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世界の終わりが始まった日  作者: 黒い猫
13/50

13 通夜

通夜の前日は雨だった。


「涙雨だね」


主人が家に帰ってきてから毎日お線香を上げに来てくれる裏に住んでる親戚のおじさんがポツリと言った。


 


お通夜の日は明け方は雨が降ってたように思うけど、そのあとは雨は止んで曇りだった。

寒い日だった。


前日までの静けさが打って変わって、多くの人が来て、静寂だった我が家は騒然となった。

私と娘は式場に宿泊するので、その準備もした。


 



「玄関からと、縁側から、どちらからお出になりますか?」

セレモニーの人が訊ねてきた。



「玄関から出て帰ってこなかったので…縁側から…ちょっとその辺に出てる感じで…縁側から出てもらえると嬉しい」と伝えた。


ご飯とお団子とお水と…を家から式場へ持って行くのだけど…ご飯にお箸を刺すのが嫌だと伝えたら、「刺さなくても大丈夫ですよ」と言ってもらえた。


だって…ご飯にお箸刺したら…ほんと、死んだみたいやん…そんなん嫌や。




庭では喪服に身を包んだ息子たちや、義兄弟、親戚、集落の班の男衆が所在なさげに煙草を吸ったり、静かに会話していたりした。


時間になると彼らは和室に上がり込み、安置されていた棺をゆっくりと持ち上げた。


主人を縁側から連れだすために。


ー 嫌だ。


わかっていたけど、わかるけど、行かなきゃいけないけど。


ー 嫌だ。


もう主人は今の身体では二度と家に帰ってこない。


凄く嫌だった。


ー 止めて!!連れて行かないで!!


全身の細胞全てが絶叫した。

身体も心も冷え切ってるはずなのに、血が沸き返り、首の後ろから背中にかけて何かが噴き出すほどに、全霊をかけて『嫌だ!!!!!!』声にならない声で叫んだ。


雹が激しく降り注いだ。



今まで降ってなかったのに、主人が家を出る時になって小雨が降ってきた。

その雨が、突如雹になって、主人を連れて行く男衆を酷く打ち付けた。



雹に打たれながら、車の中にゆっくりと納められていく主人を、主人の写真を抱えて茫然と眺めてた。


 


「喪主様はこちらに」


リムジンの助手席に案内される。


白木の位牌を持った義母は後ろで主人の横に案内された。


私が主人の横に座りたかった。


悲しいクラクションの音が鳴り響き、車が出発する。


雹はいつの間にか雨にもどっていた。





 


会場に付くと、また息子や親戚たちが主人の棺をゆっくりと祭壇前に運んで行った。


 


時間になるまで主人のそばで居られると思ったけど、段取りの説明があった。あまり記憶に無い。

主人との事とか、二人のエピソードとか色々聞かれたように思う。



そのあとは、式場の入り口で弔問客を迎えることに。

私と娘と義母、義兄夫婦と義弟夫婦で。


私は立っていられず、義母の分とで2脚、椅子を用意してもらった。

 



知らない顔が続く中、前の職場のとても仲がよかった人が来てくれた。主人の作ったお米を美味しいと気に入って買ってくれてて、収穫したら毎回主人と一緒に配達してた。


配達ついでにおしゃべりして、(よくしゃべるな~~w)と、主人は苦笑してたのに…今日は主人は祭壇の前で横になって起きてこない…。



「飯島さん!!」


「コイさん!!」


何も言えなかった。


ただ、すがりついて泣いた。


二人で泣いた。





頭がぐるぐるしてた。わけがわかんない。


 


知らない人ばっかり。次々と来る。頭をさげるロボットになってた。


主人の会社の人が沢山来てた。


 


もう会場の人の指示どうりに動くロボットだった。

頭の中がぐるぐるしてよくわからない。


立つと、歩くと、グラグラした。



通夜式が始まるからと、喪主席に座ると祭壇に飾られた主人の写真は顔がお花で隠れて半分しか見えなかった。


それでもずっと見てた。主人の顔を。




お焼香の時、やっぱりグラグラしてた。


読経が頭の中に響いて頭の中もグラグラしてた。


主人の会社から沢山の人が来ていた。

お焼香の列はなかなか途切れなかった。



たゆうお焼香の煙の中、永遠と読経が続くように思えた。



気が付いたら終わってた。



落ち着いてきたけどまだコロナ禍で、通夜振舞いはお弁当とお茶を渡すことなっている。

親戚に配った。

田舎は…親戚が多い。

義父の葬儀の時もだが…いっぱい居るんだなぁ…と、ぼーっとしなが見ていた。


お弁当は足りないのはよろしくないと、少し多めに頼んでいたので、余った分は息子たちなら食べれるだろ…と、持って帰らせた。


息子たちは母の家に泊まって、明日また会場に来る。


 



私と娘は控室へ。

広々とした和室だった。


会場の人が主人を控室に連れて来てくれた。

よかった…。


夜、主人を祭壇に1人残すのは心苦しくて、悲しくて、寂しいので、祭壇前で主人の横で椅子に座って過ごそうかな?…って思ってたから。


 


テレビを付けて、お弁当をつついた。

食欲がわかず、箸でつついただけで、たいして食べれなかった。


もちろん、主人の分のお弁当ももらって、お供えした。




机をどけて、お布団を敷いた。

ちゃんとお風呂もあって、冷えきったた身体にうれしかった。

 

お線香が絶えない様に、細い蚊取り線香みたいな、ぐるぐる回ってるお線香を付けて、娘は持ってきた携帯ゲームで遊んでるように見えるけど…よく見ると指が動いてないよ…


私は主人の棺のそばに椅子を置いて、棺に寄り添って過ごした。


 



主人と娘と私とで。


三人だけで、とても静かに、ゆっくりと過ごせた。


 


とても大切な時間になった。





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