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突き抜けた魔導師と悩める魔法使い

 MSPでは本格的な実戦訓練が始まっていた。実戦訓練と言っても実技として魔法の戦闘を行ったり、戦闘理論を学習していくと言うものである。

以前、シモンとガロアが補習を行った教室でシモン、ガロア、エミリー、ボク、ロザリンド達がヴィヴィアーニの魔法理論の授業を受けていた。

「さあて、皆さん。魔法理論の授業はこれからも全クラス合同で不定期で行います。それはこの授業が講義の形で行われ、受けるも受けないも自由だからです。単位は出ません」

ヴィヴィアーニはガロアの方を見た。

「何で、俺の方を見るんですか。先生」

「いや、君が単位も出ない授業を受けにくるとは思わなかったので」

「正直ですね、先生」

「まあ。冗談はこれくらいにして。もう皆さんは知っていると思いますが、魔法には3種類あります。魔法にのみ影響を与えるもの、魔法以外にのみ影響を与えるもの、両方に影響を与えるものです」

 ヴィヴィアーニの説明の通り魔法は大きく分けてその3つの種類がある。どういう事かと言うと魔法にのみ影響を与える魔法は魔法によって作られたドラゴンや悪魔には効くが魔法でできていない人間や建物には何の影響も与えない。他二つも名前の通りの意味を持っている。

「ああ、補習で出たやつですよね」

「その通りです。よく覚えてましたね」

 そう言うとヴィヴィアーニは驚いた顔でガロアを見た。

「そんなに驚かないでください」

「実は魔法の戦略も大きく分けて3つにわかれるんですよ」

「3つすか」

「ええ、それがコンビネーション、アタッカー、コントロールです」

「よく分かんないですね」

「まあ、説明しますね。コンビネーションは呪文を上手く組み合わせて、絶対に勝てる状況を作る戦術です。エミリーさんが選考会で使っていたものですね。自分の術をいくつかを組み合わせて絶対的有利を作るものです」

 ヴィヴィアーニの説明の通りコンビネーションは呪文の組み合わせで相手が負ける状況をいかに早く作るかと言う戦略で何の邪魔もなければ大きな魔力差でも相手に勝てる戦略だが、その特性上多くの魔法を使用するので魔術師レベルで初めて形になるものだ。

「あれは確かにうざかったな」

「うざくて悪かったわね」

「次にアタッカーです。これはシンプルに小細工を使わず、ほぼ全てを攻撃呪文にしたものです。ガロア君が選考会で使った戦術ですね」

 アタッカーは最もシンプルな戦略でそれこそ魔法使いの九割以上はこの戦略だ。しかし、シンプルなだけに強くヴェルナ―がこの戦略を基本にしているように複数相手や特殊な環境での戦いに向いている。

「まあ、シンプルイズベストっていうもんな」

「はいはい」

「最後にコントロール。これはひたすらに相手のいやがる事をして、できた小さな犂を逃さず突き続ける戦略です」

 コントロールは3つの戦略の内、最も難しくかつ珍しい戦略で魔術師でもこの戦略を取る者は少ない。他の戦略と違い魔法以外の技能、特に読み合いが重要となる。また、読み合いさえ上手く言った時の勝率は他の戦略とは比較にならない。

「陰湿だな」

「そうね」

「まあ、どの戦略を選ぶのか自由ですがなんとなくではなく。自分の勝率を上げてくれる戦略を選んでください。皆さんのほとんどは故郷で戦闘を経験することになると思います。負けは死を意味します。それを踏まえて考えて下さい」

「はい」




時を同じくして一人の男がMSPの校門の前に姿を現していた。

「おい、急げ。ヴェルナ―さんに連絡を校門の前に魔導師ジークムントが現れたと」

 ジークムントが元マフィアだった事は魔法の関係者にとっては多く知られた事実であった。その事実と目の前の現実をMSPの警備員たちは強く認識し、そう対応した。

ジークムントは両手の指を自分の正面で絡めて、それを勢いよく大きく空間ごと振りほどいた。終わりをもって始まり、その始まりを持って終わりを与えるものを呼ぶための空間を作るために。

ジークムントの前にMSPの敷地を覆い隠すほどの魔法陣が出現した。

「死者の降臨ホードオブザデッド

ジークムントが呪文を唱えた後、魔法陣から夥しい数の人が現れた。しかし、その人達はこの世のものともつかない姿であった。なぜなら、彼らはゾンビであったからだ。体は腐敗し辺りにとんでもない匂いが充満していく。そして彼らは生徒達のいるMSPの各教室に向かって前進していく。その姿はまさしくどうしようのない止められない世紀末のようだ。

