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under ground  作者: 七瀬
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1st chapter 夢と現実


初日のホームルームが終わった。


どんな内容だったかというと、まず担任の挨拶から始まり、これからの予定→注意事項→校内案内というお決まりの流れ。担任の坂城さかき ゆう先生はかなり若く俺達とあまり変わらない歳に見えるが実際は…


歳は絶対に言わないでって言われたか、そういや。ちなみに女性で、美人。取り敢えずむさ苦しい男じゃなくて良かった。


「なにニヤけてんのよ?」


真衣子が俺の顔を見て言う。


「修平ってすぐ顔に出るよね。少しは隠しなよー」


「これは…俺の癖だよ……隠そうと思って隠せるもんじゃない」


「隠す努力ぐらいはしようよ…」


半ば呆れられているような気がするのは気のせいか?


(気のせいだといいなぁ…………)


どこまでも卑屈な俺だった。



「そういえば明美はどこ行ったんだ?」


「あー。あけみんは用事があるとかなんとかでホームルーム終わってすぐどっか行ったみたい」


「そうか……………」


久々に話をしたかったところだが仕方がないか…


アイツにもアイツなりの事情があるんだろう。詮索する事もないしな。


校門を出て、家へと向かう。


しばらく俺も真衣子も無言だったが居心地は不思議と良かった。俺の事をよく分かっているからなのかは分からないが、なんだかリラックスできるのだ。無二の親友ってやつなのかもしれない。それと恋愛感情を抱いた事は……………………


あった。一回だけ。


その話もいずれしなければならないだろう。多分その時からだったんだ。俺が真衣子に救われて、初めて話せるようになったのは。


入学式にホームルームという事で、かなり疲れたみたいだ。足取りが重い。


「じゃあ、また明日ね!」


「おーう」


真衣子と別れ、家へ。

ドアを開き鍵を閉める。


「ただいまー」


返事はない。当たり前だ。俺には母親も父親もいないから。2年ほど前に交通事故に遭って2人とも死んだ。その時には俺もその場にいたのだが、正直どうやって助かったのかは覚えていない。いや思い出せないんだ。


どうやら俺には2年以上前の記憶が無いらしい。多分事故のショックで吹っ飛んだろう。詳しいところは分からないが。事故に遭ってからの俺は今とはまるで違っていて、目も当てられない状態で……


まだ、語るには早すぎるかな。


まぁ、俺には2年以上前の記憶が欠損していて、交通事故に遭って奇跡の生還を果たしたって事だけ理解してもらえば今のところはそれでいい。


「ふあぁ…」


充分寝ていた筈なのにまだ眠いとは。末恐ろしい。


ベッドに倒れ込み、目を瞑る。


(気持ちいいなぁ……)


時刻はまだ昼の14時。夜に起きればいいか。アラームをセットして俺は眠りについた。


-****


ここは、何処だろう。誰もいない世界。自分以外には何も無い世界。


それはどれだけ虚しいのだろう。とてつもなく空虚で、満たされる事もない。


だから私は…



私は…


「…………………!?」


急に目が覚めた。


今の夢は一体なんだ。少なくともあそこにいたのは俺ではない。だったら誰だというのか。


答えは出ない。


「女の子…だったな…」


それだけしか分からなかったが、この夢はあの悪夢とは違う。それは明らかだった。


「くそっ…頭が痛いな…」


起き上がり、水を一杯飲むと頭痛は引いていった。そういえば今は何時だろうか。


携帯を開く。21時。7時間も寝ていたのか。こう半端な時間に目が覚めてしまうと、もうこれは起きているしかない。


どうも最近夢を見る事が多いようだ。毎晩うなされると思うと急にげんなりしてきた。


というかあれは夢なのだろうか。もしかしたら俺の失われた記憶の一部だったりはしないだろうか。


「ないな……」


どうでもよくなってきたので、漫画でも読もう。




だが、俺は全く気づいていなかった。

既に俺の現実の崩壊が始まっている事に。


漫画を読んでいたら、夜が明けた。眠くはないから問題ないだろう。どうせ今日も午後には帰れるしな。


身体がベタベタしている。昨日風呂に入らなかったからか。シャワー浴びよう。


服を洗濯機に入れ、スイッチを押す。軋みながら動き出したのを横目に、風呂場へ。


シャワーの取っ手を捻る。


「あっちぃ!!」


忘れてた。風呂溜める為に温度高めにしてたんだった。下手したら火傷するところだった。


風呂溜めたの一昨日だっけか。替えないと駄目かもしれないな。


「んっ…しょっ…!って、うわぁああああ!」


ゴンッ!


