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突き抜けた魔導師との再会

 魔法の試験と恋愛事情の続きです。今回も戦闘描写が少なめなので注意してください。

 カリスマになるなんて簡単ですよ。人は強い人間に魅かれるものです。強くなればいい。唯それだけです。_せんせい。


 ヘリが街の上空を飛行している。乗っているのはヴェルナ―だ。いつものように白いローブを身にまとって窓の外の光景に目をやっていた。そこには多くのビルの街灯を見下ろす月の姿が見える。

「ヴェルナ―様。いよいよですね」

 ヘリを運転する執事がヴェルナ―に言った。

「ええ、久しぶりですね。彼に会うのは」

ヴェルナ―の乗ったヘリは街から離れ、空気が乾燥していく。岩と砂ぐらいの風景しかないような砂漠のとある施設にヘリは降り立った。

そこは刑務所だ。魔法が科学的に証明されたことで受けた弊害の一つに犯罪者の魔法の使用があった。この刑務所はそんな魔法使いを閉じ込めるためにある。

「では後ほど」

 ヘリを下りたヴェルナ―に執事が言った。

「ええ」

 ヘリが空に向かって行く。数分もしないうちにヘリは空中に消えた。

 ヴェルナ―はヘリの近くで待ち構えていた刑務所の警備員にIDカードを渡し、辺りを見回した。辺りにも見たことのある人物が多く集まっていた。色々な国の軍事関係者だ。

 通常は刑務所から出所する日を外部に知らせる事はしないがここに集まった多くの人間はそれを知っている。それだけ、ここを今日出る人物の影響力が大きいと言う事だ。

 そんな面々の中、ヴェルナーは想定外の人物を発見していた、ソフィである。ヴェルナ―はソフィを見つけ、話しかけようと近付くとソフィも近付いてきた。一人の男とともに。

「失礼ですがヴェルナ―さんですか」

 男は強烈な違和感を放っていた。何なのかは分からないがヴェルナ―はその男を普通でないと感じていた。しかし、視覚的には男は普通といって間違いはない。金髪で整った顔つきではあるが周りの男たちと同じような黒いスーツの普通の男なのだ。

「はい。そうですがあなたは」

「私はジョン・キングと言う者です。周りを見ると軍事関係者が多いのにヴェルナ―さんは彼の知り合いなんですね」

 ジョンはゆっくりとヴェルナ―に語りかける。

「ええ、彼とは同じ師匠の下で魔法を習っていた仲なんですよ」

「ヴェルナ―。あんまりこの男の前で情報をペラペラ話さない方がいいわよ」

 途中まで二人の様子を見ていたソフィがヴェルナ―に少し強い口調で言った。

「全く信用ないですね、ソフィさん」

 ジョンは残念そうな顔をヴェルナ―に見せる。

「あんたが世界最大の財閥の人間でなければ、もう少し信頼できるわよ」

 ソフィは毒を吐くようにそう言い放つ。

「世界最大の財閥と言えばキングですか」

 ヴェルナ―は驚いたようにその言葉を口にする。

「はい。そうです。私はその財閥会長の息子の一人です」

「そうなんですか」

 キング財閥と言えば陰謀論で名前を聞かないことのない多くの大企業を傘下にする世界で最も多くの金を動かす財閥だ。そして、語られる陰謀論の多くはキング財閥が世界の支配者だと言ったものだ。

「だから変な情報を与えるのは困ったことになるの」

 ソフィはそう言うと二人の間に入って会話を遮断した。

「ソフィ、それなら君はどうしてジョンさんと一緒にいるんですか」

 ヴェルナ―はもっともな疑問を割って入って来たソフィにぶつける。

「それは私が説明しましょう。彼女は私の護衛をしてもらっているのです」

 そういうとジョンは大げさな動作とともに片手でソフィを指し示す。

「護衛ですか」

 ヴェルナ―はなるほどと納得した顔でソフィの方を見る。

「こいつは言ってみれば世界で一番命を狙われる人間なのよ。跡継ぎ問題とかでだから退屈しないですむの」

 前述したような力を持つキング財閥は分かりやすく強大な組織であり、そのボスともなればその命を狙う者も当然多いわけだ。ソフィは言ってしまえば戦闘狂であり、多くの戦場を歩いていた事もある。

