消失マジック
翌日、式と榊は朝霧に指定された駅に時間より少し早めについた。
「それにしても、どうして朝霧さんは駅に来るように言ったんだろうね」
「さあ。ここから朝霧さんが案内してくれるということでしょうか」
朝霧はこの駅に来いとしか言っていなかった。もしかしたら、この駅でマジックを行うのかもしれない。
「もうそろそろ時間なんだけど、朝霧さんはどこにいるのかな」
式は辺りを見渡してみた。すると、向かい側のホームに、朝霧の姿を確認することができた。
「あれ、朝霧さん、あっちのホームにいるよ」
「本当ですね。手を振ってみましょうか」
榊が朝霧に向かって手を振ると、式の携帯電話から着信音が鳴った。
「あれ? 朝霧さんからだ」
式は電話に出ることにした。
「もしもし? どうしたんですか」
『やあ、式くん。今からマジックを見せるから、まばたきしないで見ていてね』
「今から……?」
一体、どういうマジックをするのだろうか。
式はしばらく朝霧を見つめていた。
特に何かをしようとしているわけではない。
朝霧も、式をずっと見据えている。
「……」
「……」
二人は、しばらく見つめあう形になっていた。
その二人の間に、電車が一本通過した。
式は、何だかドラマのワンシーンみたいだなと思っていた。
電車が通りすぎた後、式は再び朝霧の姿を確認しようとした。しかし、向かい側のホームに朝霧の姿はなかった。
「……え?」
「あれ、朝霧さんはどこに行ったのでしょうか」
式たちは自分の目を疑った。
しかし、何度確認しても向かい側のホームに朝霧の姿はなかった。
朝霧を探していた式の携帯電話から、着信音が鳴った。朝霧からだ。
「……もしもし、朝霧さん? 一体どこに行ったんですか」
『やあ、式くん。これが私のマジックだよ。よく漫画やドラマにあるシーンだろう? 是非ともこのマジックの謎を解き明かしてみせてくれ』
朝霧はそう言い終えた後、すぐに通話を切った。
「朝霧さんは、何とおっしゃっていましたか」
「今のが見せたかったマジックだって。これを解かなきゃならないみたい」
「これをですか。よくドラマなどで見るものですが、果たしてどのようなトリックなのでしょうか」
「トリックじゃなくてマジックって言ってあげようよ。一応マジシャンなんだからさ」
榊と話しているうちにも、式は朝霧の行ったマジックについて考えていた。
(確かに、突然消えるマジックをやられたから驚いたけど、そこにマジックを解く鍵があるような気がする。つまり、予めあのマジックがくるとわかっていたら、簡単に解けるのかもしれない。まあマジックって大体そんなもんなんだろうけど)
とにかく、考えるだけでは解けそうにはないので、朝霧のいた向かい側のホームに行くことにした。