その後を追う様にジークムントがMSPに向かって行く。

「魔導師ジークムント。あなたは何をやっているか分かっていますか。この学校はただの学校ではない世界の未来を作る生徒の通う学校なんですよ」

 MSPに襲いかかるゾンビ達を背景に警備員たちは魔導師ジークムントの正気を疑った。

「ああ、分かってるよ」

「それは世界と喧嘩を売ることと同義ですよ」

 MSPは多くの国の投資によって成り立つ学校である。それは言葉を換えればMSPは多くの国にとってそれだけ重要な機関と言う事になるのだ。

「分かってるって言ってるだろ。世界なんて敵でいれるだけ怖くはなんてねえんだよ」

 ジークムントはため息をつくようにそう言った。

「くっ、増援を呼べ。我々だけでヴェルナ―さんがくるまで時間を稼ぐぞ」

 門にいた警備員はそれぞれ構えた。

「火の大砲カニュン・デル・ソル

「剣山の隆起ベナルフォカ・ウタン

「風の飛礫リー・シェイフォン

 「火の大砲」によって地面にジークムントより一回り大きい大砲が現れ、それが大きな蒸気を噴出し大きな火の球をジークムントに向かって吐き出した。

 「剣山の隆起」によって地面が盛り上がるとそれは形を掛けて剣山のように鋭くなりジークムントに向かって行く。

 「風の飛礫」によって風は集まり見えない塊を作り、ジークムントに向かって飛んでいく。

 ジークムントはその連撃をゾンビたちを盾に綺麗によけていく。

「無理だ。魔導師と魔術師の力の大きな違いは魔力の大きさだ。今の攻撃ぐらいなら全て受けても大したダメージにならない。分かるな」

 その言葉を最後に僅かな警備員の攻撃もゾンビのどうしようのない数に呑みこまれていった。

「さて、あいつは何処に居るかな」



 そんなことがあった後、魔法理論を受けていたシモンたちは急いで教室を出ようとしていた。ゾンビ達のMSP学内侵入が学内放送によって伝えられたからだ。すぐに迅速なヴィヴィアーニの指示で順々に外に向かって行く。

「押さないでください。円滑な移動の方が全体の生存確率を上げます。きちんと冷静に廊下にいる先生の指示に従ってください」

「ロザリンドさん」

 シモンは人ごみのなかでロザリンドの姿を探していた。エミリーからロザリンドの父親がジークムントだと聞いていたシモンはジークムントの学校強襲に少なからずロザリンドは動揺していると思ったからだ。

 子どもが、友が、恋人がどうしようのないことをすれば人は何らかの反応をするだろう。多くは動揺し、怒りか悲しみかはたまた共感か。シモンもそうした感情を吐き出した彼女の姿を想像していた。

「!ロザリンドさん。・!・・」

 シモンは驚いた。せめて、彼女が無表情なら良かった。ロザリンドはいつもと変わらない表情をしていた。

そして、ロザリンドが廊下に出た瞬間、大量のゾンビが廊下に流れ込みロザリンドはシモンの視界から消えた。そのゾンビの波の後をゆっくりとジークムントがシモンの視界に姿を見せた。

