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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

Living

作者: 栗鹿毛洛泉
掲載日:2026/05/19

邪魔邪魔邪魔!

全員ゾンビなのに噛みもしないのだ、邪魔邪魔!

俺は屍肉の塊をすり抜けて車道を走る。

傍らのマンションでは気の触れた何某かが階下に発砲を続けている、ゾンビよりこいつに殺されそうだ、ただ人から離れてゆく。

読めない漢字のように現実から目が滑ってしかたなく、はっきりと酩酊していて――身体は誰もいない場所を欲している。

大きな十字路を突っ切る。…看板大文字小文字が回る。

字がゾンビ化して無意味に立っている。いて、そのためここは欲している場所ではないのだ。

己を素早くしたいというのにどいつもこいつも自転車をロックしている。ふざけるなよ!車輪が回らないならこの器具に何の意味があるんだよ!

温い風が快い。

動物園のゾンビ達は生きていたころよりずっと理性的だ。

これが寄生生物による災害だとしたら、きっとこの生物は拠り所とした者の脳に過ぎたる理性と鎮静を与えて屍とするのだろう。

眠る女児にもたれて天を見る虎を見て、常道の終焉を知った。

山へ山へ向かって、裸体と次々すれ違う。

肌色が多いと不思議とゾンビ(ひと)と思えなくて、不快感が少ない。

代わりに小動物のゾンビが常道に逆らって俺に構わず飛びつきぶつかり集り、皆落ちてなお起き上がろうとしている。不気味。

いちいち踏んでやった方が救いなのだろうか?

でも人を踏めないこびとの卑小な善性かもしれない。

蟹のゾンビが臭過ぎて、田んぼを通っていくのは無理で、ということは海沿いを通っていくのもやはり、俺は妙案を思いついて民家を伝っていくこととした。

すぐに途切れる。

でも誰もいない場所はきっと近いだろう。

日陰に石段がある。太陽は高く丁度昼寝ができないくらいに照っている。

ようやく誰もいない。誰かの痕跡が散らばっている以外には本当に本当にようやく、だ。

俺は登れそうな場所をまっすぐ突き進む。

樹木のゾンビが脱力して腐り果てていることは気にならない。

ただこの世を捨てたい。

向かい風に熱が乗っている。陽気とは違う。

巨人が踏みしめているかのような乾いた破裂音が向こうからやってきて、俺はしかし構わなかった。

野火が森を熔かしている。

頭上に火が巻く。熱いゾンビが落ちてきて、しかし構う様子もなくじっとしている。

ほんの少しだけ、彼らに共感した。

探しているのは死に場所でなく世界の果てだ。

地球が平面である一縷の望みに賭けているのだ。

そこに行ったって魂を失った大蛇のゾンビがいて、ただじっと黄昏を待っているのだ。

正直自分が生者なのか屍なのかもよく分からないので、限界まで水を飲まず死にかけたらまだ生きていると判断することとして、俺は走ってみた。

火炎さえ抜けてしまった。

そこで…足の力が抜けてきた。

膝が震えて、歩いていられなくすらなった――




もう性も根も、銃弾も尽きた。

こんな気持ちで月を見るなら、誰も撃たなければよかった。

私は紛れもなく狂人だった、きっと私のせいで生きている人も皆この町から逃げて行ってしまっただろう。

今更私は蚊取り線香に火をつけて、ベランダで人ぶっている。

こうしていないと必死でかき集めてきた物資をここから下に捨ててしまいそうで…あるいはさっきみたいに蚊取り線香を貪って、きっと続ければ死ねる味につい口から掻き出してしまって、をまたやってしまいそうで。

結局私は生きたいのか死にたいのかどちらなのだろうか?

それを「私」を主語として考えるのはあまりにも苦痛過ぎて――私は何も持たずただ町を抜け出してゆく一人の男の物語を夢想していた。

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