パーティ結成
リンと組んで一週間が経った。
その間、俺たちは様々な依頼をこなした。魔物討伐、薬草採取、護衛任務――どれも順調だった。
リンの術式と俺の剣技は、驚くほど相性が良かった。
「レン先輩! 今日はどんな依頼にしますか?」
朝、ギルドの掲示板の前で、リンが元気よく訊いてくる。
「そうだな……」
掲示板を眺める。
その中に、一つ気になる依頼があった。
【遺跡調査の護衛 / 場所:古代遺跡「忘却の祠」 / 報酬:金貨2枚 / 推奨ランク:D / 人数:3名以上推奨】
「遺跡調査か」
「わぁ、報酬がすごいですね!」
リンが目を輝かせる。
「でも、Dランク推奨……私たち、まだEランクですよ?」
「ああ。それに、三名以上推奨だ」
「じゃあ、誰かもう一人……」
その時、後ろから声がかかった。
「その依頼なら、私も受けるつもりよ」
振り返ると――
「エリス!」
金髪の少女、エリス・ルミナスが立っていた。
「久しぶりね、レン」
「ああ。元気そうだな」
「ええ。あなたもね」
エリスは微笑んで、それからリンに視線を移した。
「あら、この子は?」
「あ、初めまして! 私、リン・シャオメイです! レン先輩のパーティメンバーです!」
リンが元気よく自己紹介する。
「レン……先輩?」
エリスが少し驚いたような顔をした。
「そんなに慕われてるのね」
「いや、勝手にそう呼んでるだけだ」
「もう〜、レン先輩、照れてます?」
リンがニヤニヤしながら言う。
「照れてない」
「あら、可愛いわね」
エリスがクスクスと笑った。
「私はエリス・ルミナス。以前、レンと一緒に依頼をこなしたことがあるの」
「そうなんですか! じゃあ、レン先輩の仲間ですね!」
「まあ、そうね」
エリスとリンが向き合う。
二人とも笑顔だが、どこか火花が散っているような気がする。
「それで、その遺跡調査の依頼だけど」
エリスが話題を戻した。
「私一人で受けようと思ったんだけど、三名以上推奨って書いてあって」
「俺たちも、ちょうど人数が足りないと思ってたところだ」
「じゃあ……一緒にどう?」
「異論はない。リンは?」
「もちろんです! よろしくお願いします、エリスさん!」
「ええ、こちらこそ」
こうして、三人でのパーティが結成された。
依頼の詳細を確認するため、依頼主の元へ向かった。
依頼主は学者風の老人だった。名前はアルベルト博士という。
「おお、来てくれたか。私はアルベルト。古代文明の研究をしている」
「古代文明?」
「そうじゃ。この大陸には、かつて高度な文明があったと言われておる」
アルベルトは興奮気味に語った。
「その文明の遺跡が、街の北東にある。それが『忘却の祠』じゃ」
「忘却の祠……」
「ああ。そこには、古代の知識が眠っていると言われておる。ぜひとも調査したいのじゃが……」
「危険なんですか?」
エリスが訊く。
「魔物が住み着いておってな。学者だけでは危険なのじゃ。だから、護衛をお願いしたい」
「分かりました。お受けします」
「ありがとう! では、明日の朝、街の北門で待ち合わせじゃ」
依頼を受けた後、三人で準備をすることにした。
「じゃあ、武器屋と道具屋を回りましょう」
エリスが提案する。
「あ、私も符札を補充しないと!」
リンも賛成する。
まず、武器屋へ向かった。
店の主人――以前に剣を買ったドワーフが、俺たちを覚えていた。
「おお、また来たか! あの剣、調子はどうだ?」
「すごくいい。気に入ってる」
「そりゃ良かった! で、今日は?」
「装備の点検と、もし良いのがあれば」
「任せとけ!」
ドワーフは奥から様々な装備を持ってきた。
エリスは軽装の胸当てを、リンは護符付きのブレスレットを購入した。
「これで防御力も上がりますね!」
リンが嬉しそうに言う。
次に、道具屋で回復薬や道具を補充した。
「遺跡だと、何があるか分からないからな」
「そうね。準備は入念にしておきましょう」
