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41/50

41・軽率?


 たろちゃんと一緒にドレスを選んでいたが、なかなか決める事ができなかった。色々種類があって一着だけを決めかねている。ドレスってどれも綺麗で可愛いから目移りして大変だ。店員さんもあれもこれもと薦めてくれるものの、どれも可愛くて首を傾げてしまう。そんな時、たろちゃんが数着のドレスを持って私のところにやってきた。


「ねぇ、香澄! これ、着てみてくれる?」

「こんなに!?」

「妥協したくないからさぁ。ね、悪いけど頼む!」

「う、うん……わかった」


 そうして、私はドレスと店員と共に試着室へと入っていった。ドレスの下に着る補整下着を身に着けると、足元で店員がドレスを持って待ち構えている。足元にドレスを広げ、ドレスに足を通すと店員が上にドレスを引き上げる。そして胸をぎゅっと寄せながらサイズを確かめると、それはまるで自分の為に仕立てられたようにピッタリだった。プリンセスラインのふわふわな可愛いドレス。後ろは編み上げになっていてビスチェタイプのドレスだった。


「うわ……可愛い」

「お似合いですよ。ご結婚される時は、是非、またお越しくださいね」


 笑顔で言う店員に思わず頷いてしまった。勿論、そんな予定はないけれど。

 それにしてもこれが中古だなんて思えないなぁ……それくらいドレスは新品のように綺麗で素敵なものばかり。そう、ここは中古ドレスが置いてあるお店で、新品のものより安価で手に入る。中古とはいえ何度も着ているものではないし、ちゃんとクリーニングもしてあるので綺麗さは保障できる。次々とドレスを着せられてはたろちゃんの確認が入るので、少し疲れてしまった。そして、このドレスの中でも一番のお気に入りのドレスを着た自分を、たろちゃんに頼んで携帯のカメラで撮影してもらった。私の携帯に納められたお気に入りの写真は、何度見てもつい顔がほころんでしまう。写真の中の私は、嬉しそうにドレスを身に纏ったお姫様のようだ。たろちゃんもそんな私を見て、嬉しそう。


「香澄の結婚式は、俺泣いちゃいそうだなー」

「まだ結婚の予定ないけど」

「まぁ、そんなこと言ってる間にも予定は立つさ。いないの、結婚したいなーってヤツ」

「……いた」

「いた? 過去形か」

「痛いところ突っ込まないでよ。ほら、決まったなら行くよ!」

「はいはい」


 こうして、たろちゃんと私は無事にドレスを購入してお店を出て行った。お気に入りのドレスを手にしたたろちゃんは、とても嬉しそうだ。これできっと素敵な結婚式ができるよね。役に立てて良かったなぁ。ご機嫌なたろちゃんの横を歩いていると、なんだかこっちまで嬉しくなってきちゃう。だって鼻歌なんか歌ってるんだもん。でも昔からたろちゃんは歌が下手だったから、鼻歌もオンチだけど。こうして並んで歩いていると、とても懐かしい気持ちが甦ってくるようだ。……あの頃は、たろちゃんのことが大好きで、いつも私に優しく手を差し伸べてくれることが嬉しくて……いつまでも隣で私が笑っていると思っていたのに、たろちゃんも私も、気がついたら大人になっていたんだな。懐かしい思い出に浸りながら、私とたろちゃんは歩いていった。

 たろちゃんと並んで歩いている途中、二人のおなかが同時にぐ~っと鳴ってしまう。私達は飲まず食わずでドレスに夢中になりすぎていたので、お昼ごはんを食べ損ねてしまったのだ。渋沢先輩に失恋してから食欲はあまりなかったけれど、今日はたろちゃんのお陰で良い気分転換ができたので自然とおなかも空いたようだ。我ながら単純だなぁと思ったけれど、少しずつ気分が浮上していくならそれにこしたことはない。私とたろちゃんがおなかを押さえながら同時に顔を合わせると、ふっと笑みが零れてしまう。


「少し早めの夕飯にしようか」

「うん! 勿論たろちゃんのおごりでしょ?」

「はいはいお姫様。今日付き合ってくださったお礼にご馳走させてください」

「うむ。よかろー」


 エスコートするように腕を差し出すたろちゃん、その冗談に乗っかってたろちゃんの腕に自分の腕を絡ませた。周りから見たら私達はどう見てもカップルだろう。周りはカップルと思うかもしれないけれど、お兄ちゃんと妹のような私達は、特に何も気にせず腕を組んだままレストランへと向かって歩き出した。たろちゃんの隣で能天気に笑っている私。軽率だったと気付いたのは、もう少し先のことだった。


 

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