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プロローグ 世界と彼について

 ア・クアリア。この世界には三つの大国が存在する。

 一つ目。工業大国、ク・マキナ。三つの大国の中でもっとも文明の進んだ国である。この国の住民は総じて体格に優れないものが多く、その非力さをカバーするために文明を進歩させ続け、その結果工業大国となった。

 二つ目、宗教大国、ルア・メクルイデス。この国の名前の由来ともなった宗教、メデンス教はア・クアリアの住民の大半が信仰する宗教である。その布施などによりこの国の経済は保たれている。

 そして、第三の国家であり、この物語の始まりとなる国家。それこそ、魔術大国ムル・クアリアスである。

 そして、ムル・クアリアスの都市、ラ・クラディア。この都市の一角を浮かない顔をして歩く青年こそ、この物語の主人公である。

 彼の名はゼクディウス・カルーレン。ラ・クラディアでは名の知れた金持ちの家出身の青年である。

 貴族ではなく、金持ちと言ったのは、家筋が認められていないからである。カルーレン家は、ゼクディウスの両親が一代で作り上げた家であるため、いまだに貴族とは認められていないのだ。

 さて、そんな家に生まれた彼が浮かない顔をしている理由であるが・・・それは、ここで推測するよりも、彼の呟きを聞いたほうがよいだろう。

「はぁ・・・いやだねぇ・・・不況ってわけでもないのに、どうして仕事が見つからないんだか・・・」

 そう、彼は仕事を探しているのだ。本来、彼は仕事先を探す必要などない。両親の仕事を継ぐだけで十分に生きていけるからだ。

 では、なぜ仕事を探しているのか? それは彼の主義によるものだ。

 彼の主義は、人は世間にもまれて大きくなる、というものだ。つまり、苦労もせず両親の仕事を継ぐようなことではだめだ、そう考えているのだ。

「親父達からもらった生活費もそろそろ底を尽くし、まずい・・・もう仕事を見つけないと、家に帰ることになっちまう・・・」

 彼の両親は彼が家を出る際に一つの制限を定めた。それが、生活費である。家を出る際に彼に当座の生活費を渡し、それが尽きたら家に戻ってこい、というものであった。

「参ったなぁ・・・食事をいっそ死なない程度のにするか・・・? でも、これ以上の節約って言ってもなぁ・・・」

 彼は金持ちの家の人間とは思えないような節約生活を送っていた。それでもなお、生活に困るほどに彼は追い詰められていた。

 仕事が見つからないのも、彼が贅沢を言っているからではない。最低賃金でもかまわない。彼はそれぐらいの思いで仕事を探している。

 では、彼はなぜ仕事が見つからないのか? その理由は、いたって簡単だ。彼は、運が悪いのだ。

 考えてみれば、彼は生まれるまえから運がない。たとえば、彼が生まれるとき、以前から頼んでいた産婆は偶然にも他の家、それもカルーレン家とは逆の方角の遠くに行ってしまっていた。

 子供のときを考えれば、窓の近くにいたときに遠くで遊んでいた子供達のボールが飛んできて、それで窓ガラスが割れてしまい、彼が割ったものだと思われたりもした。

 それと同じように、彼が働く先に行ったときに限って店主がいなかったり、既に他の人間が見つかってしまっていたり、条件に合わなかったり、金持ちの家の息子だとばれて働く必要はないだろうと断られたりと、散々な目にあっていた。

「あぁ・・・神さま、俺は魔術国家に生まれておいて魔法が使えなかったりするようなろくでなしですが、せめて働く場所くらいお与えください!」

 彼が思わず天に向かって手を上げ、そう叫んだときだった。

「お兄さん、仕事探しているのかい?」

 全ての始まりとなるその声を彼は聞いた。

「お兄さんって、俺のことですか!? だとしたら、そうです! 仕事先探してます!」

 あまりの喜びに叫ぶように返事をしながら彼は振り向いた。

「お兄さん、カルーレン家の息子さんだね? 噂は聞いているよ。金持ちの家に生まれておいて庶民の生活を送りたがる変わり者だってね」

 彼が振り向いた先にいたのは、若い声とは対称的に、それなりに年を重ねたように見える女性だった。

「いやぁ・・・噂になってるんですか? 参ったな・・・」

「まあ、知ってる人は知っているようなものだよ。で、仕事探しているんだろう?」

「はい! 仕事紹介してくれるんですか!?」

 威勢よく返事する彼に、女性はややうるさげな表情をした。しかし、それでも彼から離れることはしない。

「まあ、家庭教師みたいなもんだよ。あんたの学歴・・・というか、やったことならそれくらい余裕だろう?」

 彼女の言葉にゼクディウスはなぜ知っているんだ、という疑問にいたる。

 たしかに、彼は勉学に励んでいた。それは、名門校、クアリアス国立大に入学するためだった。最も、運悪く彼が入学する一年前に財政難によって金さえ出せば誰でも入れるような学校となってしまったのだが。それでも彼はいままで積み重ねた学業の成果を発揮し、それなりの学校に合格したのだが。

 しかし、彼はその疑問よりも仕事をくれる、という言葉を優先した。

「まあ、ある程度なら出来ると思いますよ。レベルにもよりますけど・・・」

「心配しなくても、そんな難しいもんじゃない。私は孤児院を経営しているのだけど、なにぶん田舎でねぇ・・・近所に学校がないのさ。だから、泊り込みで家庭教師をやってくれる人間をここまで探しにきたわけさ」

 彼女の言葉に首肯するゼクディウス。高速移動呪文こそあれど、瞬間移動呪文などという便利な呪文は魔術大国であるムル・クアリアスですら開発されていないのだから、それも当然のことだろう。彼はそう結論付けた。

「わかりました。俺に出来る範囲でいいのでしたら・・・喜んでお引き受けします」

「本当かい! 助かるよ・・・それじゃあ、準備期間はどれくらいいるね?」

「そうですね・・・今日、実家に帰って両親に報告して、いろいろ準備して・・・明日の朝には出られます」

「そうかい? もうちょっとゆっくりしてもいいけど・・・まあ、おたくがいいというならそういうことにしようかね。明日、この町の西門に、そうだね・・・昼ごろ来てくれるかい? あたしもそれまでにいろいろ済ませておくからさ」

 彼女の言葉にゼクディウスが再び首肯すると、二人は分かれていった。




 こうして、彼、ゼクディウスの平穏な日常が過ぎていくのだった・・・。









プロローグ END


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