最悪の過ち
「いいか。何も考えるな。お前はただ言われた通りにすればいい」
別にこのような仕事は聞かないわけではない。
末端の人間は上が何を考えているかまでわざわざ知る必要なんてないのだ。
だが、しかし。
これではあまりにも……。
「いいか。得物はなんでもいい。とにかくお前の仕事はこいつを痛めつけるだけだ」
そう言って先輩は僕の目の前でこん棒を振るって子供の頭を思い切り殴った。
子供は当然ながら大きな声で泣き出す。
「気にするな。とにかくお前は痛め続けるだけでいい」
質問など許さない。
そう言わんばかりの態度に僕は身を震わせる。
しかし、そんな僕を尻目に先輩はこん棒を手渡してくるばかり。
「一時間後に来る。こいつが泣き止んだらお前は思いっきり殴れ。それだけでいいんだ」
――あぁ。
考えてみればたった一時間のことなのか。
僕は後に振り返って考える。
僕が自らの意思を捨てて、まるで機械のように行動する時間はたった一時間だけだったんだ。
先輩は僕ならば出来るってそう思ってくれたのに。
それなのに僕はこんな簡単な事さえ出来ずに……。
部屋を後にした先輩の足音が消えてから、僕は子供にこっそりと尋ねたんだ。
「君は何をしたの?」
子供は泣くばかり。
泣いている姿を見るのは本当に辛い。
例え、どんな事情で泣いているのか知らずとも。
「ねえ。君。僕に出来るのはこれだけなんだけど……」
そう言って僕はこん棒を持って壁を殴りつける。
キョトンとする子供に僕は告げる。
「壁を殴る度に悲鳴をあげて、泣き声を出して。そうすれば僕がいる時間の間だけでも君は痛みから逃れることが出来る」
すると、子供は。
「どうして? どうして助けてくれるの?」
ぽつりと尋ねた。
「君が可哀想だからだよ。何があったか知らないけれど」
僕の答えを聞いて。
「ありがとう」
悪魔はにっこりと笑った。
あぁ。
神様。
どうか、叶うならば時間を巻き戻してください。
――ほんの一時間だけ。
そうすれば二度と僕は間違えません。




