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世界の終わりが始まった日  作者: 黒い猫
15/50

15 斎場

葬儀が終わると、少し待ってから親族の男衆の手で主人の棺はリムジンに乗せられた。


私もリムジンの助手席に乗り込み、主人と一緒に斎場に向かう。



これが主人の身体と最後のドライブ。


 


主人の写真を膝に乗せて。




5年前も走った同じ道を走る。


5年前は義父の葬儀だった。


 


今日は主人…。なんか…まだ信じられなかった。


車はゆっくりと斎場へ横づけされる。

バックドアが開かれ、主人が眠ってる棺が車から降ろされた。


斎場のホールでも読経があった。

 

主人の棺は開けられなかった。


前もって聞いていたけど…本来ならここで最後に顔が見れたけど…主人には顔が無いから…


 

ゆっくりと棺を載せた専用カートが進み、小さな扉がいくつか並んでるホールに。

火葬炉だ。


遺影が飾られて赤いランプが灯った扉もある。

…先に、お空に昇っていらっしゃるのだろう…。




火葬炉の小さな扉が開くと、棺がギリギリ入る大きさの部屋が見えた。

ここで主人の身体は空に昇る。

わかってはいるけれど…


…そばにいてるからね 


 

読経が終ると小さな分厚い扉が閉められ、持ってきた主人の遺影がその前に置かれる。

そして、火葬中のランプが灯された…。


もう…会えない…どうしようもなく悲しい…寂しい…


 


火葬が終わるのを待ってる間に親族に食事が振舞われる。

職員に促されて、食事のできる部屋へ移動となった。



喪主からの挨拶等があると前もって言われてはいたけれど、無理だ。どうしろと?

葬儀の時の挨拶は頑張った。

更に、飲み食いの挨拶までしろと???何を言えというのだ?

無理だ。

呼吸して生きてるだけで精一杯なのに、なんとゆう愚行。

愛する者を亡くして、更に身体を焼いて残った身体さえ消え去ってしまう時に挨拶を求めるなどと…

どれだけ鬼畜な行為を求められるのだ??無理だ。


私はどうしようもなくしんどくて、義兄弟たちに接待をまかせ、一人離れて待合室で待った。




待合室には会社の人も数名居てた。

最後まで見送ってくれるらしい。


…親族ではないので、人数に入ってないので食事の用意が無いはず。

それでも、最期まで待っていてくれるらしい。



複雑な気持ち。

憎くないと言えば嘘になる。

でも、彼らが直接悪いわけじゃない…。 

お互い、挨拶も会話もせず、待合室の隅と隅とで時間を潰すことになった。



しばらくして、義妹が彼らにもお弁当を渡して良いか?と聞いてきた。どうやら多めに頼んでいて余ってたらしい。

なので、お願いした。

お昼も過ぎるし、きっとお腹が空くだろう。渡せるなら渡してあげてと。


細やかに動いてくれる義妹に、本当に頭が上がらない。

 


待合室のソファーに沈んでいたが、食欲はわかなかったが、喉の渇きを覚えたので、自販機でお茶を買った。



主人のそばに行きたかったけど、他にも火葬のために来られる方も居るので。

あまり火葬炉のそばに行っては良くないみかな…?と思い、遠めから眺めて、また待合室で待った。




食事が終わった母が待合室に来たけど、何か話してきたけど…なにもしゃべりたくなかった。


 


皆が待合室にあつまりだして、人の多さに辟易していた。

皆は静かに話をしてるだけだが、やはり声がしんどい。


人の声は苦手だ。


しばらくすると呼ばれた。


 


……


 


主人は…白い…白い…骨になっていた。


焼かれたままの寝台で出てくるのではなく、別の寝台に寝姿の通りに綺麗にお骨が並べられていた。


粉々になっているだろうと思っていた頭蓋骨も大きな破片が数個、その場所にあった。

現場に散らかってたのを…拾って…まとめて…包帯で形作られた中にちゃんと入れてくれていたのだろう。


ちゃんと…包帯に隠れて…あったのだ…。主人の顔は。




「腕に金属を入れていましたか?」


斎場の人に聞かれた。


「はい。事故で手首を骨折して金属が入ってます…」


「その金属はどうしましょう?一緒に骨壺に入れますか?それとも金属は除けときますか?」


「全部…入れてください」


 

主人を囲んで並び、骨の説明を受けたあと、長い白木の箸がわたされた。


二人一組になって主人を小さな瑠璃色の陶器に入れていく。


最初は私と娘から。

続いて義母や義兄、義弟夫婦、親戚と二人ずつ一つの骨を箸でつまんで骨壺に丁寧に入れていく。


関東ではお骨はすべて残さず骨壺に入れる。

箸で入れられない骨粉も、係の人が小さな塵取りできれいに集め、骨壺に。

 


喉ぼとけは私が素手で入れた。


 


最後に主人の時計とアイコスと、あと愛車S660のミニカーを骨壺の中に。


 


主人はとても小さくなってしまった。


 


私より背が高くて、ちょうど、顎の下に顔をうずめれる感じだったのに…。


肩幅が広くて胸板が厚くて、足も長くて、とてもカッコいい人だった。

 

それが、いま、小さな箱の中に入って私の腕の中にすっぽりと入ってしまう…。





 


なんでこんなことになってしまったんだろう…



抱きしめた腕の中に納まる紫色の箱は…やけに重かった…。

 


ただ、ただ…悲しかった。




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