龍珠と七波の話 出会い編
一目惚れしたは良いけれど、それがさっぱり理解できない明龍珠と、それより家に帰してほしい七波が恋人になるまでの話。
曽我七波はごく一般的な高校生だった。
普通の家庭に生まれ育ち、普通の高校に進学し、特に敵もいない少女である。それが、何の因果か手違いで冥府に連れてこられたのだ。
ここで彼女のごく普通の生活に終止符が打たれた。
冥府の片隅で蹲り、泣いていた七波を発見したのは明龍珠。たまたま書類を届けに日本支部へやってきており、ついでに遊んで帰ろうとフラフラ歩いていたところだった。
「…お前、まだ生きているべきじゃないか?」
いきなり声をかけられた七波は、驚いて顔を上げた。目の前にいたのは、女顔だが非常に整った容姿の青年で、同い年くらい(17か18歳)の外見をしていた。
目を引くのは青年の纏っていた緑の服で、歴史ドラマでしか見たことのないような古風な意匠である。
形からして韓国のチョゴリではなかろうか。と、あたりを付け、七波は恐る恐る立ち上がった。
「あの、こ、ここはどこですか?」
龍珠は切れ長の瞳を細め、胡散臭げに七波を見た。
「冥府だ。お前にはまだ寿命があるだろう?早く真白に帰してもらえ…ああ、そうか、もう帰れないのか」
「め、冥府!?」
ふむ、と龍珠は七波を見つめた。
中々に女好きの彼は、それなりに愛らしい顔立ちの七波をどう扱うか決めかねた。このまま連れ帰っても良いが、真白や上司に知れれば面倒な事になる。しかし、見捨てて放り出すのも惜しい。
「お前、まだ死にたくなかったろう?」
「当たり前でしょ!!」
「なら、ついて来い」
七波の手をつかみ、龍珠はそのまま歩きだした。どこへ行く、とも告げられていない上、名乗りもしていない相手に引っ張られ、七波は正直生きた心地がしなかった。
どれだけ歩いたか分からないが、行きついた先で古風な門をくぐると、そこには広大な日本家屋があった。驚く事を放棄した七波は、大人しく屋敷の敷地内へ足を踏み入れた。
「ここは?」
「後でわかる」
玄関先の声を聞いたのか、慌てたように応対に出てきたのは和服姿の女性だ。
長い黒髪をかんざしでまとめ、紺色の着物に明るい緑の帯をしめている。二十歳をいくつか越したように思われるが、黒い瞳には外見年齢に似合わぬ深さがあった。
龍珠を見て驚いたように目を見開き、更に七波を見つけて口をポカンと開けている。
「まあ!龍珠さん、どうなさったの?」
「若竹殿、少々お力を貸して頂きたい」
「…私に出来る事でしたら。さ、取り敢えずお上がりになってね。そちらのお嬢さんは?」
七波は名乗ろうと口を開いたが、それより先に龍珠が答えた。
「俺の嫁にしようと思いまして」
「「えええ!?」」
2人分の絶叫が玄関に響き渡った。