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掌編小説/中世物語 『ローエングリン・白鳥の騎士伝説』 4/4

 貴公子がいった。

「姉と狩りにでていたとき、父母を毒殺し、私を刺客に襲わせ、すべての罪を姉エルザに着せた者は宰相テルラムント。彼は黒竜を倒したのではなく、身体を乗っ取られている。殺され、スヘルデ川に遺体を沈められた私は、姉の危機を知り、白鳥の身を借りて、アーサー王の騎士に助力を求めたのだ」

 いままで、宰相に忠節を誓っていた公国の家臣、臣民は、真実をようやく知った。

「もはやこれまで」

 と、宰相が佩剣を構えて最後の突進をするのを、ローエングリンはひらりとかわし、その際、自らの長剣を、敵の鎧のつなぎ目から腹に、深々と刺し貫いてしまった。

 宰相は両膝を地面に落とし、信じられない、といった顔をして腹から噴きでる血しぶきをすくってみて目を丸め、それから、天を仰いで咆哮した。その身体は巨大な、翼竜となり、しばらくの間地面をのたうちまわって、やがて動かなくなった。

 軽くなった。……なんだ、この解放感は。本来の私は、ストックホルムで黒い翼竜に苦しめられていた人々のために立ち上がり、討伐にいったのだ。黒竜の身体はたしかに倒したのだが、逆に、わが身体は奴に乗っ取られてしまった。ローエングリンは、公子・公女、公国臣民を救い、そして私まで救った。

 竜の遺骸から、解放された、黒騎士テルラムント伯爵が現れた。しかし半ば透けてむこう側の風景がみえており、そこにいた人々は、異界の住人になっていることが理解できた。本来は、苦しむ人々を見捨てない、情けにあつい、聖騎士だ。

「――公国騎士たちよ、臣民たちよ。ローエングリンにより、私は黒竜の呪縛から解き放たれた。正義は復活したのだ。私はエルザ姫を公国の君侯として承認することをここに宣言する!」

 その場に立ちすくみ呆然とたちすくむ人々は、笑みを取り戻し、

 ――女公陛下万歳!

 と叫んだ。

 皇帝は被告席のエルザに刀礼し、正式に諸侯の列に加えた。

 やがて、若い騎士が、少年の肩に、伯爵の肩に手をやった。

「ゴットフリート君、そして、黒騎士テルラムント伯爵。さあゆこう、異界へ、聖杯騎士団の王国へ」

 聖杯の騎士にいざわれた少年と黒騎士は、皇帝に、それから、姫君に一礼すると、光があふれてまぶしい穴のむこうに消えていった。

 ――愛する私の弟・ゴットフリート、聖杯騎士ローエングリン、ありがとう。私、強くなる。ブラバンドを素敵な国にする。誓うわ!

   ☆

 さて舞台はかわって、十五世紀第四四半期、ブルゴーニュ公国領ブラバンドだ。

 その公国都城ブルッヘにあるプリンツェンホフ宮殿では、夜会が催され、『ローエングリン・白鳥騎士伝説』が上演されていた。観客席にいたのは、マリー女公と継母のマーガレット太后だ。

「あの、あの、母上、たしか、ローエングリンはエルザ姫と結婚するのでは? それで、やっつけられた宰相の奸計で、素性をきかざるを得なくなった。そのとき宰相が一味を連れてきて二人を襲う。聖杯の騎士が、宰相を返り討ちにしたので、魔法をかけられていた弟・ゴットフリードが白鳥から公子に戻る。タブーの封印を破られた騎士は、公国を出国せざるを得なくなる……そういう筋だったんじゃなかったかしら?」

 太后は大パトロンで、多くの芸術家たちを宮殿内に住まわせていた。

「脚本家・アマミーノに命じて書き替えさせたのです。だって、原作にでてくる姫は超おバカだし、第一設定がでたらめ。……聖杯騎士団の規約って知ってる? 童貞じゃなくてはいけないの。いくらなんでも結婚したりしちゃ反則でしょ。白鳥は死者の鳥だ。これが人間に戻ったら、化け物になるし」

 横の席に座っていたブルゴーニュ公国女公マリーの婿旦那・大公マクシミリアン、そのまぶだちで帝国騎士のボルハイム卿、そして俺は押し黙った。黙ったまま拍手した。

 赤毛の坊ちゃん・ボルハイム卿がつぶやいた。

「脚本は、ローエングリンやエルザ姫よりもはるかに、黒騎士テルラムントに感情移入しすぎでは?」

 太后がいった。

「ヒーローとヒロインは、客引きよ。本当に味わい深いのは過去に傷をもった人間。竜殺しの黒騎士テルラムント卿は実に魅力的だと思わない?」

 金髪のあんちゃん。……もといハプスブルク家から婿入りしてきた若い大公マクシミリアンはコメントを避けた。

 立派な国づくりをするだと? ……女性の自立ってことだね。なるほどね。ローエングリンが去ったことで、悲嘆にくれたエルザ姫が悶死する場面をつくりかえちまった。ふう、太后、貴女は凄すぎだ。

 ああ、そうそう。そういう俺は何者かって?

 ――俺かい? 猫だよ。

     END


ノート20140315


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