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青い天国

 夢が眠ろうとする欲望を保存する。迅速な対応のあとは急速に死へと向かう。許せよ。

 青い空が濃すぎて目が痛くなる。白い雲が速すぎて三半規管をいわす。どうでもいいから死にてえよ、とかいう期間はもうおしまいにしよう。さあ死ぬのだ。でもこんな何もない場所でどうやって死のう。だって空はあんなにも青い。目が痛くなる。白い雲なんてあれ、流れるのが速すぎて……三半規管がイカレてくる。もうどうでもいいから死にてえのだよ。語り掛ける相手も持たず、僕にはどこまでも空間だけが開け放たれた。なぜならそれは死にてえからだ。空が青いままで死にたい。全部どうでもいい。労働者階級時代の迅速な対応、それからは急速に死へと向かう。早朝の牧場、オレはひとりでに自殺を開始した。

 デカい目と白い歯のざわめき。ここは老舗ブランドのファッションショーが開かれていた。ライトが灯り空間を二分する。むせ返る衆人の中、オレの手には大金と大好きなスコッチ。ここはどこ? 天国? 「違いますよファッションショーですよ。」隣の席にいるバイヤーは親切だ。オレ以外誰も酒を飲む様子がない。そんなときオレの酒のギアは却って跳ね上がった。

 みんなすげえ恰好、て訳でもない。意外と普段使いできそうな恰好が多い。あの幅広の黒いフードの上に紳士ハットを被って、下はスコットランド的なチェック柄のスカートなんて可愛いんじゃないの? あっちの樽みたいな緑のモコモコは冬に良さそうだ。あれで眠りながら歩いて人に迷惑をかけたい。トーシューズと舞子さんの下駄を融合させたみたいなあの靴もいいな。隣の親切なバイヤーがぼやく。

「うーん。全部既視感がある……。」

 あれそうなの? オレは手元に残っているスコッチを飲み干すと、たった今顔をキメ終えたモデルとつるみながら裏側に侵入した。大金を持っているから誰も止めはしない。止めはしないが、裏では色んな人たちが本当に忙しそうにしていて、結局オレはここにつっ立っている罪悪感から自主的に出ていくことになり、お土産にモデル何人かの髪の毛を引っこ抜く。黒金緑。金持ちが連れていた筋肉隆々の犬に食わせる。

 一度死んだオレは無敵だ。右手からいくらでもスコッチが湧き出てくる。左手には大金。果たして死ぬ必要ってあるんだろうか。喉から気化したアルコールがランプの魔人。もうとっくに願いは叶えたからな。魔人を吸い込んで歩き続ける。歩き続ける。歩き続ける。歩き続ける歩き続ける歩き続ける。歩き続ける歩き続ける歩き続ける歩き続ける歩き続ける。歩き続ける。歩き続ける!! 歩き続ける……歩き続ける……歩き続ける……歩き続ける……歩き続ける……。

 気づいたらオレの自殺した牧場。夕方だから酷く空が赤い。白い雲はすでに見えなくなっていた。目にも三半規管にも優しい唯一の時間、オレは膝を折り畳んだオレ自身の死体を見つけ、右手のスコッチをかけてやる。オレの死体がどんどん濡れていく。自分に対してのみ沸き上がる一風変わったサディズムが酒を増幅させる。そろそろ牧場はスコッチで溢れかえる。牛も羊も馬も犬もショットガンもプカプカ、気泡を吐きながら酒の中を泳ぎはじめる。そしてスコッチの水面が西の赤い太陽にまで届くと、爆発的な無音とともに一瞬にして蒸発する。本来、自殺とはこうあるべきだ。こんな風に気楽で刹那的で気持ちのいい感触とともにあって欲しかった。スコッチを吸って膨らんだオレの死体は、今晩7匹の青い子馬たちのベッドに使われた。夜ぢゅうスコッチの好きな匂いがしていた。

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