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第六章 3

    三

 その頃、聖美は、聖司と梨々菜を追って山道を歩いていた。

「こっちかなぁ。う〜ん。こっちかな」

 自分の知らない聖司がいることを察して二人を追い掛けてみたものの、途中で恐くなり足がすくんでしまう。何も考えずに走り続ければ良かったのだが、一端、止まってしまうと勢いは完全になくなってしまった。

「聖ちゃん、どこ〜」

 小さな、かすれた声が、暗闇に溶けていく。あまりの恐怖に大声が出ない。

 それでも足が動いたのは、秘密にされていることを知りたいという想いが、僅かに恐怖を上回っていたからだった。そして、梨々菜が突然、現れたのも気になっていた。

 しかし、その想いも少しずつ恐怖に追い付かれ、追い越されそうになったとき、耳をつんざく音がした。

「な、なに?」

 空港で聞くことが出来る、飛行機の音に似ている。

 きっと、この音のする方にいるのだと確信すると再び、気力が湧いてきた。目をつぶり、音のする方向を聞き分けようとするが、全方向から聞こえる気がして定まらない。

 仕方なく目を開けて夜空を見上げると、急に一部分だけ明るくなり、何かが見えた。

「鳥?」

 目を細めて、半信半疑で呟く。

その通り、鳥ではあったが、それと信じ切れない動きをしているのが見えた。いや、見えたというのは正確ではない。鳥だと思った浮遊物体が、見えなくなったのだから。

 そして、黒い点に代わって棒のような物が、激しく上下しているのが見えた。

 訳が分からなかったが、とりあえず伸びている棒の根本を目指して走った。

「きゃあ」

 少し行ったところで、思わず耳を塞いだ。耳をつんざく音に驚いたが、なりふり構わず全速で走った。

「はあ、はあ。確か、この辺りのはず」

 やっと山道を抜けると、岩肌が目の前にある開けた場所に出た。

「いない」

 すでに暗くなっている空間を、何事も見逃さないように目を凝らして見渡すが、誰もいなかった。

 空振りに終わったのかと、張りつめていた気持ちが切れそうになったとき一箇所、地面が荒れているところを見つけた。

 近付くと何か落ちていたので、しゃがんで手に取った。

「何かの切れ端かな。沢山ある」

 それは、千代のレオタードの切れ端だったのだが、聖美に分かるはずもなかった。

 光明かと思ったものがまた途切れてガッカリしていると、大きな岩の後ろで、影が動いた気がした。

「誰?聖ちゃんなの?」

 聖美の声が暗闇に消え、数秒間の静寂の後、見知らぬ女が出てきた。

「聖ちゃんというのは、梨々菜のパートナーのことかしら」

「きゃっ!びっくりした。梨々菜さんを、知っているの?」

 聖美が近付いていって問い詰めようとすると後ろから、もう一人出てきた。

「同級生かしら」

「なに?その格好」

 驚くのも無理はない。出てきた女の着ている服が、ズタズタに引き裂かれていたのだから。聖美はすぐに、さっき拾った切れ端を思い出した。

「ま、まさか」

「勘違いしないでくださいね。これは敵にやられたの。聖司さんにじゃないわ」

「そ、そうですか。あれ?あなたは」

 聖美は、千代の顔を指差した。

―――やっぱり、この人が関係してるんだ。

「人を指差すものじゃありませんよ。あの時、聖司さんと一緒にいた娘ですわね。羅々衣さん、この方は聖司さんの彼女ですわ」

「あら、そうなの」

「か、彼女じゃないです。聖ちゃんは、どこですか?」

「違うの。面白くないわね。まあ彼女だとしても、教えられないけど」

 羅々衣は痛めた腕を気にしながら、冷静にキッパリと言い放った。

「どうして?教えてください」

 千代の顔を見るが、首を横に振った。

「どうして」

「二人の所に行くと貴方が、とても危険な目に会うわ」

 千代の無惨な姿と羅々衣の腕を見れば嘘ではないと分かるが、引き下がるわけにはいかなかった。

「それでもいい」

 聖美は強い決意を称える瞳で、羅々衣の目をジッと見つめた。

「貴方。彼女じゃないって言ったけど、聖司さんのことが好きなのね」

 千代の言葉に頷くと、顔が真っ赤になった。この時、聖司を想う感情が何なのか結論が出た。

 聖司が危険に立ち向かおうとしている。自分が行っても足手まといになるかも知れない。その可能性が大きいだろう事も分かる。しかし、その事実を知った今、このまま帰るわけにはいかない。自分に掛かってくる恐怖よりも、聖司を失う恐怖の方が大きかった。

「きっと役に立つと思いますから、教えてください」

「あなた。何か得意なことはある?」

 羅々衣と顔を見合わせていた千代が尋ねた。

「得意なことって言われても、走り幅跳びくらいしかないわ」

「十分よ」

 羅々衣は閻呪文を唱えると、指で印を切った。指先が紅く輝き、バチバチと電気のようなものが音を立てている。明らかに人間業ではない。

「な、なに?」

 まるでゲームの世界のような出来事に怯えた聖美は、思わず後ずさりをした。

「大丈夫ですわ。倍加」

 聖美の足に目がけて手を振り下ろすと、指先から放たれた光が太股をグルグルと回り、一瞬、痺れた。

「何をしたの?」

「ちょっと逃げ足を速くしただけですわ。危ないと思ったら、全速で逃げることをお勧めするわ。梨々菜達は敵を追いかけて、あちらの方へ行きましたわ。いまの、その足なら、すぐに追い付くでしょう」

「わかった。ありがとう」

 聖美は千代にも礼を言うと、羅々衣が指差す方へ走った。すると、とても自分の足とは思えないスピードで山道を走り抜けることが出来た。

「なになになに〜」

 いま百メートルのタイムを測ったら、オリンピックの金メダルは確実だ。もしかしたら地上の動物で、最速を記録しているかも知れない。試しに幅跳びの要領でジャンプしてみると、ゆうに十メートルは飛んだ。男子の世界記録を軽く超えている。

「聖ちゃん。いま行くからね」

 一本道を、二人に追い付くことを願って走った。

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