「なるほど」



 ヴェルナ―達が談笑していると何人かが刑務所から出てきた。その中に魔導師ジークムントの姿があった。

 そこに居る魔導師ジークムントを待っていた者たちはジークムントに何も感じなかった。黒い短髪の男以外の何も。

 魔導師は奇人、変人ばかりである。ヴェルナ―、トマス、ソフィはもちろんそれ以外の魔導師も例外などない。それは当然の事だ。魔導師は例外なく普通でいる事ができないような力を持っているからだ。そして、その異常性はなんらかの形で視覚的に理解できる。だが、ジークムントからはそれを感じない、何も。

 ジークムントは挨拶をしようとする各国の軍事関係者を無視してヴェルナ―のところに来た。

「久しぶりだな、ヴェルナ―。ここには面倒なものが多い。場所を移動しよう」

 それを聞いてヴェルナ―は執事に迎えを呼ぶために携帯を取り出した。

 男たちは何も言わない。ここでジークムントの評価を下げるわけにはいかないからだ。ジョンを除いて。

「ジークムントさん。私はジョン・キングと言う者です。できればあなたに私の仕事を手伝っていただきたいのですが」

 それは極端で端的に二人の真逆の異常性が対立した瞬間である。強烈な違和感とそれを飲み込むかのような成熟との対立。

「それは無理だ」

 そう言うとジークムントはジョンに背を向けた。ジークムントは何の関心もジョンに抱かなかった。それはある種の敗北でもある。

「それではジョンさん、ソフィ。私は失礼します」

「ええ、また会いましょう。ヴェルナ―さん、ジークムントさんも」

「また後でね。ヴェルナ―」

 ヴェルナ―とジークムントはヘリの着地点に向かう。



 しばらくしてヘリが到着する。

「久しぶりだな、執事」

「お久しぶりです。ジークムント様」

 ヴェルナ―とジークムントはヘリに乗り込んだ

 ヘリは空に向かって消えていった。

 残された者たちも迎えを呼び、自国への報告を始めていた。

「ソフィさん。想定内ですけど、ショックですね。無視は応えます」

 ジョンは少しテンションを下げてそう言った。

「嘘を言っても慰めないわよ」

 ソフィはそう言うと迎えを呼んだ。

「全く、魔導師の方たちは面白いですね」

 そう言ってジョンは空に輝く月に目をやった。



 上空、飛行するヘリのなかでヴェルナ―はジークムントに疑問を口にした。

「魔導師になる交換条件、よく満たせましたね」

 そもそも、ジークムントが刑務所に閉じ込められた理由はジークムントがマフィアのボスでありながら魔導師になろうと世界連盟に申請した事が関係している。

ジークムントの実力が魔導師である以上、どの国もジークムントが魔導師になることに反論する国は現れない。なぜなら、反論はその国の滅亡と同義語であるからだ。魔導師にはいかなる障壁や策を講じても無力と言い切れる力があるからだ。しかし相手はマフィアのボス、魔導師になんてしたらどうなるか分からない。だからこそ、各国は条件をジークムントに出した。それが2年間刑務所で過ごす事とその期間の間、同じ刑務所の全員が脱獄を防ぐことである。

「ああ、まあな」

その条件は当時の魔法を使う犯罪者の増加が関係している。魔法を使う犯罪者が生まれた事によって、各国はその対処に困っていたのだ。それなら、大きい刑務所を用意してジークムントに看守をやらせればいいと各国は考えたのである。

「脅したんですか」

 ヴェルナ―はさも当たり前にジークムントにその言葉をぶつける。

「普通はそう思うか」

「じゃあ、どうやったんです」

 ヴェルナ―は驚いた顔でジークムントの方を見る。普通に考えて脅しを用いずに他人を、それも犯罪者を二年もの間管理することは無理に等しい。当たり前だ。当たり前なのだ。

「全員と友達になった」

「・・・・。ははは、本当なんですか」

「こんなつまんねえジョークなんて言わねえよ。あんな狭い空間、俺が魔導師であるっていう優位性、看守は飯を持ってくるだけで注意なんてしない、退屈な日常。これだけ良い条件そろってできないわけがない。まあ、連盟の奴らは拷問でもすると思ってたみたいで俺に死体の処理はしてやるとか言ってきたが」

