掌編小説/妄想探偵事務所 『金魚屋敷とジム屋敷』
群馬県にある家内の実家にゆくと、そこの照明をつけるのが厄介で私を苛つかせたものだ。
「かえって面倒だな」
ブツブツ私が文句をいっていると家内が笑っていた。
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夏の終わり、宮城県のとある遺跡調査に加わることができた。難易度が高い水田遺跡で、調査方法というのも、この土地特有のやり方だ。
遺跡事務所と駐車場、調査対象区のある敷地は方形で、二万平方メートルはあるだろうか。そこに隣接して、豪邸が数軒建ち並んでいる。私が現場を観ている間に、事務処理やら各種手配なんかをやっている所長・主任調査員のシバタ氏が、周辺の家に挨拶をして周った。
シバタ氏は以前勤めていた会社・アークの先輩だ。その会社が潰れて、一部の業務を引き継いで受け皿になった会社・フィールドに就職した。フィールド社には、アーク出身者が多数いた。そういう気安さがあって短期契約を結び、アルバイト感覚で現地調査を行っている。シバタ氏は長身で日に焼けている。俳優の柴田恭平に似ていた。アーク社にいた若い頃は、女子ウケして、女の子がランチタイムにくっついてくる。現在の奥方様との結婚に関しても、口説いたのではない、押し掛けてきたのだ。少し髪は薄くなったが中年の色香を漂わせてる。
そのシバタ氏が、挨拶回りから戻ってきたので、事務所の前で立ち話をした。噂をしていたのは遺跡敷地に隣接した豪邸群のうちの一つだ。
「豪邸ですねえ、シバタさん」
「豪邸だねえ、奄美君。右の家は金魚屋さん。プラスチックの大きな容器がみえるだろ、あれが水槽だ」
「左の屋敷は?」
「稼業は判らないが金持ちであることには違いない。新体操をやっている娘さんのために、ジムをつくったんだ」
金魚屋敷は、イタリア風の二階建てで、母屋と離れを連結した構造となっている。ガレージに停めてあるのはリムージンと金魚を運ぶためのワンボックスカーだ。屋敷の主は、遺跡にむいた裏庭で、いつも、携帯電話で取引先と電話していた。
ジム屋敷は敷地こそは金魚屋敷と同じくらいあるが少し小さい。自家用車は停まっていない。ジムはアルミパイプを組み合わせ、プラスチック板で屋根をふき、壁はビニールシートで囲った簡素なものだ。しかし骨組はかなり重厚にできていた。
「変ですね。壁代わりのシートがぼろぼろじゃないですか。半年前に覆ったのだろうけれど、取り換えるか解体するころだと思いませんか?」
「うん、変だ」
こういう背景はどうだろう。
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ジム屋敷の娘さんは高校で新体操をしていた。まずまずの成績。親御さんはそれが自慢で、ついに庭先にジムをつくってしまった。そして娘さんは、この春、無事、高校を卒業。東京の体育大学に入学する。娘さんが帰ってきたときに練習できるように、ジムは解体せずにそのままにしてある。
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そこで疑問が湧いた。シートがぼろぼろなのは、娘さんが帰省しなかったからか。あるいは新体操をやめて、いまは使っていないのだろうか。
シバタ氏が続けた。
「ジム屋敷に昼間挨拶に行っても誰もいない。夜遅く、たまに事務所に寄ると明かりがついているんで、無人じゃないってことが判るんだ」
妄想探偵である私・奄美のスイーツ色の脳細胞が気泡を立てたようだ。
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さればこういう謎解きはいかがだろうか?
「尼ケ崎事件」の例もある。金魚屋敷の主が、ジム屋敷の家族を拉致した挙句、全財産を巻き上げ、死に至らしめたのではなかろうか。金魚の養殖・卸売りは世を欺くカモフラージュだ。
ジム屋敷には、拉致の実行日から、人がいない。意味なく部屋ばかり多い金魚屋敷のどの部屋かに監禁されているか、床下に遺骸が埋められている。
夜中、二階に灯りがつくのは、金魚屋敷側からリモコンで、スイッチをつけている。それで家族全員の失踪発覚を遅らせているのだ!
(ただの妄想ですよ。あくまでね)
了
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ノート20130918