滑って浴槽に頭をぶつけた。なんだ今日は?何か悪い事でも起きるのか?


「朝からツイてねぇ……」


溜め息しか出なかった。


風呂からあがり、一杯。風呂上がりにはコーヒー牛乳と相場が決まっている(俺の中では)。銭湯にも必ずコーヒー牛乳の自販機はあるしな。


さて、そろそろ真衣子が迎えに来る時間だ。着替えて待つかな…


しばらくすると、チャイムが鳴った。


ドアを開けるとそこには真衣子がいた。


「おはよう。真衣子」


「おはよう…って、何かあった?」


やっぱり隠し事は出来ないらしい。俺は変な夢を見た事と風呂場で足を滑らせて頭を打った事を真衣子に話した。


「夢はともかくとして、ドジだねぇ修平は」「ともかくってなんだよ。流すなよ…俺にとっては大事な事なんだからさ」

「私は実際見てないから分かんないよ。はい終わり」

「お前なぁ……」


サバサバしてんなコイツ……


「今日は何があるんだっけか?」

「身体測定だけじゃない?」


授業が始まるのは来週からだと担任から聞いていた事を思い出した。しばらくはこんな感じか。グダグダと話しながら歩いていると、目の前を黒猫が横切った。しかも俺の目を見やがった。これはつまり、


「………………………………」

「ネコだー。可愛いね~」


それどころではない。確か黒猫は不吉の象徴だった筈だ。俺の身に何か災難が振りかかるのだろうか。気が重い。今すぐ家に帰って寝たい。わりとマジでこれはヤバいんじゃないだろうか。


また溜め息が出た。


未だに不吉な事は起こらない。こうなると逆に不安になってくるが、考えても仕方がない。


身体測定を終えた俺は教室に戻り、自分の席でくつろいでいた。身長はまた伸びたようで180の大台に届こうとしていた。体重は以前と変わらず60kgといったところ。維持出来ているなら問題はないだろう。


教室内の他の奴らもガヤガヤと結果について話しているようだ。俺はそれには耳を貸さなかったが。


「うー……………………」


唸り声が聞こえた。


「なんだよ。真衣子か。どした?」

「聞いてよ修平……身長縮んでた…」


半分涙目になりながら真衣子が言った。身長が縮む、なんて経験はないが中にはいるみたいだ。まぁ、大体は数cm程度のようだが。


「縮んだのか……ちなみに何cm?」

ややデリカシーに欠けた質問のような気がしないでもない。真衣子小さいからな…


「154cmだったのが153cmになってた」

「1cmか……」


かなりショックみたいだ。一瞬体重も聞こうかと思ったがそれこそデリカシーに欠けた質問ー


「真衣子~。体重いくつだった~?」

空気の読めない奴がいた。明美の事だ。


「うっ…」

「あたしはねー。50kgだったよー」


(コイツさらっと言いやがったぞ!?というか今真衣子はショック受けてんだから畳み掛けるのは…!)


「……………………55kg。6kg太った」


反応に困る発言だなと思った。さて、どう対処しようか。いっそ明美に丸投げして俺は狸寝入りするか。いや、ここは幼なじみとしてフォローにまわるか………よし!


「大丈夫だって。55kgとか普通じゃねぇの?女の子は痩せすぎよりぽっちゃり…」


(ヤバい。フォローになってない…!)