 ジークムントは不満そうに大げさにそう言った。

 異常性、それを持って人は魔導師になると言ってもいい。ジークムントの異常性は人に悟られず、人に違和感を与えず、人と歩く力。いってみるならジークムントの異常性はその異常性が一切感じられない事にこそある。一切の人としての強い癖が感じられない。逆にジョンから感じられた違和感は強烈なる個性、自分は只者ではないと相手に理解させるための威嚇。同じ表現を用いれば、ジークムントのそれは相手を取り込む捕食といった具合だ。

「ええと、囚人は千人近くいたと思うのですが」

 ヴェルナ―は呆れたようにジークムントの行った行為の異常性を言葉にする。

「流石に同じ奴に何日も構ってたわけじゃない。退屈な奴らどうしの人間関係を良好に管理しただけだ」

 人は人間関係を生きている。どんな人間においても人と関わらない生き方など出来ない。そんな人間社会をして当然、人間は関係を作るが誰もが誰もと仲良くはできない。仲良くなろうとすることはできるし誰にでもやれるが仲良くさせる事は運としか言いようが無い。通常はありえないそんな通常を、常識の道を踏みしだくが故の魔導師なのだ。

「それが普通じゃないんですが、私はてっきり前みたいに洗脳でもするのかと」

「洗脳か。あんな能力が無い人間がやる手段つまんねえだろ」

 わかってねえとでも言わんばかりにジークムントはオーバーなリアクションで答えた。

「はははは。あなたらしいですね。でも、相手はならず者たちでしょ。いくら相手にするのを慣れていてもよく一人も逃げ出しませんでしたね」

「まあ、何人かには実力行使もしたがあの手の奴らは実力行使してもやるからな。それなら、外に出たくなくさせる方が簡単だからな」

 多くの人間にとって本質的に幸せの前提としての人間関係がある。例え劣悪な環境であっても、それ以上の人間関係をその環境で形成出来れば多くの人間はそれに満足するだろう。その考えが正しいなら当然、牢獄という環境でもそれは言える。確かに、確かに成立はするのだ。

「簡単ですか」

「あ、友達少なかったお前には羨ましいか」

「はいはい」

 ジークムントはヘリの外の景色を見ると執事に下ろすように指示した。

「ここでですか」

 そう言うとヴェルナ―も外の景色に目をやる。

「ああ、あいつらにこれからの話をしてくる」

「マフィアの方たちですか」

「まあな」

 ヘリはビルの屋上に止まった。ジークムントは屋上からビルから飛び降りた。ジークムントは当然落ちていくがヘリに残った二人は当たり前のようにそれを見届ける。

「相変わらずですね」

 


 とあるバー、そこには何人ものスーツ姿の男たちが集まっていた。そこにジークムントが現れる。男たちは全員ジークムントの方を向いた。ジークムントが今日出所することはマフィア達は知らなかったがマフィア達の多くがそれを確かに祝福していた。