エリスが頷く。
準備を終え、宿に戻る途中、リンが提案した。
「ねえねえ、せっかくだから三人でお茶しませんか?」
「お茶?」
「はい! 明日から一緒に戦うんですから、もっと仲良くなった方がいいと思って!」
「……いいわね」
エリスが賛成した。
「私も賛成よ。レン、あなたは?」
「……俺も構わない」
「やった! じゃあ、美味しいカフェ知ってるんです! こっちです!」
リンに連れられて、街の中心部にあるカフェに入った。
オープンテラスのある、雰囲気の良い店だ。
「ここ、甘いものが美味しいんですよ〜」
三人で席につき、注文する。
リンはケーキセット、エリスは紅茶、俺はコーヒーを頼んだ。
「それで……」
エリスが口を開いた。
「リンちゃんは、どうしてレンと組むことになったの?」
「それはですね……」
リンは縁尋の符のことを説明した。
「運命の人を探す符札が、レン先輩に反応したんです!」
「運命の人……」
エリスが複雑な表情をした。
「そう。それは……すごいわね」
「エリスさんは、どうしてレン先輩と知り合ったんですか?」
「私は……護衛依頼で一緒になったの」
エリスは少し頬を赤らめた。
「その時、レンに……助けてもらって」
「へぇ〜! レン先輩、エリスさんを助けたんですか!」
「いや、あれは……」
「かっこいいですね! さすがレン先輩!」
リンが目を輝かせる。
「別に、普通のことをしただけだ」
「謙遜しなくていいのよ」
エリスがクスリと笑った。
「あなたは、自分が思っているより、ずっと立派よ」
「……そうか?」
「ええ」
二人に褒められて、少し照れくさい。
「ねえねえ、二人とも、レン先輩のどこが好きですか?」
リンが突然、爆弾発言をした。
「な!?」
「え!?」
俺とエリスが同時に驚く。
「だって、気になりません? 私は、レン先輩の優しいところが好きです!」
「り、リン……!」
「あと、強いところと、かっこいいところと……」
「分かった、分かった!」
俺は慌ててリンを止めた。
「エリスさんは? どうですか?」
「わ、私は……」
エリスが顔を真っ赤にする。
「べ、別に、好きとかそういうんじゃなくて……」
「ツンデレですか?」
「ツンデレって何よ!」
「えへへ、図星ですね〜」
リンがニヤニヤしている。
「もう! リンちゃんったら!」
エリスが恥ずかしそうに顔を隠す。
その様子を見ていて、俺は思った。
二人とも、本当にいい奴だ。
「……ありがとう」
思わず、口に出ていた。
「え?」
「何が?」
二人が不思議そうに俺を見る。
「いや……お前たちと一緒にいると、楽しいなって」
「……!」
二人の顔が、また赤くなった。
「も、もう! レンったら、急にそんなこと言うんだから!」
「ず、ずるいです、レン先輩!」
二人が顔を隠して、俯く。
その様子が可愛くて、俺も少し笑ってしまった。
翌朝。
北門の前で、アルベルト博士と合流した。
「おお、来てくれたか! これが助手のミレーヌじゃ」
博士の隣には、二十代くらいの女性がいた。眼鏡をかけた、知的な雰囲気の人だ。
「よろしくお願いします」
ミレーヌが丁寧に頭を下げる。
「では、出発しましょうか」
六人で街を出て、北東へ向かう。
道中、アルベルト博士が遺跡について説明してくれた。
「忘却の祠は、約三千年前の遺跡じゃ」
「三千年……!」
「ああ。大崩壊以前の文明の遺跡じゃな」
「大崩壊?」
リンが首を傾げる。
「知らんのか? 三千年前、この世界は大きな災厄に見舞われた」
「災厄……」
俺の頭の中に、何かが引っかかった。
「次元の裂け目から、異形の存在が現れたと言われておる。その戦いで、古代文明は滅んだ」
「次元の裂け目……」
その言葉を聞いた瞬間、左肩の刻印が疼いた。
「っ……」
「レン? 大丈夫?」
エリスが心配そうに訊いてくる。
「ああ、大丈夫だ」
だが、確かに反応した。
刻印が、その言葉に反応した。