「喧嘩売ってるのかなぁ?修平君?」

「あ…いや、あの、これは…」


真衣子がキレかけてる。


(はっ!まさかこれが不吉な…)


時既に遅し。


今更何を言っても無駄なのだった。


「反省してます。ごめんなさい…!」


殴られまくった俺は必死に謝っていた。フォローどころかもはやあれは女の子に対する嫌味としか取れないような発言だった。


「まぁ、もう気が済んだからいいけどさぁ…体重に関しては触れないでね」

「はい。善処します」


痛い思いはしたくない。


つまり不吉な事とはこの事だったのだ。むしろこの程度で済んで良かった。下手したら死ぬんじゃないかとも思ってたしな。身体測定が終わって今はホームルームの時間だが、殴られたとこは見られていないので、そこは安心していい。呼び出しくらうなんてもってのほかだ。


「なかなかいいパンチだったね~。空手やってたからか」

「ブランクはあるけどね。そういや部活決めた?」

「あたしは陸上部に入ろうかなって。真衣子は?」

「うーん…色々見てから決めたいなぁ」


左久良高校の部活はかなりの数存在するようで、野球部やサッカー部といったオーソドックスな運動系、美術部や吹奏楽部といった文化系、更には漫画部やロッククライミング部などといったコアなものまであると聞いている。研究会といったものも含めると優に100は超える。その中から決めるというのは中々に難しいが、俺もいずれは決めなければならないのだろう。


(入る部活決めときゃ良かったな…)



というのがまさに今担任から聞かされた話な訳で。


悩み事が増えたのだった。


かくして今日も学校が終わった訳だが、「どうせ暇なんだから、部活見学行こうよ!」とやけに明るい顔をした真衣子と明美に言われたので、嫌々ながらもついていく事にした。一人でじっくりまわりたかったのだが…


「で、どこの部みんだよ?」

「取り敢えずは陸上部と空手部かな?陸上部はあけみんが見たいらしいから」

「陸上部に先輩がいてさ~。挨拶をね」


どうやら当てはあるようなのでいいか。まずはグラウンドで練習中の陸上部から見に行くとの事。


しかし広いグラウンドだ。普通の高校のグラウンドより3倍くらい広い。莫大な運営資金に加え莫大な土地があるからだろうが。グラウンドだけでも陸上部、サッカー部、ハンドボール部、ラグビー部、テニス部などの姿が見える。各部活無理の無いスペースを取れているのだから広さは充分に理解してもらえるだろう。


さて件の陸上部だが男女比はやや男側に比率が偏っており、好成績も主に男子があげているとの事だった。全部明美から聞いた。陸上部はグラウンド右側を使用しており、走り幅跳びやハードル走、はたまた槍投げや砲丸投げなど種目別に場所を区切って練習をしていた。


「で、明美。その先輩とやらはどこにいるんだよ」

「ん?えっとね…あそこ」


明美が指差した先には……ってあれ?あれって…確か…


「一ノ宮先輩!こんにちは!」



明美が言う先輩とは、生徒会長の一ノ宮貴文だったのだ。


「一ノ宮」という名前には聞き覚えがあった。聞き覚えがあっただけで、どこで聞いたのかとかどんな意味だったかなどは思い出せない。もしかしたら事故に会う前の記憶の残梓かもしれないし、ただ単に忘れているだけかもしれない。


表情が表に出たのか、隣にいた真衣子がそれとなく話しかけてくる。


「一ノ宮って、名前気になってる?」


図星以外の何物でもない。


「あぁ…聞き覚えがあるんだけど、どこで聞いたんだか分からなくてな…」


真衣子の方を見る。


(…………………!?)