「出所おめでとうございます、ボス」

 ジークムントは部屋の奥の椅子に腰かけた。

「ああ、これで俺は魔導師だ。そして、本題だ。俺はマフィアを辞める」

 ジークムントのその言葉を聞いたマフィア達は全員その言葉を理解する時間を必要とした。

「な、何を言ってんですか」

 多くのマフィア達が納得がいかないのか声を大きく、撤回を求めた。

「お前らなら大丈夫だろ。今年、何人か魔術師が入ったって聞いたぞ」

 ジークムントはマフィア達の言葉を意に介さず、話を続ける。

「そうですが、俺たちはボスあっての」

 それでも当然マフィア達はジークムントに撤回を促す。

「心配しなくても名前は貸す。よっぽどのことがあれば手も出す。だがボスは辞めだ」

 それでも何の表情の変化も見せずジークムントは言葉を並べていく。

「何でですか」

「飽きたんだよ。色々な組織に属した、ありとあらゆる人間が紡ぐ関係の糸を理解するためにな。だから、この世界の人間の考え方は理解した。それだけだ」

「なんですか、それ」

「言ってんだろ。ボスは止めるが名は貸すと会長にでもしとけ。俺はやりたいことをやってくる。止めるか」

「私たちでは無理です」

「よく分かってるな」

ジークムントはバーから出た。マフィア達は後を追おうとしたがすぐにジークムントは姿を闇に消した。



 ジークムントはヘリの待つ屋上に戻って来た。

「待たせた。俺の家に行こう」

「なんかやって来たんですか」

「マフィア辞めてきた」

 ジークムントはただただそう言葉を並べた。

「そうですか」

「驚かねえな」

「飽きたんでしょ」

「まあな。あの世界なら面白いものが見れると思ったんだがな。おんなじような人間ばかりだった」

 ジークムントは天才だ。そんなことを言ったら、ヴェルナ―、トマス、・・・・・と何人でも思い当たる人間がいるがジークムントは彼らと違うタイプの天才、いや怪物だ。カリスマ、人たらし、表現はいくつかあるがそのどれでもない。ジークムントは研究者だ。人間関係というものを考え、学び、作り、壊す。そう言う生き方をしてそう言うものを学び、人を楽しむそんな魔導師だ。

「では次はどんな組織に」

「それについては家に帰って話すわ」

「では出発いたします」

 ヘリは空に消えていった。



 ジークムント宅、そこにはロザリンドの姿が会った。ロザリンドの父親がジークムントであるからだ。

「パパ、おかえり」

 ロザリンドは目に涙をためてジークムントに抱きついた。

「粋なことするな、ヴェルナ―。お前が連絡したか」

「ええ、おかげでいいものが見れました」

 ロザリンドはジークムントを多くの料理がテーブルに置かれた部屋に連れていった。

「パパ。時間が無くてこれしか作れなかったけど」

「は、これを見て喜ばない人間がいたら俺がそいつを始末するさ、ロザリンド」

 ジークムントはロザリンドの頭を撫でた。

「さあ、食べよう」



 三人は料理を食べ終え、食器を片づけた。

「さて、ヴェルナ―さっきの質問だが」

 ジークムントはヴェルナ―にグラスを渡し、それにワインを注いで話した。

「ああ、これからの事ですか」

「俺は刑務所で少し考えてな。俺がしたい事をな。そしたら、思いついたことが面白い奴と話すことだった」

 そう言うとジークムントは自分のグラスにワインを注ぎ始めた。

「面白い奴と話すですか」

 ヴェルナ―は自分のグラスのワインを泳がせる。

「ああ、俺という人間は人間に興味があると言う事をこの2年間で嫌と言うほど知ったからな」

 2年間の間、多くの人間関係の海を泳ぎ切ったジークムントにとって人間関係を見ることには飽きが来ていた。ジークムントが次に興味を持ったのは人間の生き方そのものである。

「人に興味ですか」

「お前が科学に興味を持つのと同じようなもんだ。俺は人を選んだ。だが、お前とは少し違うな。お前が科学を好きなのは興味だが、俺は手段としてだ」

「手段ですか」

 ヴェルナ―はそう言って口にワインを含む。

「手段と言っても、利用するってもんじゃない。幸せになるためさ」

「ぷ、はははは」

 ヴェルナ―は大きな笑い声を上げるとジークムントの顔をまじまじと見つめた。

「なんだ、お前」

 キョトンとした顔でジークムントはヴェルナ―を見る。

「いえ、あなたの口から幸せという言葉が出るとは」

 ヴェルナ―は腹を抱えて笑い始めた。

「うっせえ。俺も理解はしているよ。だがな、本来人間は本質的にそれを求めるものだろ」

「まあ、そうですね。なんだかんだいって人はそれを求めて生きていますからね」

「それを手にするために人と話に行こうと思ってな」

 ジークムントはそういって口にワインを含んだ。

「なるほど」

「まあ、最初はヴェルナ―、お前からだ。次はロザリンドだ。聞かせてもらおうか。お前らの幸せの法則を」

 そういうとジークムントはヴェルナ―とロザリンドに目をやった。

「はいはい」

「分かったよ、パパ」

「そういや、ヴェルナ―から聞いたがロザリンドつき合ってんだって、落ち着いたら相手を紹介しろよ」

「・・・うん、パパ」

 ロザリンドは少し考えてそう言った。



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