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世界の終わりが始まった日  作者: 黒い猫
12/50

12 静かな時間

事故現場を見に主人の会社に行ってる間に、私の職場のお偉いさんが弔問に来てくれていたと

義母が教えてくれた。

弔問のお礼と、留守を詫びるために電話をした。


いつもは元気で明るい方なのだが、電話口では潤んだ声が返ってきた。


「ごめんな。オレ、こうゆうの弱くて…。気をしっかりもって、ゆっくり休んでいいからね」


「すみません。ありがとうございます」


 


葬儀は日曜日が友引とゆうことで、20日の日曜日に通夜、葬儀は21日の月曜日にすることになっていた。

友引でよかったのに…。私もそっちに引っ張って行って欲しかった。


金曜日通夜、土曜日葬儀じゃあまりにも別れが短すぎるから。


 


娘は気分転換のために、18日の夕方から母の家に泊まってる。私がこんな状態で…食事も作れないしね…。

大阪から来てる息子たちも母の家に泊まってるので、19日に娘を大洗の水族館に連れて行ってくれることになっていた。

 

私がもう、何もできないほど参ってしまってるので…娘のことを構うことができなかったので、とても助かった。

 

長男はとても優しいし、次男坊はとてもしっかりしていて仕事で車にも乗ってるので、安心して任せられる。


公立高校受験前、ただでさえデリケートな時期に、追い打ちをかける主人の死と私の憔悴した様子に娘もかなり参ってたから…。


娘に楽しい時間を過ごさせてくれる息子たちにはとても感謝した。


「いっぱい笑っておいで」


と、娘を送り出した。


  


私も、しなきゃいけないことが終って、ゆっくりと主人の横に付いていることができた。


主人の棺のそばに小さなホットカーペットを敷いて、己の場所とした。


主人のノートパソコンを引っ張っりだして、車系のYouTubeを流す。

主人に見えるように画面を棺に向けて。



疲れたらそこで横になって、弔問客がきたら対応して。

食事はできず、水分だけを接取していた。

一日中、離れなかった。


夜になると棺の蓋を開け、主人の無事だった左手を握る。

手を握ってそっと引くと、握り返してくれるように手指が締まるのが、主人が思いを伝えてくれてるようで。


棺にはドライアイスが入っていて、二酸化炭素が充満している。

エバーミング薬剤のキツイ刺激臭もあって、棺の中に顔を近づけたくても、その刺激臭いで思わず離れてしまう。

目が開けていられないくらい痛いのだ。

離れろ!!と言わんばかりに鼻にガツンと刺激がくる。


その刺激臭が私を生かす。


ドライアイスのせいで、棺の中には酸素はそこに存在せず、呼吸をしても息は出来ない。 

ちらほらニュースで耳にする。棺の側で亡くなってる遺族のことを。

二酸化炭素が充満してる棺に近づきすぎて、中毒死してしまうと。


主人にエバーミング薬剤を注入されてなくて、ドライアイスだけだったら…私も同じように死んでいただろう…。

 


主人の手しかほおずりできない。キスできない。


それでも主人のそばに居れる。


悲しい中にも満足感があった。



死体でもいい。

ここに居てくれてる…。



何にも邪魔されず、そばにいれるのが嬉しかった。



この時が永遠に続けばいいとさえ思った。





とても静かな時間が流れた。



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