その顔に浮かぶのは嫌悪かはたまた敵意かいや、あるいは殺意か……


初めて見る表情だった。


と俺の視線に気付いたのか、真衣子はいつも通りの柔和な表情に戻って、


「覚えていないならそれでいいよ」


それだけ言った。


だがその声は虚ろな様で、刺のある声だった。


「真衣子~!修平!こっち来なよ!先輩が挨拶したいって!」


明美が声を掛ける。


「行こうよ。修平」

「お、おう…」


真衣子が歩き出す。その表情は見えなかった。


結論からして一ノ宮先輩はガサツな人だった。入学式のあれは演技だったらしく、実際に話すと全く真面目でもなんでもなかった。少なくとも勉学に関しては。


「なるほど…明美の付き添いだったのか…残念だなぁ…部員獲得できると思ったんだがなぁ…」


どうやら俺達3人を勧誘したかったらしいが、俺と真衣子がやんわりと断ると、一ノ宮先輩は肩を落としてブツブツ呟いていた。


「一ノ宮先輩って結構絡みやすい人だったんですね…入学式の時と違いすぎますよ」

「ああでもしとかないと先生方が満足してくれねぇからなー。一応真面目で皆の模範な生徒会長さんやってる身だからなー。ほら、あれよ。ギャップ萌えってやつ?」


盛大な勘違いをしているようだ。


「萌えないですし、普通逆じゃ…」

「しっかし、修平だっけか?お前暗いなー。あれか?コミュ障ってやつか?」

「お察しの通りです…人と関わるのあまり好きじゃないんで」


正直に話した。この人は信用できる、筈だ。

「人と関わるの嫌いとか言ってるけどよー。お前それ思い込みじゃねぇか?明美とか真衣子ちゃんとかとは話せてんだろ?おかしい話だよなー?」

「まぁ、あの2人は特別なんで…あ、先輩も」

「特別、ねぇ……ふーん。まぁいいや。なんかあったらいつでも言えよ。相談に乗ってやっから」


そう言って先輩は笑った。やはり信用できそうだ。いざという時は頼らせてもらおう。


その間真衣子は無言だったが、さっきの様な表情は見せなかった。


「あ、俺達、他の部活見に行くんでこれで」「おー。見てこい見てこい。どれに入るかよく考えろよー」


一礼して俺達はグラウンドを後にした。



一瞬真衣子と先輩が睨み合っていたような気がしたが、多分気のせいだろう。


その後俺達は空手部やテニス部などを見学して、帰宅した。


なかなか充実した1日だった。歩きすぎたのか足が痛い。こりゃ明日は筋肉痛か。


制服を脱いで、そのまま風呂場へ。

ゆっくり身体を休めるか…


シャワーを浴び、浴槽に浸かる。昨日溜めなおしたがぬるくなっていたので、お湯を追加した。いい温度だ。たまにはこういうのもいいな。


15分程浸かってまたシャワーを浴び、風呂から出て、恒例のコーヒー牛乳を1杯。この瞬間がたまらない。


さて、これからどうしようかというところでチャイムが鳴った。


(真衣子か?いや、明美か?何か用でもあったのかな…)


まぁ、その予想は外れた訳だが。


「なんで裸なのよ、お兄ちゃん」

「風呂上がりだからだよ……何しにきた美鈴」


俺の家に突然訪問してきたのは、実の妹の葉山はやま 美鈴みすずだった。ちなみに中学2年生で背は低いし、頭は悪いし、性格は悪いし…唯一顔が良い事ぐらいしか誇れるところが無い妹な訳だ。現実なんてこんなもんなんだよ…ギャルゲーみたいなあんな可愛い妹なんて幻想だ……しかし、コイツは叔母の家に居た筈だがなぜ…?


「今日からお兄ちゃん家に住む事になったからよろしく」

「………………………は?」

「聞こえなかった?お兄ちゃん家に住む事になったからよろしくって言ったんだけど」

「住む?ここに?」


ないわぁ…………それはないわぁ………なんでこんな糞野郎と同じ屋根の下で暮らさなきゃいけないのだ…


「はいはい。どいてどいて。つうか早く服着なよ」

「お前、学校は」

「ここから通う」

「着替えとかは」

「バッグに詰めてきた」

「マジで住む気かよ。養えねぇぞ俺は」

「住むって言ってるじゃない」


そっけねぇ……………本当に可愛げが無い奴だ。なんでこんな事になっているのだろうか。いっぱいいっぱいだってのに……


前途多難だ。そう思わずにはいられないのだった。


突然俺の家にやってきた俺の実妹・美鈴は勝手に風呂に入り、勝手に部屋を使って、ソファでくつろいでいた。


傍若無人な振る舞い。これで学校ではうまくやっているらしいのだから文句は言えない。

まだ中学2年生だから、これから学んでいけばいいさ……


「ねぇ、お兄ちゃん」


不機嫌そうな声で話しかけてくる美鈴に少し苛立ちを覚えたが、我慢して


「なんだよ?」

「お腹空いたんだけど」


(知るかよ!!!!!!)