ジークムントはゆっくりと教室に入って来た。教室に残っていたのはシモン、ガロア、エミリー、ヴィヴィアーニを含めて数十人。それぞれが一斉にジークムントに構える。

「勝てると思ってるのか」

ジークムントは大量のゾンビを前進させた。その大群に魔法使い達は一斉に呪文を唱える。

「火のサリダ・デル・ソル

「光の直槍レンス・デル・ミレ

 大きな火の玉や光の槍は確かにゾンビを蹴散らし、ゾンビ達は肉塊に戻っていく。しかし、その肉塊はすぐに形を成してゾンビへと戻っていく。

「皆さん、あのゾンビ達は魔力を源に再生しています。本体であるジークムントを倒さなければ意味はありません」

 ヴィヴィアーニの言葉に全員はジークムントを攻撃し始める。



 攻撃は数分間に及んだが魔法使いが疲労しただけとなった。

「無駄だ。さてとそろそろいいか」

すでにゾンビによって教室の出入り口は包囲されている。さらにゾンビを使って   は魔法使いの一人を誘導し、拘束するとその魔法使いの頭をジークムントは掴むと唱えた。

昇天ジー・ぺル・デュクーシオウス

 その魔法使いはその場に倒れた。魔法使い達は一斉に動揺の声を上げた。

 更にジークムントは他の魔法使いをゾンビに捕獲させ、その頭をつかみ唱える。

昇天ジー・ぺル・デュクーシオウス

 同じ作業を淡々とジークムントは行う。行う。行う。

「昇天。(ジー・ぺル・デュクーシオウス)昇天。昇天。昇天。・・」

 ジークムントは昇天を喰らった魔法使いをゾンビを使って廊下に移動させた。

「ジークムント。あなたは何を考えて・・」

 ヴィヴィアーニが言い終わる前にジークムントはヴィヴィアーニの頭を掴んで唱えた。

昇天ジー・ぺル・デュクーシオウス

 ヴィヴィアーニも廊下に移動されていった。

 教室に残っているのはシモン、ガロア、エミリーだけとなった。

「何がしたいんだ、てめえ」

 ガロアは堪らず感情を言葉にする。

「どうしてこんなことするんです」

 それはエミリーも変わらない。

 ガロアとエミリーが声を上げる後ろにいたシモンはゆっくり前に出た。

「ジークムント。あんたはロザリンドさんに何をしたんだ。彼女は、彼女は、こんな状況でもあなたを許そうとしてる」

 そう言ってシモンはジークムントを睨みつけた。シモンからみて、いや誰から見たとしてもロザリンドの態度は異常だった。なぜこんな状況を親に作りだされてそれでも一切の感情の発露なく耐えられるのか。シモンにはどう考えてもその原因がジークムントにあるとしか思えなかった。

「こっちを先に選んで正解だったようだ」

 シモンのその反応をにやにやとジークムントは笑った。

「何を言ってるんだ、あんたは」

「お前だろ。ロザリンドの彼氏は」

「そうだ」

「ロザリンドに直接話をするつもりだったが、お前の方がいいかと思ってな」

 シモンを庇うようにガロアとエミリーが前に出る。

「こいつは危険だ。俺たちが相手をするからシモンは逃げろ」

「そうよ。倒すのは無理でも逃げる犂くらいなら」

「はっはっは。面白い事を言う。時間はあるからな。少し遊んでやろう」

 ジークムントはゾンビに手で指示を送る。大量のゾンビが廊下からも流れこんでくる。ゾンビ達は我先にとシモンたちに襲いかかる。

「火のサリダ・デル・ソル

「光の直槍レンス・デル・ミレ

 火はその勢いそのままにゾンビの一団を燃やし尽くし、光は燃えかすを貫き道を作りだした。

「ほお。言うだけはあるな、だが」

 すぐに貫いた道から植物が成長するかのようにゾンビ達は再生し、道をふさぐ。

「ちっ」

 すぐにシモンたちは足を止める。

「やるしかないな。俺が犂を作る。お前らはその間にゾンビをどうにかして逃げろ」

「・・・・。分かった」

「でも、ガロア。俺だって」

「お前はボクと一緒なら勝てるかもだが、一人は無理だろ。俺にやらせろよ」

 エミリーがシモンの手を取って進み始める。ゾンビ達のいる廊下に向かって。

「連鎖の炎竜コンストレイン・ソル

 大きな門が上の階を貫いて現れた。その門に絡まる大量の鎖が門の小さな開閉と共に一本、一本壊れ落ちていく。

 そんな光景を目の前にジークムントはやれやれとゆっくりと門で塞がれた先、シモンのいる方に向かって行く。

「なめんなああああああああ」

 鎖は全て壊れ、門が開く。門の中から体中に鎖を打ち込まれた龍が姿を表し、龍は教室を弾き飛ばしそうな咆哮と共に炎の濁流を吐き出す。

 濁流はジークムントにその大きな口を開けた。

「静寂(ラーン・デル・シュツ―ラ)」

ジークムントを飲み込もうとした炎の濁流はおろか龍も門も鎖も消え去った。そして確かにあったはずのほんの数秒前の門や龍による音はかき消され、その場には静寂だけが残った。その静寂の中をジークムントはただただ前進した。

