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under ground  作者: 七瀬
1/4

prologue

****


 

夢を見た。


俺と見知らぬ女の子が灰色の世界に囚われている夢だ。その世界には色も無く、音も無かった。もちろん人もいない。


あの夢はなんだったのだろうか。俺は滅多に夢を見ないのに…………。


(まさか………現実だった、のか……?)


さすがにそれは考えすぎかもしれない。忘れてしまうに限る。



今日も、1日が始まる。


prologue


朝から悪夢は勘弁願いたい。あんな夢今まで見た事が無かった。あれが何かを示唆しているのなら………


と、また泥沼な思考に嵌まりかけたところで家のチャイムが鳴った。


こんな朝早くから訪ねてくるのは、アイツくらいだろう。俺の幼なじみ、加藤かとう 真衣子まいこだ。真衣子とは幼稚園時代から何かと縁があって、小・中と同じ学校だったり、家もそれなりに近かったりする。外見は、そこら辺にいる可愛い女子(本人に言うと怒る)で、運動は得意、頭も良いとまさに才色兼備なのだ。


で、毎朝真衣子は俺を迎えにくる。これも幼稚園時代からの習慣みたいなものだ。密かに嬉しかったりもする。


っと、まぁ真衣子の事は後々詳しく話すとして……


「何一人でブツブツ言ってんの?つうか起きてる?」


口に出ていたらしい。不覚だ…


「なんでもないから気にすんな。今行く」


既に着替えは済ませてあるし、問題はない。さて、このタイミングで自己紹介だ。手短にな。俺は、葉山はやま 修平しゅうへい。今日から高校1年生になる。運動は得意な方。頭は、それなり。これぐらいで今はいいか。真衣子が怒ると面倒くさいし、詳しい事はまた。


「おはよう。真衣子」


「おはよう。修平」


お互いに挨拶を交わし、拳をぶつけあう。これが毎朝の日課だ。小学校で空手やってたそうで。でも、変な目で見られる事は間違いないだろうな。


今日から高校生とさっき言ったが、つまり今日は入学式な訳だ。あのかったるい行事な。正直行きたくないが、行かないと真衣子が怒るから仕方がない。仕方がないのだ。


「入学式だね。私達、高校生になるんだね」

「感慨深そうだな」


「まぁね。幼稚園から一緒だしさ~。そりゃ、感慨深くもなるよ」


何がそんなに感慨深いのかは分からないが、高校まで真衣子と一緒になるとは思っていなかった。受験の時は違う学校を狙っていたはずなのに、な。


(運命ってやつか…?)


さすがにそれはないか。


「なかなかここまで長い付き合いのやつらいないよな。高校じゃ、皆はじめましてだから」


「そうだね。友達出来るといいな」


「出来るだろ一人ぐらいは」


「少なすぎるでしょ、それ」


他愛も無い会話が今は有難い。あの悪夢の事を忘れられたから。


それに今は、楽しい高校生活の事だけを考えていればいい。そう思う事にした。


30分程掛けて歩くと、校門が見えてきた。俺達が入学する事になる私立左久良高校は、県内有数の進学校で有名大学にも進学している人もいるらしい。部活も盛んで、行事もかなり多い。で、県内で一番人気があるので、合格は難しい筈が…………


簡単に突破出来てしまった。間違いなのではないかと疑ったが、間違いではなく今日も迎えてしまった訳だ。


「緊張してる?」


不意に真衣子がそう聞いてきた。


「緊張するもんだろ。見知らぬやつらがたくさんいるとこに行くんだから」


「まぁ、修平はそういう性格か。ふふっ」


見透かされてるな、俺。


真衣子は特に緊張などない様子で、ズンズン前に進んでいく。いい性格してるな、コイツ。


校門を潜ると、案内板が見えた。入学式の会場の案内が書いてある。どうやら体育館でやるらしい。場所は……


「あそこみたいだね」


真衣子が指差した先に、体育館が見えた。さすが私立というべきか、でかいし綺麗だ。これは憧れるよなぁと適当な事を考えながら、体育館に向かった。


体育館に入ったはいいが、肝心の入学式自体は1時間半後からだった。先に結論だけ話したが、つまりこれは真衣子の勘違いが原因だ。昔もこういう事があった。時間を間違えるのは日常茶飯事だから、仕方ないと言えば仕方ないが…


