二度目の勝負
「すごいですね。最高記録更新ですよ」
ステージから降りてきた式に、榊は声をかけた。
「マジック中にある程度推測はできてたからね。それに一割とはいえ、正解者だっているんだから、そこまで難しくはないと思ったんだ」
「そうでしたか。それでもすごいです」
榊は素直に感心していた。
「今回は私の敗北で幕を閉じました、マジックショーはいかがでしたか? 次回は負けないよう、もっとネタを練り直してきます。それでは皆さん、さようなら!」
朝霧は深く礼をし、ステージから去って行った。
「どうでしたか、今日のマジックショーは」
「見たことないマジックとかあったし、楽しかったよ。まさか種明かしをさせられるとは思ってなかったけど」
マジックショーからの帰り道、式と榊はマジックショーについての感想を語り合っていた。
「いたいた、おーい式くん」
そんな二人の後ろ姿に、声をかける人物がいた。先程マジックショーを行っていた朝霧隆文だ。
「あ、朝霧さん。俺に何か用ですか?」
「今回は私の完全敗北だよ。まさかあんなに早く解かれるとは思っていなかった。正直悔しくて仕方がないんだ。だから、もう一度勝負をしてくれないかな?」
「勝負?」
朝霧の言葉に、式は首をかしげた。
「ああ。明日、もう一度私がマジックを見せる。もしそのマジックを解くことができたら、ゴールドパスを君にあげるよ」
「ゴールドパス? 何ですかそれ」
「朝霧さんのマジックショーに無料で入れるパスですよ。今回のような地方営業の場合は無料で見ることができますが、普段のツアーなどはチケットがないとみることができないのです。もちろん、一流マジシャンなので、チケットを入手するのも困難なのですよ」
「へえー。でも、そんな貴重なものを俺に渡していいんですか?」
「それほど、今度のマジックには自信があるんだよ。もし必要なかったら、オークションにでも出してくれてかまわない。自慢するわけではないが、高額で売れるだろうからね。君にとっても悪い話じゃない。どうだい、引き受けてくれるかな?」
「うーん」
式はしばらく考えた後、
「わかりました、勝負しましょう」
と、勝負を引き受けた。
「そうこなくっちゃ。じゃあ明日の12時にここの駅の三番ホームまで来てくれるかな。その分のお金は払うから。あ、あと、君の電話番号を教えてくれるかな」
朝霧は一枚のメモ用紙を式に渡した。
「……わかりました」
式は朝霧に自分の電話番号を教えた。
「それじゃあ、明日を楽しみにしてるよ」
そう言い残し、朝霧は去っていった。
「セカンドマッチですか。私も明日が楽しみになってきました」
「他人事だと思って……。でも、勝ち負けはともかく、どんなマジックを見してくれるのか、俺も楽しみかな」
どんなマジックがくるのかを考えながら、式たちはそれぞれの家へと帰っていった。