掌編小説/マダム・プリンプリン
田舎町だが、株と土地取引をやっていてそれなりに年収もある。車はオープンカーのアウディTT・ロードスターに乗っている。白だ。しばらく貸家に住んでいたんだが、海のみえる高台に家を買った。買った物件はバブル時代の別荘で、平屋、別棟でガレージがある。街路に面した、コンクリート階段を昇りゃあ、椰子の木みたいにした芭蕉の樹が玄関脇ににょっきりと生えている。
芝生の庭にパラソルをおったてて、丸机と椅子二つを並べておいた。夏の週末だ。太陽がさんさん照りつけている。風はあるんだが、ここじゃ紫外線が強すぎる、今日はダイニングキッチンからガラス越しに庭をみるとしよう。ま、パラソルもテーブルセットも飾りだね。
ふつう、家にいるときゃリラックスして、アロハシャツなんだが、今日はお客さんがくる。ちょっとお洒落して白のスーツにパナマ帽で決めてみた。
シャッターは開けてある。内部を白く塗ったコンクリート壁のゲージに、イタリア小型車フィアット・パンダがゲージに入った。ピンクの可愛いのだ。俺の車のすぐ横だ。ドアが開く音。いまごろは、運転席から、素敵なヒールをはいた脚を床に着けているんだろうなあ。コツコツ音がしてきた。なんだかドキドキしちゃう。
ぴんぽ~ん♪
"Hello!"
"How are you?"
"The best!"
深緑の玄関を開ける。彼女は両手一杯の食材を買ってきて、俺に手渡すと、サングラスを外した。つぶらな瞳がたまらない。
アメリカ西海岸に立っているような家で格好をつけてはいるがフローリングのダイニングキッチンと、奥の仕事部屋、隣にあるベッドルーム、それ以外に部屋はない。ちっちゃい。もともと別荘だったから、そんなもんだ。
彼女が料理をつくりだす。
「今日のメニューは?」
「きのこのソテーと茄子とツナ、それからトマトスパゲッテティ。ワインはそのへんのテーブルワイン」
「御馳走だね」
彼女がモンローウォークで部屋を歩きだす。演劇の仕掛け舞台みたいに、シュルルとエプロンをつけ、トナーに載せた食材を、てきぱき、刻んだり茹でたりしだした。
やっぱり料理の美味い彼女っていいもんだ。
手伝うと邪魔みたいなんで、俺はまたまた格好つけて、練習用ピアノを弾きだす。桑田啓介の「TUNAMI」ジャズバージョンだ。
「あとで絵を描かせてね、ボス」
「おいおい、俺でモデルになるのかい? 腹はでてるし、禿げてるし」
「でもダンディーだわ。なかなかいないキャラよ。マフィアみたい。葉巻煙草も決まってる」
「そっかなあ?」
俺は少なくなった髪をかき上げてみた。二十年前に女房に逃げられてから、若いOLのガールフレンドが、何回かできたが、萌えなかったんだよねえ。やっぱり、女は料理が上手いのが一番だ。そして、若いときと好みがガラリと変わっちまったんだ。
「ねえ、私、肥ってる?」
「うん、肥ってる」
「コラ~!」
「いや、俺は肥った女じゃないとダメなんだ」
彼女の愛称はプリンプリン。職業は画家、未亡人だ。
テーブルの上にアツアツの料理がでてきたんで、ソファに座って食べた。
フランス窓からは水平線を、ゆったりと、外国船籍・タンカーだの貨物船、ついでに北海道と東京を往来するフェリーなんかがみえる。
END