「まあ、頑張ったな」

ジークムントはそのままガロアの頭をつかむ。ガロアは抵抗する気力すら消え失せていた。

昇天ジー・ぺル・デュクーシオウス

 既に廊下に出て、ゾンビを蹴散らしながら進んでいたシモンとエミリーはガロアがやられた事に気付いたが前を進もうとまだもがいていた。

「シモン。私は先へは行けないわ。シモンは逃げて」

 エミリーはジークムントのいる教室に戻っていった。シモンは後を追おうとするがゾンビに防がれ後を追えない。

 エミリーは教室を出ようとしたジークムントを見つけ、唱える。

「光の直槍レンス・デル・ミレ

 それは確かにジークムントに命中したがジークムントは無傷でエミリーを見る。

「お前の術は大したことは無いな」

身体強化オンフォンシ

 エミリーは一旦、ジークムントとの距離を取りながらゾンビ達との距離を確認する。

「あきらめろ」

 ジークムントは手でゾンビにエミリーに攻撃するように合図を送る。ゾンビはそれを確認しエミリーに我先にと襲いかかる。

反射リフレクション。反射。反射。・・・」

 エミリーはゾンビがエミリーを捕えようとするたびに『反射』してゾンビを振り払う。

「確かに凄いが何時までもつ」

 エミリーはゾンビ達との位置関係を改めて確認すると唱えた。

「光の直槍レンス・デル・ミレ

「同じ事を繰り返すか」

「光の散乱ディフィジョン・デラ・ルミレ

 光の槍は枝分かれするかのように散乱していく。

反射リフレクション。反射。反射・・・・・」

 枝分かれした光は反射してもう一度一点に集まるジークムントのいる場所に向かって。

「数が増えただけじゃ効かないぞ、女」

「光を剣に(エピー・ドンラ・ルミレ)」

 光は剣に形を変えていく。それは確実にジークムントに向かって行く。

「それがお前の切り札か」

 エミリーはその言葉に身震いした。

「静寂(ラーン・デル・シュツ―ラ)」

 光は再び光に戻っていく。光は確かにジークムントを貫いたがジークムントはなんの感慨も感情の変化もなくエミリーに接近していく。エミリーもどうしようもなくもがくことすらせず頭を掴まれる。

昇天ジー・ぺル・デュクーシオウス

 エミリーはその場に崩れ落ちていった。

 その様子を廊下からシモンは目にしていた。ジークムントはそれに気づくとゾンビにシモンを教室に連れてくるように指示をした。シモンは何の抵抗もなくそれに従う様に   のいる教室に現れた。

「なんで、こんなことをするんですか」

「話をしたいがそんな気分ではないだろう。時間はあるんだ。お前の気持ちを吐き出すと言い」

「言われなくてもそのつもりだ」

 シモンは拳を作るとそれをゆっくりと開いた。

「増大する水滴(ヴァ―サ―トッピロウス・エイネン)」

 シモンの開かれた手のひらの上に拳大の水滴が姿を現す。

「なんだそれはなめてるのか」

ジークムントは手でゾンビ達にシモンを襲う様に指示した。

「睡眠波(ツァイツ・フ―・ベット)」

 シモンを中心に円形の波が周りを通り過ぎて壁に当たると消えていった。その波を受けたゾンビ達は全員倒れていった。

「なるほど。眠らせたか。確かにゾンビどもは外傷が無ければ再生しないからな」

 ジークムントはしっかりとシモンの挙動を視線の中心に置いているが一向にシモンが動き出さない。ジークムントはその様子を何の対処もせずに見ていた。だがすぐに今までの戦いの経験からなぜシモンが何もしないのかに気づく。

「・・・・お前コントロールだろ」

「・・・・・」

 シモンはジークムントの言葉に沈黙で答えた。

「時間が欲しいんだろ。さっき、お前が呼びだした奴の姿が見えない。そいつが時間を掛けると強くなる、もしくは特殊な力を持つかそんなところだろ」

「・・・・・」

 シモンは沈黙を繰り返す。

「静寂(ラーン・デル・シュツ―ラ)」

「そんな」

 シモンは閉じていた口を開いた。シモンは『増大する水滴』が無効化された事に気付いたのだ。

「お前の負けだ」

 ジークムントはゆっくりとシモンに近づいていく。ジークムントはシモンの頭をつかもうとするがシモンはそれを振りほどこうとする。

「はあ、面倒は終わりだ。負けたんだ話を聞け」

 そう言うとジークムントはゾンビに椅子を持ってこさせてそこに座った。

「え??」

「最初に話があると言ったんだがな。まあいい。ロザリンドの事だ」

「ロザリンドさん?」

「お前はあいつをおかしいと思った事は無いか」

「おかしい・・・?」

「そうか。そこから話すか」

「??」

「お前、名前は」

「シモン」

「そうか、シモン。これは俺の個人的見解だが人間は何も知らない状態で生まれてくる」

「??なんの話しだよ」

「まあ聞け。ここでいう知らないってのは体の動かし方から、知識そして人とのかかわり方もだ。普通は親がそれを教えていくもんだが俺はあいつに何もしなかった。だから、あいつは何も知らないままだ」

