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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

愛の輪郭

帰り道

日も暮れて、時間も遅くなってしまった


先輩とはさっき駅で別れたが、それでもまだ僕はその横顔を思い出していた



───綺麗だったなぁ



率直に言って先輩は綺麗だ

あの指の先を、許されるなら僕は永遠に眺め続ける事が出来るだろう


女子からも人気が高い

よく僕なんかと一緒に居てくれると、いつも思っている


それにひきかえ、と僕は思った

僕はどうしてこうも浅ましい存在に生まれてしまったのだろう


どんなに自分を責めても空腹は癒えない

僕は前後不覚になりながら、食事の目星を付けていた



もう今日はあいつで良いだろう


帰り道を急ぐ、中年のスーツ姿の男性の後姿を視る



恐らく美味とは言えないだろう

僕だって恐らく、美しい人間を食べれば気分が違う筈だ


しかし美しいものを前にすると、僕は(すく)んでしまう

止せば良いのに思ってしまうのだ

「この様な美しいものが、自分ごときに損壊されるべきではない」と


意を決して美しい人間を食べようと思った事は有ったが、一度も成し遂げる事は出来なかった



先刻もそうだ

本当は僕は鞄に入れたナイフで、先輩を切り刻んで食べてしまいたいと思っていた


結局出来ずに一日は過ぎていき、僕が帰り際に大泣きすると、勘違いした先輩は僕の頭を優しく撫でた



先輩は僕とは違うんだ

家に帰れば家族が居て、他の普通の人間みたいな食事が用意されていて──


考えていたら、また涙が(にじ)み始めた

そこまで哀しいつもりなど無かったのに、気が付けば僕はその場で膝を突くと、手のひらで涙を拭きながら、しくしくと泣き始めてしまっていた


「君、大丈夫?」


獲物だった筈の男性が、僕が泣いている事に気付いて声を掛けてくる


惨めだ

僕は思った


でも、惨めでも良い

とにかく空腹を満たしたい


既に、空腹で頭がおかしくなりそうだった


ナイフを出すのさえもどかしい

素手でこの男性を引き裂いてやろう

そう思い、僕は顔を上げた


男性の後ろに、先輩が立っていた

僕が「何故」と問う間もなく、先輩は男性の背中に水泳の飛び込みのような形にした両手を突き刺すと、それを左右に拡げて男性の躰を引き裂いた


暗い夜道だったが、鮮血が花火のようにはっきりと視えた

血が僕たちを濡らしていく

空腹に耐えかねて僕はアスファルトに落ちた男性の肉に飛び付くと、取り憑かれた様にそれを何度も噛み千切った


血と肉が胃に収まり、奪った生命が僕の血管を通っていく音がする

視界が明瞭になっていって初めて、僕は自分の視界が霞んでいたのだという事に気が付いた


「あっ、あの………」

冷静になってようやく、僕は『食事』を先輩が余す所なく観察していた事を思い出す


「あああ…………」


頭の中を恐慌が走り抜けていく


何か言い訳をしたい

しかし、こんな状況で出来る言い訳など存在しなかった


僕は(ひざまず)いて、人間の死体を貪っている

先輩は静かに立ちながら、それを視下ろしている

この視上げる僕と視下ろしている先輩の構図が、僕たちの関係の総てである様に思えた


熱い涙がまた溢れて、頬を伝っていく

「視ないで下さい…」と僕は一言だけ言うと、(うつむ)いた


「視ないで下さい!!」


もう一度だけ言うと、僕は頭を抱えてその場にうずくまった

その姿も浅ましい獣のようだ

僕は心の中の何処かで、静かにそう思った



「まあ、そう言わないで」


「顔を上げてよ」


先輩の優しい声がする

僕は固く閉じていた眼をゆっくりと開くと、先輩に視線を向けた


先輩も血でべたべたになった肉をあの綺麗な指で千切りながら、次々とそれを口に運んでいた

「実は、俺もなんだ」


「なんか、そんな気がしてさ」


考えみれば当たり前だ

そうでなければ、突然この男性を殺害するのは不自然だ


しかし、まだ理解は追い付かない

僕は思考がはち切れて意味の無い笑いを浮かべながら、先輩を視た


「いつか仲間に会えたらって、思ってたんだ」



『仲間』


先輩は仲間って僕の事を言ったのか?

僕を?仲間って?


「今からウチに来てよ、お互いの躰を食べ合いっこしてみない?」


それまで視せた事の無いような悪い顔で先輩が笑いながら、僕の顎を掴んで瞳を覗き込んでくる


食べ……

先輩は何て言ったんだろう

そんな事が現実にあり得るのか……?


「別に」


「いま、ここでも良いけど?」


先輩が、初めて視せる下品な嗤いで僕を視る

僕は唾液を口から溢れかえらせながら、うっとりと頷いた

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