表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

平和の島に、戦火は来る〜軍を捨てた王国の最期〜

掲載日:2026/05/10

オリンピドュ歴709年。

世界は3つの国で分かれていた。

東の共和制国家「テルン共和国」。

西の帝政国家「スバル帝国」。

中間地点に王政の中立国「ピース王国」。

テルンとスバルは、思想と覇権を巡る「テーマ戦争」と呼ばれる泥沼の戦争状態にあった。

そして、テルンとスバルの中間に位置するピースは両国にとって無視できない戦略的要地であった。

この複雑怪奇な情勢の中で、ピースは生き残れるのだろうか?


青い海に囲まれた小国「ピース王国」。

この国には、城壁どころか軍隊すら保有していなかった。

ピースは、東の大国「テルン共和国」と西の大国「スバル帝国」の中間地点に位置し、中継貿易によって繁栄した国だったからだ。

国民は皆、口を揃えて言う、

「軍隊は経済の足を引っ張る金食い虫。資源と時間を無駄にするだけ。軍隊など無くとも、こちらから争わなければ攻撃されることはない。話し合えば分かる。」

と。

国民は笑って暮らしていた。

畑を耕す者。

漁に出る者。

子どもたちは白い砂浜を駆け回り、夜には広場で歌声が響く。

「他国の争いには関わらない」

それがピースの国是だった。

東ではテルンが西のスバルと30年にわたる戦争をしていたが、ピースはどちらにも属さず、中立を守っていた。

ある日。

水平線を埋め尽くす黒い軍艦が現れる。

テルンの国旗を掲げた大艦隊。

国民は息を呑み、子どもたちは泣いた。

その夜、テルンの使者が王の前に立つ。

「スバル帝国との貿易を停止せよ」

玉座の間は静まり返った。

若き王アントニウスは、静かに問い返す。

「……従わなければ?」

使者は冷徹に言った。

「直ちに軍隊を送って占領する。」

翌日、島内で議論が起こった。

「従うべきだ!」

「自由を失う!」

「我々は中立国だ!テルンが攻めてくるわけない!」

広場では怒号が飛び交う中、王は海を見つめていた。

ピースには軍隊がない。

兵も武器もない。

それでも――

「武力に屈して得た平和は、本当の平和と呼べるのか。」

使者は再び言った。

「平和とは、力が対等な者同士でしか成立しない。弱き者は、強き者に従うしかない。」

王はしばらく沈黙した。

やがて顔を上げ、テルンへの拒絶を宣言する。

使者が戻ったその瞬間、海から軍艦の砲撃が始まった。

空を裂く砲弾。

燃え上がる港。

崩れる家々。

悲鳴が夜を覆う。

昨日まで歌が響いていた広場には、血が流れていた。

王は農具を握りしめ、民を逃がすため前線に向かう。

王は逃げ遅れた民を庇いながら、必死に抵抗した。

圧倒的だった。

平和しか知らなかった島は、戦争の前ではあまりにも脆かった。

やがて王都が陥落する。

燃える城のなかで、忠臣は王に叫ぶ。

「お逃げください!王だけでも!」

だがアントニウスは首を振った。

「民を残して、生き延びる王に価値はない。」

扉が破られる。

テルン兵が雪崩れ込む(なだれこむ)

その時、王は最後に海を見た。

穏やかな青だった。

まるで何も変わっていないかのように。

「……平和とは、願うだけでは守れないのだな。」

炎の中、王は農具を構える。

そしてピース王国の名は、この日、地図から消えた。

後に島の男性は1人残らず粛清され、女や子どもは奴隷として島から連れ出された。

無人となった島には、やがてテルン人が入植した。

ピース王国の言葉も、歌も、海に沈んだ。

だが後の時代。

共和国の歴史書には、こう記される。

「最も弱く、最も誇り高い島だった」と。










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