俺の家に来る時間だけは正確なんだよな……

と、いう事で現在7時半。入学式は9時から。さて、どうしようというところなのだが…


「あ!クラス確認しなきゃね」

「忘れてた……つうかどこに書いてあるんだ?」


クラス確認はしなきゃ始まらないよな。しかし、クラスが書いてある場所が分からない。一通り探して…


「あったよ修平!こっちこっち!」


探す暇も無かった。



さてクラス分けだが、ここでも運命の強制力(誇張)なるものが働いたようでまたもや真衣子と同じクラスになっていた。ここまでくると仕組まれてるんじゃないかと疑いたくもなるが、それは無いだろう。まさに運命。


「また一緒だねぇ…ま!よろしくね!」

「あぁ…よろしく」


真衣子が居てくれた方が俺にとっても有難い。俺は人と関わるのがあまり得意ではない。いわゆるコミュ障ってやつだ。人に話しかけられないし、しどろもどろになる事もしょっちゅう。じゃあなぜ真衣子とは話せてるかって?



まぁ…その理由は、追々話すよ。


「なぁ。入学式までどうするよ」

「一旦、帰る?ここにいたってねぇ」


結託。


取り敢えず一時帰宅する事にした。


それぞれ自宅で時間を潰して再び左久良高校体育館前に来てみたところ、1時間半前とはうってかわって賑やかになっていた。入学式だから当たり前か。


「人多くね……?」

額に汗が浮かぶ。別に暑くはないのに。これは俺の体質でもあるが、多分ほぼ性格のせいだろう。陰気で陰湿。それが小学校時代からのイメージ、らしい。真衣子から聞いた。陰気なのは認めるが、陰湿な事はした事はない。というか陰気なのは、コミュ障だからだ。


「怖じけついてるね~。これから3年間やってけんの~?」


なんでコイツはニヤニヤしながら言ってんだよ……楽観的すぎてむしろ尊敬するレベルだな。でも、こんなやつだからこそ俺は今まで付き合ってこれたのかもしれない。


「何とかやってくさ。この性格も直したいしな」

「そう。ま、私がいるから大丈夫でしょ」

満面の笑み。


「楽しそうだな、真衣子」

「ワクワクしてるんだよ。どんな出会いがあるのかなーって」

「いつか楽しく思えるようになるのかね…」


そんな日がくればいいな、とは思う。俺は真衣子を見習うべきだな…


と、そろそろ入学式が始まるらしい。席は既に確認済みだ。


「行こうぜ、真衣子」

「うん」


体育館の扉を潜り抜けると、太陽の光が俺達を照らした。


入学式というものはどこも同じようなもので、それは高校でも変わらず…つまり面倒くさいの一言に尽きるわけだが……


「新入生諸君、まずは入学おめでとう」

の言葉から始まった学園長の話は、始まってから10分経っても未だに終わる気配すら見えなかった。


(長すぎだろ…この糞ジジイ…)


段々苛立ちすら覚えてきた。この学園はどうこう、部活動がどうこう、進学実績がどうこう……自慢したいだけじゃないのか、これ。

周りの新入生を見ると、半分くらい眠っているようだった。真衣子は真剣に話を聞いているようだ。基本的に真面目だからなアイツ。

(やべ…ねっむ…)


眠気に襲われかけたところで


「これで、学園長の話を終わります」


と、司会の声。そして


「次は生徒会長の話です。生徒会長お願いします」


どうやら次は生徒会長の話らしい。ハキハキとした声で壇上に上がった生徒会長は、


「新入生の皆さん。ご入学おめでとうございます。僕がこの学園の生徒会長の一ノいちのみや 貴文たかふみです。先ほど学園長からお話しがありましたが、僕はあまり長く話すつもりはありません。一言だけ、言わせて下さい」


と、やはりハキハキとした声で話した。生徒会長がその後何を言ったのかは覚えていない。その時俺は別の事を考えていたからだ。


(一ノ宮………………一ノ宮?)


