表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/100

掌編小説/仙台日記

 震災復興のキャッチフレーズは、「がんばっぺ東北」だ。助手席に座る俺に、ハンドルを握るセンセイがいった。

「しかしだね、君。僕の田舎のいわきを舞台にした映画『フラガール』じゃ、『~だっぺ』って語尾になったもんだ。しかし『常磐炭鉱節』ってのがあって、『朝もはよからよう、カンテラさげてない』というフレーズがあるんだ」

「なるほど。『~ない』っていうのと『~だっぺ』という二つの述語があるということだな?」

「そういうこと」

 センセイの説によると、もともとは『~ない』とうのが、いわきの言葉だったのだとか。炭鉱で隆盛した近代になって、茨城県から大勢人士がなだれ込んできて、茨城県ナイズされて『~だっぺ』となった。その証拠に同じ県内でも会津地方は『~だなし』となっていて、古いいわき弁に近い。しかしTVでは東北といっても首都圏に近いいわきの言葉を東北弁の代表みたいにしてとらえた。だから、世間が東北弁と思い込んでいるのは、実は茨城弁ではないのかというのだ。ちなみに仙台では、北陸・富山みたいに、あるいは高橋留美子『うる星やつら』のラムちゃんみたいに「~だっちゃ」という語尾がつく。

 そんなセンセイは、仙台郊外にある俺の下宿の大家だ。海賊眼帯、口ひげ、燕尾服、マント姿で自称「イケメン執事」と気取っている変人だ。

 10月前半・三連休。俺はこの「イケメン執事」センセイのおともをすることになった。この男、目的をもたないと、外出するということを嫌がる。オタクだ。やはり、センセイは大好きな引き籠りをしようとしていた。朝の三時くらいには目が覚めたらしく、パソコンでなにやらやりだす。

 『ドラクエパレード』三連休特典なるものに引っかかり、お供の犬・猿・雉ならぬ、ドラゴン・シルバーデビル・メガザルを釣るのに3000円相当ものウエブマネーをかけ「肉」なるものを購入。散財する。時計の針が八時をまわったとき、センセイはふとため息をついた。

「人生は短い……取材をせねば」

 朝の外は嵐だ。にも関わらず眼帯の「イケメン執事」はわざわざファミレスに車で朝食をとりにゆく。サラダ・目玉焼き・ソーセージ・ベーコン・トーストを載せたプレート。ドリンク飲み放題。小一時間ねばって、小説『珈琲店タレーランの事件簿』の読み残し100ページばかりを読破する。

 そして失態をやらかす。モーニングセットをとり財布を忘れ、事情を店員の小母ちゃんに話して、部屋までとりに戻った。センセイはアニメのエンディングソング、「買い物しようと町まででかけたが財布を忘れた愉快なサザエさん」を地でやった。

 それから、「取材」とやらにでた。なんの、取材だ? 

 まずでかけたのは、秋保あきう温泉だ。伊達家の御湯殿があったところだという。仕事場である遺跡で働く作業員さんの話によると、「効能は低いが、旅館の値段は高い」といっている。

.   

 秋保温泉に入る口のあたりに市電車両が置いてあった。停車場のようにさりげなく置かれていて、内部にも入れる。少し痛んではいたが、つり革とか横シートなんかが趣深い。

 そこから奥に入ると佐勘の湯という温泉宿があり、奥に入ったところに、300円で入れる共同浴場がある。こういうところは、目ざとい……ていうかケチだ。

 東屋ふうというか、売店ふうというか、平屋寄棟だったと思う、ひなびた感じの小さな風呂場だ。玄関のサッシをあけるとすぐ横に自動発券機があり、ちっこいカウンターで顔をだした親爺に券を渡す。奥には、左からトイレ・男湯・女湯と並んでいる。

 眼帯・燕尾服の「イケメン執事」センセイはいそいそと男湯の青暖簾をくぐって、下駄箱に靴を放り込み、ロッカーに衣類を突っ込んで湯殿に入る。

 センセイは畳二畳ばかりの狭い湯船に満たされた熱い湯つかっていた。俺は熱いのが苦手なんでね、入るのは遠慮しておくよ。

 先客がいた。地元の爺様が数人いて、湯舟に入ったり、洗い場の横に座って身体を洗ったりしていた。そのうち刺青の兄さんを筆頭にした若衆が飛び込んできた。

「あぢ~っ。熱湯だ~っ。入れねえよお!」

 刺青の兄さんも俺と同じで熱いのが苦手らしい。つま先を湯にちょっと入れては悲鳴をあげている。弟分の若衆たちが笑う。

「いや42度だな」

 わきにいた爺様がモーターボート型をした水温計を浴槽に放り込む。

 兄さんがみやる。

「うっそう!」

 兄さんたち若衆は、近くにひとっ稼ぎにしにきた、とび職人のようだ。騒々しいわりに、妙な愛嬌があって、爺様たちと話を弾ませていた。脱衣場で着替えて外にでる。その際、カウンターの親爺に頼んで牛乳を買う。路面をほじくり返して、砂利道状態となっているセンセイは、共同浴場前で一気飲み。その際、腰に手をあてがうことを忘れない。帰りに、人に勧められた小さな地元スーパーで、おはぎを買って一気食いする。モチもそうだが、粒あんもやたらでかい。

.

 午後、嵐が収まり、雨があがった。

 眼帯・燕尾服の「イケメン執事」センセイは仙台市街地・国分町に入った。東京・新宿でいえば歌舞伎町みたいなところにあたる。青葉通りから、国分町通りを北にむかい定禅寺通りにでる。その途中、脇道やら、一本横の通りを歩いてみる。するとだ。南欧風バーというのがあったので冷やかしで入る。珈琲を注文しようとしたのだが、アイリッシュ珈琲しかない。ウィスキーが入っている。これでは運転できぬではないか。

 仕方なく、仙台名物・牛タンを入れたカレーを食べる。どこが南欧ふうなのだ。しかしオーナーというか店長らしき人物は60くらいのイタリア人風の紳士で、流暢な日本語を操る。彼に道をきいた。

「ケントス? この道をまっすぐいって、十字路を左折する。丸井ビル6Fにある。夜しかやっていないけどね」

 店長は女性に優しい。彼女たちが出入りするたびにドアをあけてやる。客が婆様でもそうする。しかし勘定を済ませて店をでようとしたセンセイにはしてやらない。なんて素敵なんだ。

 ラーメン屋、パチンコ屋、ソープランド、居酒屋……。混沌とした小路地を左折する。三越の裏通りで、沿道にケントスをみつけた。昼なので、もちろん閉まっている。

 ちなみに、その先にある十字路を右に折れ、定禅寺通りにむかって少し歩いたところに、昔、ディスコチェーン・マハラジャ仙台を1階に収めた千鳥屋ビルがある。

 それはさておき、ケントスを収めた丸井ビルから、三越裏通りを挟んだむかい建物の壁に、『がんばっぺ東北』のポスターをみつけた。その隣に、ゲスト出演「小向美奈子」とあった。警備員と常連のおっちゃん二三人が待ち時間で談笑している。ストリップ劇場で、色あせた看板には、たて書きで、「ヌードシアター仙台ロック」と書いてあった。

 いったいなにが、「がんばっぺ」なのだ。

 で、そういうおまえは何者かって? 

 ――俺かい? 猫だよ。

.

ノート20131108

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