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マガツカミ ―忘却の英雄は異世界で目覚める―  作者: アイザワ


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陰陽師の少女

 エクリプスに戻って三日。

 俺は連日、ギルドの依頼をこなしていた。

 魔物討伐、採取依頼、護衛任務――どれも順調にこなし、報酬も溜まってきた。

 そして何より、戦闘経験を積むことで、自分の力をより理解できるようになっていた。

「今日の依頼も完了です」

 ギルドのカウンターで、ミラに報告する。

「お疲れ様、レンくん。相変わらず順調ね」

「おかげさまで」

 ミラが依頼書を確認し、報酬の銀貨を渡してくれる。

「あ、そうだ。レンくん、ちょっといい?」

「何ですか?」

「実はね、ある人があなたを探してたの」

「俺を?」

「ええ。東方から来た女の子でね。陰陽師だって言ってたわ」

「陰陽師……」

 東方の術式使いか。

「その子、今どこに?」

「確か、中央広場の噴水の近くで待ってるって言ってたわ」

「分かりました。行ってみます」

 ギルドを出て、中央広場へ向かう。

 噴水の周りには、いつものように人が集まっている。商人、冒険者、観光客――様々な人々が行き交う。

 その中に――

「あっ! いたいた!」

 明るい声が響いた。

 振り返ると、小柄な少女が手を振りながら走ってくるのが見えた。

 黒髪のショートヘア。赤いリボン。巫女装束のような服。腰には符札の束と小太刀。

 年は十五、六歳くらいだろうか。

「やっと見つけましたよ〜!」

 少女は息を切らしながら、俺の前に立った。

「あなたが神代レンさんですよね?」

「……ああ、そうだが」

「よかったぁ! ずっと探してたんです!」

 少女はニコニコと笑顔を浮かべている。

「俺を? なぜ?」

「えっとですね……」

 少女は懐から一枚の符札を取り出した。

「この符札が、あなたに反応したんです!」

「符札が?」

「はい! これ、『縁尋の符』っていって、運命の人を探す符札なんですよ!」

「運命の人……?」

「そうです! で、昨日エクリプスに着いて、この符を使ったら――あなたの方向を指したんです!」

 少女は興奮気味に話す。

「だから、絶対に会わなきゃって思って、ギルドで聞いたらレンさんのこと教えてもらえて!」

「ちょっと待て」

 俺は手を上げて、少女を制した。

「まず、名前を教えてくれ」

「あっ、ごめんなさい! 自己紹介がまだでしたね!」

 少女は胸に手を当てて、元気に言った。

「私はリン・シャオメイ! 神楽連邦から来た陰陽師見習いです! よろしくお願いします!」

 深々とお辞儀する。

「……神代レンだ」

「はい、知ってます! レンさんですよね!」

「で、その……運命の人って、どういう意味だ?」

「えっとですね」

 リンは少し頬を赤らめた。

「縁尋の符は、自分にとって大切な人を探す符札なんです。師匠、友人、恋人……そういう、運命的な出会いをする人を」

「……それが、俺?」

「そうです!」

 リンは確信を持って頷いた。

「だから、私、レンさんと一緒に冒険したいんです!」

「は?」

「パーティ、組みませんか!?」


 結局、リンに押し切られる形で、近くのカフェに入ることになった。

 テーブルを挟んで向かい合う。

「それで……なぜ俺なんだ?」

「だから、符札が反応したんですってば!」

 リンは紅茶を飲みながら、屈託のない笑顔で答える。

「でも、それだけで一緒に冒険とか……」

「レンさん、もしかして私のこと、疑ってます?」

「疑ってはいないが……」

「なら大丈夫です! 私、ちゃんとした陰陽師ですから!」

 そう言って、リンは符札を数枚テーブルに並べた。

「ほら、これが火符。これが水符。これが封印札。これが式神召喚の符で――」

「分かった、分かった」

 俺は手を上げて、リンの説明を止めた。

「お前が陰陽師だってことは信じる」

「ほんとですか!?」

「ああ。でも、パーティを組むのは……」

「ダメですか?」

 リンが上目遣いで見てくる。

 その瞳は、純粋で、真っ直ぐで――断りにくい。

「……理由を聞かせてくれ。なぜ、そこまでして俺と?」

「それは……」

 リンは少し考えてから、真剣な表情になった。

「レンさんの気配、普通じゃないんです」

「気配?」

「はい。陰陽師は気の流れを感じ取れるんですけど……レンさんからは、すごく強くて、でも不安定な気を感じるんです」

 リンは俺の左肩を見た。

「それに、その刻印……」

「刻印が見えるのか?」

「はい。服の上からでも分かります。すごく強い術式の気配がします」

 リンは真剣な顔で続けた。

「レンさん、自分の力を完全にはコントロールできてないでしょう?」

「……!」

 図星だった。

