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掌編小説/中世物語 『パン屋の親爺』

 エクソシストが、泥棒が入った家に招かれた。

「汝・盗賊のためのパン、塩とラードを火の上においた。それは汝らが罪と罰。汝の肺・肝臓・心臓をパンの上におく。死ぬまで苦しむだろう。呪術は盗品をまた元に戻すまで続くのだ~」

 かまどに置いたパンの上面には十字の斬り込みが入れられる。

 この呪文を三回唱えて帰ってゆく。

 泥棒のあった家では盗賊やら悪魔に対する呪符としてパンがよく使われた。

.

 ドイツのとある田舎町だった。

 魔除けのパンを焼いたパン屋の親爺は、同業者組合ツンフトに加盟している。街の一角を縄張りにし顧客をもっている。見習いが何人かいてそこそこ繁盛していた。需要が高まるクリスマスになると近隣農村のパン屋が町にやってくるので不機嫌だ。昔からの習わしだから仕方がないのであるが。

 親爺は城市まちの外にある農村の親戚・葬式に顔をだした。

 葬儀の帰りに荘園のパン屋をのぞく。

 荘園のパン屋は農民から粉を預かってパンを焼き、パン焼き賃として、いくつかのパンをもらう。このとき、大きいのをとってはならないとか、依頼人である主婦がパンをひっくり返していいとかいう権利がある。小細工していないかみるのだ。

「町なら金で取引する。物々交換かよ。やだねえ、田舎は……」

 親爺はぶつぶついいながら城壁で囲まれた町に戻ってゆく。

 パン屋の同業者組合ツンフトへの加入には。賤民出身者ではない証明書、市民権を取得していること、そして教会への寄付金及び組合加入金納付が必要だ。

 町のパン屋は、ブランド店で修行したという自負があるエリート職人だ。ゆえにエリート荘園のパン屋を小馬鹿にしているというわけだ。

 町の法律では、白パンには大麦を混ぜてはならない。だが飢饉になると、小麦に砂・漆喰・石灰・灰、ほかに刻んだ樹皮・藁・布、骨粉なども混ぜられることがある。

 あるとき顧客の小母ちゃんが、小麦に石灰をまぜているところを目撃した。

 小母ちゃんは市参事会にチクった。

 強面の自警団の兄さんたちが踏み込んでくる。

「ぎゃ~、あの刑だけはご勘弁を~」

.

 さてさて――

 12月20日、低地オーストリアでは、嵐を避けのまじないとして、屋根の棟気の上にパンの材料になる小麦粉と塩を置く。悪戯な風の妖精に捧げるのだ。なくなっていれば、彼らがこの供物をもっていったことになる。

 また14世紀の高地オーストリアでは、聖ロリアン教会において、パンをつかった降雨量占いがされていた。

 パン焼き竃は、半球形をした土製のものと、石製のものがあった。

 土製のものは発酵させないナンタイプのパンを焼く。パン焼き専門の竃だ。

 石製のものは、パン以外の調理もできるので重宝され、やがて主流になる。オーブンのようなものだろう。特に一般家庭では便利である。

 パン屋の同業者組合ツンフトは17・18世紀に衰退する。

     了

.

 引用・参考文献

  阿部謹也 『中世を旅する人びと』 平凡社 1978年

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ノート20130815


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