一ノ宮という名字に聞き覚えがあったのだ。でも具体的にどこで聞いたのかは思いだせなかった。


生徒会長の話が終わり、担任の紹介へと移り始めた。


それから先は、全く覚えてない。



寝てたからな。


「ふぁ~、よく寝たぁ…」


どうやら入学式は終わったらしい。しかし誰にも邪魔をされない快適な睡眠だった。今日は寝るのに丁度いい気温だったしな。うん、仕方ない。


「はぁ…入学式から爆睡って…修平、あんたねぇ…」


真衣子がムッとした顔で言う。

やべ、本気で呆れてるなこれ……


「別にいいだろ~。話長すぎるんだよ…」

「確かに長かったけどさぁ……」

「で、入学式終わったけど?この後は?」

「クラスでホームルームだってさ…私達はB組だから……」


なるほどホームルームか。多分これからの予定とかを話すんだろう。聞いておかないといけないか。


しばらく歩くと教室が見えてきた。しかし廊下も綺麗だな。よく手入れされている。目立った汚れがない。


「ここだね」


ついにこれから1年間暮らす事になる教室に辿り着いて、


しまった。


「…………………」


急に汗が吹き出し始めた。脚が震える。くそ…………なんなんだよ………!


「大丈夫?震えてるけど?」

「大丈夫、さ………このくらい…」


教室からはざわめきが聞こえる。俺はその中に入っていかねばならない。いちいち怖じけついてるわけにはいかないんだ。


深呼吸。


落ち着いてきた。


「…………よし」


俺はゆっくりと扉を、


開けた。


なんというか、つまりアレだ……俺が危惧していたような事は何も起こらなかったというか見向きもされなかった。ドアを開けた時一瞬教室にいた奴らがこっちを見たような気もしたが、『見た』だけだ。


これが、無関心ってやつなのかね。


他人は自分以外には無関心。関係ない所には立ち入らない。面倒事には関わらない。自分が大事………



高校生にもなると一々構っていられないってことかな。多分。


「緊張する必要なんてなかったな……」


ため息をついて、席へ進む。出来れば前ではなく後ろがいいが、更に欲を言わせてもらうと真衣子の近くがいい。


どうやら席順は黒板に貼られているらしい。俺は黒板まで歩く。後ろには真衣子。俺の席は…一番後ろか。よし、まずは第一条件クリアだ。あとは真衣子の近くなら……


「…………!!」


どうやら前の席が真衣子の様だ。幸先いいな。


「後ろが修平か…変な事しないでよ?」

「変な事ってなんだよ」

「ペンでつついたりとか」

「ガキじゃねぇんだからんな事しねーよ」


くだらない会話をしながら席へ。俺の左隣には茶髪の男。右隣には女……………あれ?コイツ…………どっかで……


と、右隣の女が話しかけてきた。


「あれ?アンタどっかで見た事あるような……………あ!もしかして修平?」


やっばり知り合いだ。しかし誰だったか。この顔………………もしかして陸上部だった……


「明美じゃん!久しぶり!」


真衣子が会話に加わる。


あぁ、そうだった。コイツは澤村明美さわむらあけみだ。中学3年の時同じクラスだっだ。陸上部の部長をしていて、その実力はかなりのものだった。だが、勉強の方はからっきし駄目でよく勉強会を開いていた。


しかしコイツも同じ高校だったとは。


「おぉ!真衣子じゃん!なに、アンタら同じ高校受けたんだ。いやーまさかまた同じクラスだなんてね~」

「明美だったのか…髪伸びたか?」

「ん?ポニテ出来るくらいにはね~。なんか嬉しいな。また一緒だね!」

「あけみんがいるなんて思わなかったよ~。またよろしくね」

「よろしく二人とも」


俺はますます学園生活が楽しくなりそうな気がして、浮かれていた。これなら上手くやっていけそうだと。


そう思っていた。


prologue...END...next 1st chapter~夢と現実~

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