 刻印の力は確かに強い。だが、完全には理解できていない。

「私、お役に立てると思うんです。陰陽術で、レンさんの力を安定させることができるかもしれません」

「……本当か?」

「はい! それに……」

 リンは再び笑顔になった。

「私、レンさんと一緒にいると、なんだか安心するんです。初めて会ったのに、不思議ですよね」

 その言葉に、俺も何かを感じた。

 リンと話していると――確かに、懐かしいような、温かいような感覚がある。

「……分かった」

「え?」

「一緒に組もう。ただし、試用期間だ」

「ほんとですか!?」

 リンが椅子から飛び上がった。

「やったぁ! ありがとうございます、レンさん!」

「そんなに喜ぶことか?」

「当たり前です! だって、運命の人と一緒に冒険できるんですよ!?」

 リンは本当に嬉しそうだ。

「じゃあ、早速ギルドに登録しに行きましょう!」

「登録?」

「はい! 私もまだエクリプスのギルドに登録してないんです。一緒に行きましょう!」


 ギルドに戻ると、ミラが驚いた顔で出迎えた。

「あら、レンくん。もう会えたのね」

「はい。それで、この子が――」

「リン・シャオメイです! よろしくお願いします!」

 リンが元気に自己紹介する。

「元気な子ね。それで、登録?」

「はい!」

 ミラがリンに登録用紙を渡す。

「じゃあ、こちらに記入してね」

 リンが記入している間、ミラが小声で俺に言った。

「レンくん、パーティ組むの?」

「ああ。試しに」

「いいと思うわ。一人より二人の方が、依頼の幅も広がるしね」

「そうだな」

 しばらくして、リンの登録が完了した。

「はい、これがあなたの冒険者プレート」

 ミラがリンに銅色のプレートを渡す。

【リン・シャオメイ / ランク:F】

「わぁ! 私も冒険者デビューです!」

 リンが嬉しそうにプレートを眺めている。

「それじゃあ、早速依頼を受けましょうよ、レンさん!」

「もう受けるのか?」

「はい! 私、やる気満々です!」

 リンの勢いに押されて、俺たちは依頼の掲示板を見た。

「どれがいいですかね〜」

 リンが掲示板を見渡す。

「あ、これなんてどうです?」

 リンが指差したのは――

【薬草採取 / 場所:翠緑の森 / 報酬:銀貨10枚 / 推奨ランク:F】

「薬草採取か」

「はい! 私、薬草の知識もあるんですよ! 陰陽師は薬学も学びますから」

「そうなのか」

「それに、危険も少ないですし、初めての依頼にちょうどいいと思います!」

「……分かった。じゃあ、これを受けよう」


 翌朝。

 俺たちは翠緑の森へ向かった。

「わぁ、いい天気ですね〜!」

 リンは上機嫌で歩いている。

「こういう森って、気が清らかで気持ちいいんですよ〜」

「そうか」

「レンさんは、あまり森とか好きじゃないですか?」

「いや、嫌いじゃない。むしろ、落ち着く」

「ですよね! 私もです!」

 リンは本当によく喋る。

 でも、不思議と煩わしくない。むしろ、心地よい。

「あ、レンさん! あれ見てください!」

 リンが指差す方向を見ると、小さな鳥が木の枝に止まっていた。

「青い鳥だ……綺麗」

「ブルーフィンチっていうんですよ。幸運の鳥って言われてるんです」

「へぇ」

「レンさん、今日はいいことありますよ!」

 リンが笑顔で言った。


 森の奥へ進むと、目的の薬草が生えている場所に辿り着いた。

「ここですね!」

 リンが嬉しそうに薬草を摘み始める。

「この葉っぱ、熱を下げる効果があるんですよ」

「詳しいんだな」

「はい! 師匠に厳しく教え込まれましたから」

 リンは手際よく薬草を採取していく。

 俺は周囲を警戒しながら、見張りをする。

「レンさん、ちょっと手伝ってもらってもいいですか?」

「ああ」

 リンの隣にしゃがみ、薬草を摘む。

「根っこは残してくださいね。また生えてきますから」

「分かった」

 二人で黙々と作業する。

 穏やかな時間。

 こういう時間も、悪くない。

「ねえ、レンさん」

「ん?」

「レンさんって、記憶がないんですよね?」

「……ああ」

「寂しくないですか?」

 リンが心配そうに訊いてくる。

「寂しい……か」

 考えたことがなかった。

「分からない。でも、村の人たちや、ギルドの人たちが優しくしてくれるから」

「そっか……」

 リンは少し考えてから、笑顔を見せた。

「じゃあ、私も優しくしますね!」

「……ありがとう」

「それに、レンさんにはきっと、大切な人たちがいたと思うんです」

「大切な人……?」

「はい。レンさんの気配から、そう感じます。たくさんの人に愛されていた気配が」

 リンの言葉が、胸に染みた。

 本当に、そうなのだろうか。

 俺には、大切な人たちがいたのだろうか。

「……思い出したいな」

「大丈夫ですよ。きっと思い出せます」

 リンが優しく微笑んだ。

