見えた。



「雪降ってるよー」



真っ暗な世界。

あの日と同じ。あの廃墟と同じ色。


ひゅ、と息が不自然に詰まった。



それに気付いたカウンセラーの男性が私の手に触れる。

指先にちょこんと。



「吸って、吐いてー」

「・・・?」

「吸って?」

「・・・(すぅ)」

「吐いてー」

「・・・はぁ」

「もう一回、吸ってー」

「(すぅ)」

「吐いて―」



私の呼吸が落ち着くまで、彼は繰り返した。



「大丈夫!魔法使いのお兄さんが付いてるよ」



小さい子が持つような魔法のステッキを持ったお兄さんは笑う。

魔法なんて使ってこなかったくせに。


私が直してほしいところ、何一つ直せなかったくせに。



「・・・・・・(うそつき)」



人のことを何か言える立場じゃない。

でもそう思わずにはいられなかった。



誰も彼も嘘つきだ。


本当の自分を頑なに隠して、誰かと付き合うのだ。



「天音ちゃんには、怖いことで、嫌な事だよね。でもね、大丈夫。俺が付いているから」



カウンセラーのお兄さんはそう言って笑った。

苦々しいその笑顔には、悲しみを感じている皺があった。

何か、思いだしたようなそんな顔をしていた。



「くらいの、いや」

「うん、やだね」

「でも、殴られたり蹴られたりの方がいや」

「うん、やだね」

「だから、殴らないで」

「うん、しないよ」

「蹴らないで」

「うん、しない」



初めてお兄さんと話をしたと思う。

この日が初めてだった。



この人は何かが違う気がして。



「ね、ね。天音ちゃん。見てみて。掌何にもないよね?」



あの初対面の時の様に右手をひらひらさせてくる。

その手からはひとつ飴玉が出てきた。

さらにポケットに突っ込んだ左の手からは二つ。

目を離したすきに右手の飴は三つになっていた。



「はい、どーぞ」

「・・・・・・・あり、が、とう」

「いろいろ味あるよ。天音ちゃんはどれが好き?」



お兄さんとは半年以上一緒に居た。

毎日毎日、私に話しかけてきて、手品を見せて。

その繰り返し。

たまに暗い部屋の写真を見せたり、黒いマントを着てみたりしていたけど。

ただそれだけだ。

あの日みたいに暗闇の世界を直視させなかった。



「ねー夏樹―」



がら、とドアを開けて入ってきたのは黒髪のお姉さんだった。

前のカウンセラーのお姉さん。

ちょっと都合がつかなくなってからは殆どお兄さんになったらしいけど。

詳しいことはよくわからない。


この人も悪い人じゃない、と思うけれど。

少しの間しか関わらなかったからちょっと怖い。



「あのなー今仕事中なの、わかる?」

「久しぶりー天音ちゃん。覚えてる~?」

「聞・け・よ」

「やだーこわーい。天音ちゃんは私の方がいいよね?こんなこわーいおっさんじゃなくってさ」

「誰がおっさんだ。まだ三十にもなってないぞ」



二人を重ねてみたら、顔が何処となく似ている気がする。

髪色だって同じ、墨が流れたみたいな黒。

目の色もそうだ。



「で、何だ手短に頼む」

「シャロが迷子った」

「・・・警察に連絡」

「したけど、心配じゃん。探すの手伝って」

「無理に決まってんだろ。天音ちゃんがいるんだぞ」



「いいです、私より、迷子の子を探してきてください」



私なんかよりきっと有益な子なんだろうから。

この暗闇の中から抜け出す力もない私に構う必要なんてない。

きっとそうだ。


それに早く見つけてあげなくては。

暗くなってしまう前に、早く助けてあげなくては。

私の様になってしまう前に、早く。



「うーん、そだなー、まだ明るいし、お散歩しよ?天音ちゃん」



何かを少し考えた後、お兄さんが言った。

そして私の方を見て、笑った。



「暗くなる前に帰ろう、ほら、約束」



小指を突き出して、指切り。

時間はまだお昼頃だった。






いなくなってしまった女の子はシャロちゃんと言うらしい。

さっきそう呼んでいたけれど。

どうやら外国の人らしい。生まれだけ。

日本語話せるから、大丈夫だとは言っていたけれど。

もしかしたら私と同じように誘拐されているかもしれない。



あの怖い思いをしているかもしれない。




そう言ったらお兄さんとお姉さんも顔を見合わせて言った。




「「ないな」」



なんだかよくわからないけれど、この二人はとても仲がいい。

兄妹なのだと言っていた。

お兄さんの方はカウンセラーの仕事優先だけれど、お姉さんにはもう一つの大事な仕事があるから私の担当から外れたのだと言っていた。

予定が合えばまた逢えるとお姉さんは笑った。



「それにしても、ヒントとかはないのか?」

「携帯忘れていったからねー、何とも言えないかなー」

「う、無理ゲー」

「その子って、どんな?」

「うーんとね、金髪で青い瞳の子。それで、体格は私よりちょっと大きいくらい、かな」

「ちょっと、か?」

「うっさい、夏樹バーカ」

「ほんと口悪いなぁ」

「はーげ」

「まだ大丈夫だ!」



金髪で、青い目。

お人形さんみたいに綺麗な子なんだろうなぁ。


そうそう、そこのショーウインドーの前に立っている子みたいに。



「あ」

「え?」

「あ!!シャロのバカ発見!」

「あー那都琉―よかったー」

「よくないよ、ばか。心配したよ」



私の呆けたような声に反応したお姉さんが女の子に突進する勢いで抱き付いた。


その時ささやくように言った言葉が、誘拐された後会ったお母さんのようで。

なんだか、涙が出そうだった。

いいな、ではなく、よかったな。



無事で本当によかった。



「帰るよ、シャロ!」

「え、おかし欲しい」

「帰ったらお腹いっぱい聖奈のお説教だから、お腹空かせて帰りなさい」

「えーーーーーやだーーー」



彼女にとってはこれから嫌なことがあるようだけれど。

あ、ちょっと涙引っ込んだかも。

仕方がないよね。

あの子が何か悪いことをしたんだから。


怒られるのも、一種の幸せな事だと思う。



あの日から私を怒る人はいなくなった。



深く深く、傷ついたから。

だから、みんな優しくしてくれる。

誰も私を傷つけないように、ふわふわとした言動を繰り返す。


それがとてもつらい。


遠まわしゆえにわかってしまう。

本当に言いたいことは何なのか。

傷つけまいとしている裏には、何があるのか。



苦しいほどにわかってしまう。




「俺らも帰ろうか。ね、天音ちゃん」




このお兄さんだって、例外じゃない。

ただ一人を除いて、みんなからの反応が一律化した。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