「その災厄を止めたのが、伝説の英雄たちじゃ」
「英雄?」
「ああ。七人の英雄が、災厄を封印したと言われておる」
「七人……」
また、頭の中にイメージが浮かぶ。
七つの影。背中合わせで立つ、七人の姿。
「その英雄たちの名は、後世に『禍ツ神』と伝えられておる」
「マガツカミ……」
その名前を聞いた瞬間――
頭の中に、激痛が走った。
「ぐっ……!」
「レン先輩!?」
「レン!」
二人が駆け寄ってくる。
「だ、大丈夫……」
だが、痛い。頭が割れそうだ。
そして――記憶の断片が、溢れてきた。
『――禍ツ神、出動だ!』
『――世界を守る。それが俺たちの使命だ』
『――ミコト、お前も立派な禍ツ神の一員だ』
声。知らない声。でも、懐かしい声。
「俺は……禍ツ神……?」
呟いた言葉を、誰も聞いていなかった。
しばらくして、痛みが引いた。
「本当に大丈夫なの?」
エリスが心配そうに訊く。
「ああ。少し、頭が痛かっただけだ」
「無理しないでくださいね」
リンも心配そうだ。
「……ありがとう」
二人の優しさが、胸に染みる。
それから一時間ほど歩いて、目的地に着いた。
「あれが、忘却の祠じゃ」
アルベルトが指差す先には、古びた石造りの建物があった。
入口は暗く、中が見えない。
だが、そこから漂ってくる空気が――
「……嫌な予感がする」
「私も」
エリスが剣に手をかけた。
「魔物の気配がします」
リンも符札を取り出す。
「気をつけて入るぞ」
俺が先頭に立ち、遺跡の中へ足を踏み入れた。
遺跡の中は薄暗く、湿っていた。
壁には古代文字が刻まれている。
「これは……見事じゃ!」
アルベルトが興奮している。
「この文字、読めるのか?」
「ある程度はな。これは……『封印』……『守護者』……『七つの……』」
「七つ?」
「うむ……この先が欠けておる」
奥へ進むと、広間に出た。
そこには、石像が七体並んでいた。
「これは……!」
アルベルトが驚きの声を上げる。
「七体の石像……もしや、これが七人の英雄……!」
俺は石像を見上げた。
七体。それぞれ、異なる武器を持っている。
剣、双剣、扇、短剣、錫杖、大剣――
そして、中央には――
刀を持った、一番若い石像。
「……!」
その石像を見た瞬間、胸が締め付けられた。
これは――
「レン先輩?」
リンが心配そうに声をかけてくる。
「大丈夫だ。ただ……」
「ただ?」
「……何でもない」
その時、石像の一つが動いた。
「!?」
「な、何!?」
石像が――生きている。
いや、魔物が石像に擬態していたのか。
「グオオオオ!!」
石像が咆哮を上げ、襲いかかってきた。
「みんな、下がって!」
俺が前に出る。
「レン!」
「大丈夫だ!」
石像の拳が飛んでくる。
横に避けて、剣で斬りつける。
だが――
「硬い!」
刃が弾かれる。
「レン先輩! 火符!」
リンが符札を投げる。
炎が石像を包む。
「光剣舞・三の型!」
エリスが連続攻撃を仕掛ける。
二人の攻撃で、石像にヒビが入った。
「今だ!」
俺は全力で剣を振るった。
「はああああっ!!」
剣が石像の胴体を貫く。
「グ……ガァ……」
石像が崩れ落ちた。
「……やった」
息が上がる。
「大丈夫、レン?」
「ああ……」
その時、崩れた石像の中から、何かが光った。
「あれは……?」
近づくと、それは小さな水晶だった。
手に取ると――
水晶が輝き、俺の左肩に吸い込まれていった。
「!?」
刻印が熱を帯びる。
「レン!」
「大丈夫……」
だが、頭の中に、また記憶が流れ込んできた。
『――ミコト、これを』
『――これは……』
『――お前の、証だ』
誰かが、俺に何かを渡している。
「証……」
刻印が、さらに複雑な模様に変化した。
「レン先輩……刻印が……」
「ああ。また、変わった」
力が、また増している。
「一体、何なんだ……この刻印は」
答えは、まだ分からない。
でも、確実に――
真実に、近づいている。




