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掌編小説/中世物語 『最強傭兵』

 15世紀終りごろ、南ドイツ・ミンデルハイム郊外の荘園屋敷だ。

 ドイツは神聖ローマ帝国を名乗っている。坊ちゃんこと帝国騎士ボルハイム卿は、次期皇帝たるローマ王の命を受け、各地を監察する旅の途上にあった。ぼっちゃんの馬に乗せてもらい供をした。

「ねえ、アンジェロ、この近くに恩人がいるんだ。寄っていくよ」

 居間にある暖炉の火が燃え盛っている。

 屋敷の主は老騎士だ。その人が、坊ちゃんにいった。

「長男に家督を譲る。あの子には、家を残すためには、あまり多くの遺産をわけてやれんのだ」

 あの子と呼ばれた息子は、ゲオルク・フォン・フルンツベルク。赤毛をした大柄な体躯の青年だった。6フィサ(180センチ強)はあろうか。立派なものだ。老騎士は、友誼のある坊ちゃんに、次男坊を紹介した。フルンツベルク家は、ささやかな荘園を所有する小貴族だった。家の勢力を保つため、長子が領地の多くを継ぐのは当然のことだ。

「君は将来なにになる?」

「傭兵になります!」

 青年はきっぱりとそういった。

     ☆

 しばらく経った。

 ローマ王とはドイツ王のことである。現在のローマ王はマクシミリアン。オーストリア大公であり息子フィリップが統治するブルゴーニュ公の摂政でもある。その人が宿敵フランスと度重なる干戈を交えているのはいまに始まったことではない。各地のい者は、騎士の資格をもった口入屋と契約し、募兵特許状をだす。

 戦争間近の街ゆかば、口入屋どもが、跳梁跋扈さたものだ。

「そこのお兄さん、ええ身体しとるのお。うちの傭兵隊に入らないかい? 月給は4グルデンで3か月の契約期間だ。しかし実働は28日。そこがうちと他の傭兵隊との違いだな。連隊長護衛兵に出世すれば8グルデン。旗手10グルデン。連隊長は20グルデンだ。働きによっちゃあ、騎士の叙勲も夢じゃない」

 百姓の二男坊三男坊は喰い詰め物で、ろくな財産というものがない。その言葉をきくと目を輝かせる。4グルデンといえば職人の親方と同じ収入ではないか。その甘美な響きに騙されると、契約書にサインさせられる。文字など読めぬ連中だから内容をまともに知ることはできない。

 新兵は2グルデンの長槍をつけで買わされる。手付金の40クロツァーをもらったまま姿を消す不届き者もいるにはいるが、大半は残って閲兵式に臨む。

 演習が始まる。

 例の小貴族二男坊・フランツベルクは、小隊・百人隊長に出世していた。中隊は小隊・百人隊を4つ束ねた都合400人で編成される。

 傾奇者である連中の衣裳はばらばらだ。花飾りのついた帽子、左右の色が違ったストライプの靴やタイツ、透けていたり、ひだのついた上下、はたまた、男根を強調する前当てをつけ、ド派手だ。

 青年はなんと、抜刀小隊バルキリギオンに入っていた。中隊内でも精鋭をそろえた100人隊だ。バルキリギオンの、バルキは黒を、リギオンは軍団を意味する。この中核部隊は、黒装束で統一されている。中隊が12個そろって連隊をなし、6000名の隊伍を編成するというわけだ。

 対するフランスが雇うスイス傭兵はどのようなものか。各州が外国に貸し出す部隊を54000名抱えている。小隊の編成は、前衛56人後衛24人で80人隊を形成し、それを束ねて5000から10000の連隊を形成している。想像ではあるが80人隊5個をもって中隊としていたのだろう。

 演習場はバイエルンの都城の郊外だ。そこで、ドイツ傭兵4個中隊400名と、宿敵スイス傭兵に扮した400名とが激突する。

 両軍中隊陣営は、長槍パイク戦斧せんぷ、そして両手でもつ長剣ツヴァインハンダーで武装した小隊・百人隊で構成されている。まずは長槍パイク隊でぶっ叩きあいをする。ある程度やりあったところで、フランツベルク小隊長率いる抜刀隊バルキリギオンが長槍の柄をなぎ払う。続いて戦斧を手にした隊が掃討にかかるというわけだ。

     ☆

 1524年秋、イタリア北部の都市パヴァイアだ。ドイツ傭兵・ランツクネヒト4000が城市を守備し、周囲をフランス軍20000が包囲した。飢えに苦しむ同胞を皇帝カール5世は見捨てず、20000弱の援軍を送った。

 皇帝軍主力ランツクネヒトを指揮するのは、先代マクシミリアンによって帝国騎士に叙勲されたフランツベルクを含む歴戦の傭兵隊長たちだ。

 敵味方の野戦砲が火が噴いた。

 ――野戦砲は頭を低くしていれば、そうそう当たるものではない。

 諸隊の兵が身をかがめつつ、素早く動いて敵の砲火をくぐりぬける。大砲は城塞・城壁を崩すには有効だが、対人兵器としては未完成品だ。大砲を小型化した火縄銃ほど効果的ではない。

 ジャンヌダルクが活躍した百年戦争時代の甲冑を身にまとった敵・フランス王国の騎士がこっちに突っ込んでくる。

 帝国火縄銃鉄砲隊1500名が斉射する。

 王国騎士がばたばた倒れた。

 刹那、方陣を組んだ帝国のフランツベルクの隊伍6000名が、ほぼ同数であるフランス王国麾下にあるスイス傭兵と白兵戦を開始した。長槍パイク小隊が繰り出してしばらくぶっ叩き合いをする。やがて抜刀小隊バルキリギオンが突撃して長槍をなぎ払い、そこに、戦斧小隊が突進して敵陣形を瓦解させた。

 ――勝った。

 無敵スイス傭兵隊が、ドイツ傭兵隊ランツクネヒトに最強の座を明け渡した瞬間だった。

 フランツベルク隊長は、フランス国王フランソワ1世を捕虜にするという武勲をあげ、英雄になった。

 坊ちゃんも歳をとったものだ。監軍の職務で、皇帝に代わって傭兵隊長たちの論功行賞を行うため、彼の地へやってきて督戦していた。白髭の坊ちゃんは、なにもいわなかったのだが、一瞬、ほくそ笑んだのを覚えている。

 ところで、おまえは何者かって?

 ――俺かい? 猫だよ。

     END

引用参考文献/

 ●菊池良生 著 『傭兵の二千年史』 講談社 2002年 76-110頁 (傭兵隊の構成・募兵に関して)/●マイケル・ハワード 著 奥村房夫・奥村大作 訳 『ヨーロッパ史における戦争』 中央公論社2010年 60-62頁  (大砲に関して)/●市川貞春と怪兵隊 著 『幻の戦士たち』 新紀元社 1988年104-106頁 (ランツクネヒトの構成に関して)

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