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掌編小説/猫市長マサムネ 「『Tunami』を聴かせろ!」

 サザンの「Tunami」を You Tubeで聴いていたのは東北新幹線のデッキだった。3.11地震以来、封印されている曲だ。ヘッドホンをつけているから、まあ、他の客に迷惑はかからないだろう。しかしなんで御禁制になったのだ。どんな罪があるというのだ。

 2013年9月28日にプロ野球の楽天が優勝し、百貨店が大売出しをしていたころだ。幼稚園から大学まで一緒だった郷里の友が、仙台にある営業所に赴任していたので、杜の都を訪ねることにした。

「国分町・梵天丸で夜七時待ち合わせ……」

 スマートホンのモニターで時刻を確かめる。

 iモードのナビをみて、仙台駅西口から国道四号線を北上してゆく。すると途中で、電波が弱くなったのか、「接続されていません」という文字がディスプレイに表示された。知らない土地でコレだけが頼りだった僕は、いささか途方にくれた。

 県庁の手前にある三越百貨店仙台支店が角にある交差点で左折、西方向・市民会館を目指す定禅寺通りを歩く。鬱蒼とした街路樹の枝でトンネルになった、けやき並木の道を、少しいったところだった。

 するとだ。

 背後から迫ってくるけたたましい音に気付いて振り向く。

 GOOO……。

(え、市電? あれ、仙台の市電って、昭和51年に廃線になっているはずじゃなかったのか……)

 停車場に市電が停まった。

 降りた乗客が僕に声をかけた。

愛矢よしや青年だな? 君がわれわれの言葉を知っているということは猫世界では有名な話だ)

 きょろきょろあたりを見渡すのだが、降りてきた乗客は、そいつだけだった。

トランプのダイヤの絵柄のような顔の輪郭。大きな耳と目。灰色で豹柄の毛並。それこそエジプト猫だった。しかも、ウインクしたまま閉じたような片目だ。

(梵天丸にゆくんだったな。案内してやるぜ。ゆこうか」

「ええっ、猫さん、ガイドだったの?」

(いや、市長だ)

「えっ、市長さん? 猫駅長とか猫店長っていうのをきいたことはあったけれど、仙台じゃ、ついに猫市長をこしらえたのか!」

(近頃の若者は一般常識というものを知らぬから困る。毎朝新聞を読め。俺は一日市長でもマスコットキャラじゃない。仙台市民が投票で選んだ、れっきとした市長だ)

 猫は小脇に頭を突っ込み、そこから名刺をくわえて、僕に渡した。

 もらったそれをみて、「おお」、と叫んでのけ反る。

 ――伊達政宗。

 マサムネを名乗る市長というのはいかがわしい気もするが、悪い猫ではなさそうだ。僕は、後について、大通りから狭い路地に入ってゆくことにした。

 やがて、フランス・パリの凱旋門をあしらったビルが、建っているところにでて、そこをくぐった。

(このあたりは国分町っていう。夜の町だな。バブル時代は社用族が、関係省庁の官僚や取引先の重役をもてなすのにつかった。ここは凱旋門ビルっていう。『ラーメン国技館』っていうフロアがあって、ラーメン屋がたくさん入っていた。客の投票トーナメントで、人気のない店がふるい落とされた。社用族どもは宴席の『しめ』にここラーメンを食べてタクシーに乗り込んだんだ)

 なるほど。新宿でいえば歌舞伎町のようなところか。

 僕を先導して歩いている、耳の大きな豹柄のエジプト猫が振り返る。

 するとだ。パチンコ屋みたいに派手なイルミネーションが、ギラギラ、輝き、ド派手なサザンの音楽が流れてきたではないか。

「ありえない。「Tunami」が流れるなんて!」

 僕はしたたか面食らった。

(若いのにサザンのファンとはジジイくさい、周囲から浮いていないか?)

「どうしてそれを……」

(それはそうと、黒い犬がきたようだな……)

 猫市長がつぶやいた。

「黒い犬?」

(知らぬのか? 英国元首相チャーチルが鬱病にかかっていたころみた奴だ。中世欧州では悪霊を意味していた)

「悪霊?」

 僕は咄嗟に十字を切った。

(愛矢青年はクリスチャンだったな。スペイン帰りの支倉常長はせくらつねながとは気が合いそうだ)

 17世紀初頭、伊達政宗は、遣欧使節を派遣した。その長であるお武家さんの名前だ。そんなことはどうでもいい。悪霊である黒犬が現れて、どうとかという問題はどうなったのだ。今年のはやり言葉NHKの朝ドラ『アマちゃん』の「じじぇえ!」が飛びだすシチュエーションではないか。

 犬の遠吠えがきこえた。

 マサムネがそっちに駆けだす。

 目尻で背後をみやる。やばい。入ってきた凱旋門の扉が閉まっている。猫市長がいないと開かないんじゃないのか!

 セブンビレッジ仙台というパブだのキャバクラが詰まった煉瓦で外装されたビルがある。エレベータがあるのだが、玄関の左右を金属フレームの外付け階段を左右に配置して建物を飾っている奇抜なデザインだ。

 階段にスポットが当たる。

 ボクサーっていうのか、ブルドックに似た顔で、脚が長い大型犬だった。その黒い犬が上階に駆け上ってゆく。猫市長が後を追っている。

 黒い犬はマサムネを挑発している。、『Tunami』につづく曲が流れだす。「熱い放射にまみれ……」って歌詞が流れだす。これも東北ではヤバい言葉がくっついた『波乗りジョニー』だった。

 黒い犬が不意に振り向いた。津波だ。木端を混ぜた海水が押し寄せてきたではないか。

 僕は、咄嗟に、十字架を波にむかって投げつけた。

 するとだ、十字架がサーフボードに化けたではないか。

 マサムネはそれにひょいと、ボードに乗る。

 シュールな光景。トリックアートみたいだ。左右の昇降階段を、黒い犬が牽引する津波が永久機関のように回転し、猫市長がサーフィンをしているのだ。

 しばらくすると、セブンビレッジビルの電気が消えた。

 サーフボードを小脇に抱えた猫市長がやってきた。

(愛矢青年。助かったぞ)

「黒い犬は?」

(残念だが取り逃がした。ズルい奴でなかなかつかまらない。いずれ決着をつけることになる)

 猫市長にいわせると、3.11地震のあと、時空にひずみができ、そこから黒い犬がでて、いろいろと悪さをするのだという。パソコンでいうところのバグとかスパムみたいな存在らしい。

 それから猫市長の案内で、しゃぶしゃぶ屋の梵天丸に着いた。三越百貨店の裏通りに面した二階にある店だ。

 待ち合わせの時間はとうに過ぎ、閉店間際だったので、友人は怒りを通り越して半ば呆れかえっていた。しかし猫市長をみかけると、僕をそっちのけで上機嫌で喋りまくった。

「9月22日のライブでもサザンは『Tunami』を唄いませんでしたねえ」

(アンコールでだすと思っていたら、『青葉城恋唄』のカバーとは恐れ入った)

 そういうわけで、市長は、(遅れさせたお詫びだ)といって通りのむかいにあるストリップ劇場に招待してくれた。『 EROTICA SEVEN』にあわせてステージで舞う踊り子が、全員・猫だったけれど……。

     了

.

ノート20131003

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