推理
向かい側のホームについた式は、最初に朝霧がいた場所に立ってみた。
(ここに、朝霧さんは立っていた。そして、向かい側では俺と榊さんが朝霧さんの姿を確認していたんだ)
式はその周辺を確認してみたが、特に仕掛けなどは見つからなかった。
(当たり前か。ここは大勢の人が使う駅のホームなんだし、そんな大掛かりな仕掛けはできるはずがない。ということは、このマジックは特別な仕掛けなしでできるもののはずだ)
次に式は、ホーム全体を見渡してみた。
何の変哲もない、普通の駅だ。朝霧が立っていた場所は、階段から近く、距離にすると5mほどしかない。式たちも、このホームに来るときはその階段を昇ってきた。
その他には、近くに自動販売機や椅子があるだけだ。
「情報はこれだけか……」
「何かわかりましたか」
「うーん、マジックの種についてはまだわからないけど、一つだけ、わかったことがあるんだ」
「それは一体……」
「この消失マジックは、そんなに難しいものではないはずなんだ。ヒントも少なすぎるしね。だから、難しく考えずにいけばすぐ解けると思うんだけど……」
式はそこで黙ってしまった。
榊は何か言葉をかけたかったが、見つからなかった。
しばらくすると、式たちがいるホームに電車が到着した。その電車に乗ろうと大勢の人々がホームを行き交っていた。
中には、駆け込み乗車をする人もいた。しかし、間に合わなかった人もいて、階段を必死に昇ってきた人々はその悲壮感を漂わせていた。
式たちは、その様子を黙って見ていた。
「駆け込み乗車をする人が多いですね。放送でお止め下さいと言われていますのに」
「……はははっ。何だ、こんな簡単なことだったんじゃないか」
「……どうしたのですか、式くん」
「わかったんだ。朝霧さんのマジックのタネが」
「え、本当ですか?」
「うん。本当に簡単だったよ。じゃあさっそく答えあわせのために呼びだそうか。ついでに、ちょっとした仕返しもしようかな」
式は携帯電話を操作し、朝霧を呼び出した。
その結果、明日もう一度同じ場所に集まることになった。
一つ違うのは、式が行くホームと、朝霧が行くホームが逆になったことだ。
「仕返しとは、一体何をするのですか?」
「朝霧さんがやったマジックを、俺もやるんだよ」
「え?」
「実際にやった方が、証明もしやすくていいからね。じゃあ榊さん、また明日」
「え、ええ。また明日……。あ、あの、マジックのタネは……」
「それは明日のお楽しみってことで」
そう言い残し、式は家へと帰って行った。




