表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/100

掌編小説/中世物語 『ローエングリン・白鳥の騎士伝説』 3/4

 皇帝や公国宰相がスヘルデ川をみやる。すると一艘の小舟が浮かんでおり、白鳥はそれを先導するかのようにこちらにむかわせているかのようだ。

「な、なんなんだ、あの白鳥は? それに舟に乗っている者は? あの甲冑に佩剣、騎士のようであるな」

「ふっ、白鳥の騎士というわけか。おもしろい趣向だ。しかしコケオドシで、『龍殺し』の異名をもつ、この私・帝国騎士テルラムントを討てると思っているのか?」

 群衆が道を開けた。そこを船着き場に小舟を係留させた騎士は、颯爽と広場に歩きだし、皇帝の前で片膝を着いた。

「異国の騎士だな? 名は?」

「ローエングリンと申します」

 若い騎士だった、銀兜を小脇に抱え、顔をみせると、金髪碧眼。男にしては線が細い。

「なめられたものだ」

 テルラムントがつぶやく。

 エルザ姫の侍女が駆け寄ってきて、若い騎士にきいた。

「貴男様が姫に代わって神前裁判で戦って下さるのですね?」

「触書を読みました。ゆえにここにいます。ただ、決闘の代理人となる代わりに、ひとつ約束して欲しいのです」

「どんな?」

「いろいろとわけありでして。……私の素性を問わないで欲しいのです」

 侍女は、被告席に座っているエルザに、異国からきた騎士の言葉を伝えた。風変わりな条件ではあるが、この際、さしたる問題ではない。それで、ローエングリン卿に全権を委任したというわけだ。

 決闘に必要な、最小限の作法をおこない、騎士二人が広場でむきあった。

 広場中央にロープが張られいた。

 騎士二人は、長槍をたずさえて広場の両端に陣取っていた。

 西が黒甲冑のテルラムント。東が銀甲冑のローエングリンだ。

貴賓席に座る主審の皇帝が手を挙げた。角笛が鳴らされ、四人いる副審たちが剣でロープを断ち切った。決闘開始を告げる合図だ。

 二人の騎士が土煙をあげて、コート中央で槍をぶつけあう。このときの衝撃で、青年はのけ反る恰好で、後方に弾き飛ばされた。

 副審たちが、ローエングリンにきいた。

「降参するか?」

「なにを、まだまだ」

 青年は不敵に笑みを浮かべた。

 被告席のエルザ、そして横に控える侍女は目をつぶって、一心に祈っている。

 若い騎士の長槍は折れてしまっていた。そこで彼は、鞘から長剣を引き抜いた。

 駒のきびすを返した黒騎士・テルラムントも笑みを浮かべた。

「わが一撃をかわしたか。大抵はここで死ぬ。褒めてやろう」

 神前裁判での決闘は神聖なものである。ゆえにフェアであることが求められる。馬を降りて、ローエングリンが長剣を引き抜いたので、主審や副審たちは、宰相テルラムントに、下馬して長剣を抜くように命じた。

「運のいい奴め」

 広場を囲んだ群衆がどよめいたた。

 ――竜殺しの剣・バルムンク!

 かつて、黒騎士がストックホルムの竜退治にでかけたとき、いまは亡き前公爵が、彼に与えたものだ。それはかつて、公爵家の先祖であるネーデルランド王ジークリードが佩剣としていた伝説の名剣だった。

 宰相が鞘を抜き放つ。

 途端、龍が咆哮するかのような轟音が起り、旋風が若い騎士を後方に吹っ飛ばす。ジークフリード、テルラムントの二人が、それぞれ竜を仕留めたことによって、聖剣の霊験は強烈さを増していた。

 黒の帝国騎士が駆けだす。大剣が、青年の胴をめがけて、勢いよく叩きこまれた。

 キーン……。

 火花とはまさしくこういうものか、というくらいド派手な火花が走った。

 折れぬ……。

 宰相がつぶやいた。

 姫君と侍女は抱き合って、もはや、決闘などみていられないというふう。

 貴賓席の皇帝は、

「竜殺しのオルトルートと互角にやりあうとは。……やるもんじゃわい」

 と興奮気味に叫んだ。

 しばし広場中央の二人の騎士は鍔迫り合いをやった。

「埒が明かぬ」

 そこは二人、合意したとこだ。うなずくと、さっと、後方に跳び退く。

 二人は巴を描くように決闘場を旋回し、やがてそれぞれが、間合いに飛び込み、大剣を相手に叩きこんだ。

 キーン……。

 再び剣がぶつかりあう音がした。

 そこで群衆は当初の予想を覆し、龍殺しの騎士が、無名の若い騎士に敗北するという意外な結末をみることになる。宰相の大剣バルムンクが後方に回転しながら弧を描き、地面に突き刺さる。すかさず、若者は宰相の鼻先に自らの佩剣をつきつけた。

 神前裁判の場は、しん、と静まり返った。

 やがて、主審である貴賓席の皇帝、続いて決闘場の副審が、手をかざし、

「勝負あった」

 と宣言した。

 こうしてブラバンドの地に、また、新しいヒーローが生まれた。

 尻餅をついていた伯爵は、起き上がるとき、憎々しげにこんな言葉を吐いた。

「この若者は神前決闘の場で、魔術をつかいおった。悪魔だったのだ。」

「テルラムント、見苦しいぞ。……といいたいところだが、たしかに、奴とやりあって打ち負かすなど、この世の者にできることではない。あり得ぬことだ。悪魔の力を借りねばできぬ話しだ」

 そこにきてエルザ姫が訴えた。

「悪魔の力を借りた? ただの試合ではありません、神前裁判なのです。宰相が敗北したのは事実。神の力が悪魔に屈する道理があるのですか?」

 皇帝は、「ううむ……」と唸った。

 だが宰相はひるまない。

「素性を明かさぬ騎士とは何者ですかな? 薄暗いところがあれば、名乗りのときに何者かを明かすのがマナーというもの。できぬということは神に背くおこないをしているからだ」 

 エルザ姫は若い騎士のところにやってきて手をとった。

「貴男はわが生命の恩人。婿に迎えるべき御方。しかし素性を明かさねば、騎士対騎士の神前決闘ではなかったことになり、勝利そのものが無効となってしまう。私と公国を貴男に差しだすことがかなわなくなる」

 ローエングリンは黙っていた。

 皇帝も宰相の説に理があるとうなずく。

「やはりそうだ。こやつは悪魔だ!」

 宰相のもとに、近習が駆け寄ってきて、後方に弾き飛ばされた佩剣バルムンクを差しだす。

 若者は皇帝、宰相、そして姫君の顔を順番にみやった。

「いいでしょう。素性をいいましょう。私は聖杯騎士団の者――」

 聖杯騎士。

 その言葉に、世界をとりまく空気が反応した。なにかぽっかりと穴が空いたようで、そこに木葉や土埃が吸い込まれてゆくではないか。

 川に浮かんでいた白鳥が飛んできて舞い降りる。

 ――ゴットフリート公子!

 白鳥は、見目麗しい少年に姿を変えた。行方不明になっていたはずの、ブラバンド公国の嗣子ではなかったか。 

 公国家臣・臣民は息を呑んだ。


     We will see you in addition everyone,

     Story of "Lohengrin" is continued in next time.


ノート20140314

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