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35・告白の行方

 先輩の口から零れた突然の告白。私はそのまま動けず先輩を見つめていたが、やがて恥ずかしさがカーッと全身に広がり両手で顔を覆った。絶対に真っ赤になっていることだけはわかっている。どきどきと打つ胸の音が人生で一番大きな音を鳴らしていた。自分から告白するだろうと思っていたのに、まさかの先輩からの告白に私は驚いてしまい、自分が今どこにいるのかすらよくわからないくらいパニックを起こしかけていた。両手で顔を覆った指の隙間から先輩を覗き見ると……あれ?


「……むにゃ」

「ちょ、ちょっと……先輩?」

「……すぅ」

「えぇ!?」


 真っ直ぐ私を潤んだ瞳で捉えていた筈なのに、それはいつのまにか閉ざされていて、規則的で穏やかな寝息が渋沢先輩から聞こえている。まさかこの一瞬で眠りに落ちるなんて誰が思うのだろうか。

 渋沢先輩……まさかこの告白は……冗談、とかじゃないですよね? そんな悪趣味な冗談はいくら私でも、さすがに怒りますよ? 

 憎たらしいほど艶やかな頬を、つんつんと突くと凄く嫌そうに眉間に皺を寄せながらも人の膝でスヤスヤと眠っている先輩。さっきの言葉が嘘じゃないように今は祈るしかない。だって、こんなに無防備な寝顔を見るのは初めてだから。できることならずっとこの寝顔を見ていたいなぁと思いながら、ふっと口元が上がり、いつのまにか私の頬が緩んでいた。

 しばらく先輩を膝の上に乗せていたら、ぴりぴりと足が痺れてきてしまった。少しだけ足を崩し、先輩を起こさないようにそっと動いたけれど、先輩は私が足を動かしたと同時にゆっくりと瞼を開いた。


「ごめんなさい、起こしちゃいましたか?」

「……ん? ううん……大丈夫」

「もう少し寝ますか?」

「……枕、気持ちいいしね……枕、枕!?」

「先輩……腿を撫でるのはちょっと……」

「ご、ごめん! え? なんで僕、ひひひひ膝枕……っ!?」


 激しい動揺が先輩を襲う。

 その姿を見て、自分はなぜか冷静でいられるから不思議だ。

 先輩の顔を覗き込んだら勢いよく先輩が起き上がり、その拍子に私達のおでこが勢い良くゴツンと鈍い音を立てる。思わず二人でおでこを抱えて悶絶していると、ふいに目が合い、思わず二人で笑い転げてしまった。ぶつかったおでこは相当痛かったし、お互い赤くなってしまったけど、なんだか気分は晴れやかだ。先輩の告白のことは追及せずに、今はこうして笑い合っていよう。酔いが冷めたら、ちゃんと今度は私から気持ちを打ち明けてみよう。きっともう、私達の距離は随分と縮まっているから。

 自然にそう思えたその時、先輩が正座してジッと私を見つめている。どうしたのかと思い、なんとなく私も正座して彼に向かい合うと、彼の膝に置かれた手がぎゅっと力強い拳を作っていた。


「あの、さっき……僕、君に何か言った……?」

「え、と。さっきって?」

「その、膝枕……してもらってた時」


 もしかしたら、先輩はさっきの告白のことを言っているのだろうか。でも、私の口から先輩の言葉を伝えるのはなんとなく恥ずかしくて、わざと意地悪なことを言ってしまった。


「……覚えてないんですか?」


 ちらっと上目遣いで彼を見ると、彼の顔色が少々優れないような気がした。やっぱり、あれはただの冗談だったのか……そう思ったら私はがっくりと頭を落としてしまった。あの言葉も、重なった唇も、そこから伝わったぬくもりすらも嘘だと否定された気がして、なんだか悲しくなってしまった。ふぅっと大きな溜息を吐くと先輩が申し訳なさそうに私に謝る。別に謝って欲しいわけじゃない、ただ寂しいだけ。でも、もう私はこんなことでクヨクヨなんてしたりしない。クヨクヨするくらいなら、思うが侭に行動したほうがよっぽど良い。前はそれができなくて何度も後悔の涙を流したことがあるだけに、今回だけは自分で決めたことを覆したくない。私は先輩に、いつか自分の気持ちを打ち明けようと強く思ったのだ。ここで引いたら女が廃る! 私は意を決し、先輩をジッと見つめ返した。


「ど、どうしたの? 怖い顔して……」

「先輩」

「はい!」


 よっぽど私が怖かったのだろう。多分緊張していて顔が強張っていて声もなんだかいつもより低い。お酒で焼けてしまったのかもしれないけれど。私は先輩の方にしっかり正座して姿勢を正し、まっすぐその漆黒の瞳を見つめた。しかし思うように口が動かない。言いたい言葉は喉まで出掛かっているのに、緊張して私の言葉を押し留めているようだ。

 私は一旦呼吸を整えて大きくはぁ~っと息を吐いた。頭もがっくりと落とし、自分の膝を見つめる。どうして、どうして『好き』というたった二文字が言えないのだろう。そのもどかしさに涙が出た。そして再び溜息。でも、どうやらその溜息が良かったようで、私はなんとなく肩を張ることをやめ、背中は丸まったまま顔だけ先輩に向けて自然に口を開いた。


「……先輩が、好きです」


 あくまでも自然に、でも丁寧に。ありったけの想いを込めた私の告白は、きちんと先輩の耳に届いたようだ。驚きを隠せない先輩の表情を見つめてはいたけれど、今は言えたことに満足してもう、思い残すことはないと思っていた。私の告白を受けた先輩の反応は、一体どっち? yes or no?

 覚悟は決まっている。だから……どうぞ先輩の気持ちを聞かせて。

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