心の中で盛大にツッコんだ。


お腹空いたとは言っても家にあるのはコーヒー牛乳とカップ麺ぐらい。俺は料理が得意ではないし、美鈴も(少なくとも2年前までの話だが)料理をしたところは見ていない。


「カップ麺ならあるけど」

「カップ麺って………まぁ、たまにはいいか…」

「ちょっと待ってろ。すぐ出来るから」

「うん」


なんだろう。元気がないような気がする。時々、俺の事も見ているし…


美鈴には記憶が無い事は話していない。話すタイミングを逃しただけだが。


(もしかして俺の挙動から勘づいたか…?いや、まさかな…)


「ねぇ、お兄ちゃん」


さっきよりは幾分か柔らかく美鈴が話しかけてきた。


「んー?」

「なんかさー、お兄ちゃんって暗いなーってさ。そう思っただけなんだけどね」

「………………そうか?」


やっぱりまだあの事を引きずっていたのだろうか。それともあの悪夢のせいだろうか。


「雰囲気が暗いっていうの?よくわかんないんだけど……そういう性格、なのかな?でも、あたしが小学生だった頃のお兄ちゃんは…「美鈴。聞いてくれ」


話しとく、べきだよな……俺の家族は美鈴だけなんだから。


「なに?険しい顔して」

「俺さ。2年前の交通事故の影響で、事故に会う前の記憶が無いんだよ…だから、お前が小学生だった頃の事なんて…覚えてないんだ」


残酷だったかもしれない。でも今話しとかないと多分俺は一生話さないだろうから。


これで、いいんだ。


美鈴はしばらく黙っていた。無理もない。いきなり記憶が無いなんて言われたらそりゃ絶句するだろう。


「………なんで2年前に言わなかったの」


トーンの低い声で美鈴が言う。


「タイミングを逃してな………悪かった」

「いや、いいんだけどさ……まさか、そんな事になってたなんてね…」

「今更だったかもな……」

「ほんとに今更だよ………ま、びっくりしたけどさ。でもお兄ちゃんはお兄ちゃんだし」

考え込む性格じゃない美鈴は、驚いたようだったが自分の中で納得したようだ。俺としても少しホッとした。


「記憶戻るの?」

「しらねー。別に取り戻したいとも思わないからなー」

「ふーん。そっか」


もう興味が無さそうだ。切り替え早いな……

「お兄ちゃん。カップ麺」

「やべっ!」


そうこう話してるうちにお湯が沸いていた。カップ麺の器に注ぎ、3分待つ。


「そういえばさ。お兄ちゃんと一緒にご飯食べるの何年ぶりかな」

「さあな」

「ま、食べようよ」


食べ慣れた美味くもないカップ麺を2人で食べる。その間俺も美鈴も無言だったが、そこには確かに温かい何かがあった。


「カップ麺まずいね」

「逆に美味いカップ麺ってあるのか?」

「知らないよ。なんか眠くなってきた。ベッド借りるね」

「片付けろよな…」


リビングにはタオルやらカップ麺の容器やら転がったままだった。しかも俺のベッド借りるっておい……


「…………ごめんね、お兄ちゃん」


俺の部屋に向かう美鈴がそんな事を言ったような気がした。


リビングの片付けを終えた俺は、ソファで寝る事にした。


今日もあの夢を見るのだろうか。


色々ありすぎて疲れた。


ゆっくり眠ろう…


「おやすみ…」


………………………


………




………ちゃ…………


……………………にい…………


…お…………い………ち…………ゃ…


「お兄ちゃん…!!」

「んがっ!」


目を開く。美鈴がいた。


「あれ……美鈴…?」

「お兄ちゃん…外見て外!」


只ならぬ雰囲気を感じた俺はリビングのカーテンを


開けた。


「なんだよ何も無いじゃないか………」



何も無い…………?



ちょっと待て、おかしくないか。何も無い、なんて、事は…



「何も無いんだよ!!何も!!」

美鈴が叫ぶ。その目には涙すら見える


未だ思考が追いつかない。


外へ出てみる。


「…………………え?」



まず、色が無かった。いや強いて言うなら灰色か。鮮やかだった景色は無機質な景色に姿を変えていた。


次に、人がいない。いやそれはまだ深夜だからか。本当に人がいなくなったかは確定していない。


だが明らかに何かがおかしい。まるで現実じゃないみたいな……




まさか、




【夢】なのか………?




この瞬間から俺の現実は、壊れたのだった。


1st chapter end...next 2nd chapter 生まれゆく世界と壊れゆく世界

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