「な、何を言ってんだよ。ロザリンドさんは別に・・普通だろ」

「周りとのかかわり方を知らない者にとって居場所のない空間ってのはきついもんだ。そんな中でまともに居るために自分の殻に閉じこもるくらいしかそれを耐えることは難しい」

「き、聞けよ」

「それでも、大抵の人間は外部からのストレスに負け何らかのはけ口を探す。運が良ければそれをきっかけに居場所を作る者もいる。だが、あいつは不幸にも強かった。はけ口さえあいつには必要なかった。このままいけばあいつは間違いなくどうしようのない感情を爆発させるだろう。恐らく、最悪の形でな」

「そんなのあんたの勝手な推論だろ」

「お前はあいつが幸せそうに見えるのか」

「・・・」

「確かにな。他人が幸せかを考えることもそれをどうにかすることもいいとは言えない。だが俺はあいつの親で間違いなくあいつがこうなったのは俺の責任だ」

「そのためにこんな事をしたのか」

「ああ。俺とあいつとの関係性になんらかの大きな刺激を与える必要があったからな。だが、気が変わった。お前にあいつを変えて欲しい」

「お、俺」

「ああ、俺が与えたどんな衝撃もあいつは自分の居場所を守るために耐えようとする。それはお前が見たと言うロザリンドの表情から明らかだ。なら、今の状況であいつを変えられるのはお前だけと言う事になる」

「・・・・・」

「お前に選択肢をやろうと思う。一つは俺の言う事を一切無視して今までと変わらない関係をロザリンドと築く事、まあ上手くいく可能性は低いが。もう一つは俺の言う通りにあいつをお前の手で変えていく事だ」

「いきなり、そんなこと」

「このままだと俺がお前に命令している風になるな。この二つの考えをより分かりやすくしてやる」

「・・・」

「まず、前者だ。これは端的に言ってありのままのあいつを愛することを意味している。今のままでいいとそう言う事だな。そもそも、他人を自分が変えてやるなんて傲慢だとも言える」

「・・なら」

「そして、後者。さっき人を変えることは傲慢だと言ったがそれは弱者のいいわけだ。弱者はそのままでは生きていくことができない奴も多い。それは弱者が優れた知性や金、名声に食糧、環境を持っているかは関係ない。だからこその、弱者を導いてこその、強者だ」

「無茶苦茶じゃ」

「ああ、無茶苦茶だ。確かに同じような言葉を使って人の人生を踏みにじる奴はこの世に腐るほどいる。なら、どうすればいい。簡単だよ。責任だ。そんな屑どもと人を幸せにする人間の違いはな。責任を取れるかだ。自分が変えたもの、その変化がどんなものになろうがその責任が取れるかだ。」

「・・。少し考えさせてくれ」


  その頃、ボクやロザリンドは空いていた教室に避難していた。

ゾンビ達によって半強制的に廊下を移動していたロザリンドは先に廊下に出ていたボクの助けで近くの教室に逃れていた。

 「大丈夫みたいだね、ゾンビ達はいったみたいだよ」

 「ありがとう、あなたは」

 「ボクはボクっていうの、よろしく」

 「?・・・ボクって名前なのね」

 「うん」

  ロザリンドは廊下を時々通り過ぎるゾンビ達を隠れながら眺めている。

「怖いの」

「いいえ」

「ねえ、あなたロザリンドさんだよね」

「そうだけど、どうして名前を」

「ボクはシモンの友達だから」

「ああ、シモン君の」

「聞きたいことがあったんだ。付き合うってどういう感じなの」

「今、聞く事」

 ボクはロザリンドの顔をじっと見つめる。

「分かったわよ。・・・正直いえば、よく分からない」

「分からない」

「ええ、つき合えば人を好きになるんだと思ってたんだけどどうもそうじゃないみたい」

「ふーん。難しいんだ」

「そうね。難しいのかも」

「・・・・・」

 ボクがじっとロザリンドの顔を見る。

「何?」

「顔変わんないね」

「?」

「悲しい顔も嬉しそうな顔もみた事無いなって」

「!・そりゃ、あなたと私はそんな会う機会なかったから」

「遠くから見るときでもだよ」

「・・・・・・・」

 ロザリンドはボクに背を向けた。

 ここから、これからが彼女の物語。



静寂(ラーン・デル・シュツ―ラ)_発動後二十四時間の間、使用する相手一人につき一つの魔法に対してしか使えない。相手の魔法一つを無効化する

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