「私も、お手伝いしますから」


 薬草採取を終え、森を出ようとした時だった。

「……待て」

 俺は立ち止まった。

「どうしたんですか?」

「何かいる」

 気配を感じる。殺気。

「リン、俺の後ろに」

「は、はい!」

 リンが俺の後ろに隠れる。

 茂みが揺れた。

 そこから現れたのは――

「オーガ……!」

 三メートルを超える巨体。灰色の肌。鋭い牙。棍棒を握っている。

「グルルル……」

 オーガが唸り声を上げる。

「まずい……なんでこんなところに」

 オーガは通常、もっと奥地に生息する。それがなぜ、ここに。

「レンさん……」

「大丈夫だ。お前は下がってろ」

「で、でも!」

「いいから!」

 俺は剣を抜いた。

 オーガが咆哮を上げ、棍棒を振り上げた。

「来るぞ!」

 オーガが突進してくる。

 俺は横に跳んで回避。

 だが、オーガの動きは速い。すぐに方向転換して、再び襲いかかってくる。

「くそっ!」

 棍棒が振り下ろされる。

 剣で受ける――が、力が違いすぎる。

「ぐっ!」

 弾き飛ばされ、地面に転がる。

「レンさん!」

「来るな!」

 オーガが追撃してくる。

 立ち上がり、再び剣を構える。

 だが、このままでは――

 その時、リンの声が響いた。

「急急如律令! 火符爆裂!」

 リンが符札を投げた。

 符札がオーガに当たり――爆発した。

「グオオオ!?」

 オーガが怯む。

「今です、レンさん!」

「ああ!」

 機を逃さず、俺は駆けた。

 オーガの懐に潜り込み、剣を突き立てる。

 だが、皮膚が硬い。深く刺さらない。

「もう一発! 風符疾走!」

 リンが別の符札を投げる。

 風が巻き起こり、オーガの動きが鈍る。

「今度こそ!」

 俺は全力で剣を突き刺した。

 喉元に――深々と。

「グ……アア……」

 オーガが膝をつき、倒れた。

「……やった」

 息が上がる。

「レンさん! 大丈夫ですか!?」

 リンが駆け寄ってくる。

「ああ……お前のおかげだ」

「いえ! 私、何もできなくて……」

「いや、お前の援護がなければ負けてた」

 俺は本心からそう言った。

 リンの符札は、確実にオーガの動きを制限した。

「……ありがとう、リン」

「え……?」

 リンが驚いたように目を見開いた。

 それから――顔が真っ赤になった。

「あ、あの、今……名前、呼んでくれました?」

「……ああ」

「わぁ……嬉しい……」

 リンが照れ笑いを浮かべる。

「じゃあ、私もレン先輩って呼んでいいですか?」

「先輩?」

「だって、レンさん先に登録してますし! それに、強いし!」

「……好きに呼べ」

「やった! じゃあ、レン先輩!」

 リンが嬉しそうに笑う。

 その笑顔を見て、俺も少し笑ってしまった。


 街に戻り、ギルドに報告する。

「オーガまで倒したの!? すごいわね!」

 ミラが驚いている。

「リンちゃんの援護があったからよ」

「えへへ……」

 リンが照れている。

「それにしても、息ぴったりね。初めてとは思えないわ」

「そうですか?」

「ええ。まるで、ずっと一緒に戦ってきたみたいよ」

 ミラの言葉に、俺とリンは顔を見合わせた。

「……確かに」

 不思議と、リンとの連携はスムーズだった。

 まるで、以前から知っていたかのように。

「これも運命ですかね〜?」

 リンが笑う。

「……かもな」


 その夜。

 宿の食堂で、リンと一緒に夕食を取った。

「今日は楽しかったです!」

 リンが笑顔で言う。

「明日も一緒に依頼、受けましょうね!」

「ああ」

「それで、その次も、その次も!」

「……分かった」

 リンの元気に、少し圧倒される。

 でも、悪い気はしない。

「ねえ、レン先輩」

「ん?」

「私たち、これからもずっと一緒ですよね?」

「……ああ」

「約束ですよ!」

 リンが小指を差し出してくる。

「指切り?」

「はい! 師匠が教えてくれたんです。大切な約束をする時は、指切りするんだって」

「……そうか」

 俺は小指を差し出し、リンの小指と絡めた。

「指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲〜ます!」

 リンが嬉しそうに唱える。

「よし、これで約束成立です!」

「……ああ」

 小指を離す。

 温かい。

 リンの手は、小さくて、温かかった。

「じゃあ、今日はもう寝ますね! おやすみなさい、レン先輩!」

「ああ、おやすみ」

 リンが自分の部屋に戻っていく。

 その背中を見送りながら、俺は思った。

 リンといると――心が、温かくなる。

 まるで、失っていた何かを取り戻したような。

「……不思議な奴だ」

 呟いて、俺も自分の部屋に戻った。

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