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世界の終わりが始まった日  作者: 黒い猫
1/50

1 終わりのはじまり

突然の事故で亡くなった夫。突き落とされた妻の苦悩と葛藤のお話。

立ち直れるかは…


かなりリアルな描写が多いので、グリーフ中の方は読むことをお勧めしません。


かなりエグイような気がします。

救いは多分無いです。

ただ残したい。まとめておきたい。

人に読んでもらえるようなものではないと思いますが…まとめて、読める形にして残したいとおもったので。

フィクションを加えています。

登場する会社等、実在しません。









2022年2月14日

世間ではバレンタイン

普段は所帯臭いスーパーマーケットにもピンクや赤のハートが満ちて、可愛いチョコが並んで、渡す相手が夫しか居ない、良い年をしたオバサンでも、なんとなくウキウキする日。


そんな日に関東の田舎の片隅で、平凡に過ごしていた私達のすべてが終わり、そして始まった…。

 



 

今日は早出なので、仕事が早く終わり、夕方までダラダラと旦那さんのPC部屋でネット漫画を読んでいた。

もうすぐ公立高校の受験の娘は自室でお勉強中…。私立の高校は受かってるので、もしかしたらこっそり漫画を読んでるかもしれない。

義母は1Fの和室でテレビを見てる。


そろそろ、晩御飯の用意をするかな?それともまだ良いかな??下準備は済んでいる。

旦那さんの帰宅はまだだろうけど、義母さんと娘は、先に食べるかな??時間は18時。

どうしようかな?まだ早いかな?いつも19時頃だし、すぐ用意できるし、あと30分ほどしたらご飯にするかな??

少し悩んで、もうちょっと…と、マウスに手を伸ばし次の漫画を読んだ。


さて、そろそろ…と、思ったとき、電話が鳴った。



プルルル、プルルル…



電話は苦手、あまり出たく…でも…しょうがない。と、机のすぐ横に置いてある電話を取った。


「はい。どちら様ですか?」

「私、飯島賢二さんの職場のロイム株式会社の大塚と申します。奥様でいらっしゃいますか?」

「はい。そうですが…。あの…なにかありました…???」


主人の職場から…?? なぜ??怪我でもした…??

不安に思いながら、次の言葉を待つ。


「……あの……ですね……」


「……落ち着いて聞いてください。職場で事故がありまして、ご主人が亡くなりました。」


会社からとは思えない、戸惑う声のあとに、世界を変える言葉が受話器から聞こえた。




「へっ????????」


全てが止まった。


ー え…??…なんって言った…??? え?????


心臓の音が大きく聞こえる。

子機を耳から外し、自らの手にある子機が何か喚いてるのをただ見つめる。


ー え??? これ…今、何って言った…???


心臓の音だけがやけにはっきりと聞こえる。


ー なに…?てめえ…今、何言った??


次第に怒りが湧いてくる。

何、酷い冗談言って…悪質過ぎる。


「奥様!!大丈夫ですか???気を確かに持ってください」


子機が喚いてる。


「はあ???どうゆうこと???」

「落ち着いてください!」

「どうゆうこと??どうゆうこと???どうゆうこと???」

「奥さん!!」

「…どうゆう…こと…なんですか????怪我じゃなくて、死んだって…どうゆう…???」



いきなり衝撃的な言葉が聞こえ、訳が分らない。



「機械に巻き込まれて…今、警察が来ています。タクシーをむかわせますので、お越し頂けますか?」



まだ頭の中はパニックで本当に訳が分からない。ただ、状況を把握する必要がある。


大きく息を吸い、そして吐く。


取りあえず、正しく理解しなければならない…

そう思い、もう一度深呼吸をする。


「…どうゆう…状況なんですか?挟まれたって…」

「…挟まれて…即死だと思われます。規制線が張られてそばに行けないので…」

「!!!!!!!!!!」

 


長い夜が始まった。 


 




よろよろと…電話を手に階下に降りた。和室からテレビの音が漏れ聞こえる。

義母がコタツに入り、テレビを見ているようだ。


義父はすでに他界し、義母と娘と主人と私との4人暮らし。



…義母には言えない。こんなこと。



伝えなければいけないが…どう伝えたら良いかわからず…嫌な役目を近所に住んでる義弟にお願いすることに。電話した。


ダイヤルを押す手が震える。

何って言おう?どう言おう??どう言ったら良い??

上手い言い方なんかわからない。

戸惑ってるうちに応答があった。


「はい。どうした?電話なんて珍しい。」 

戸惑いながら、事実だけを伝えた。

「…忙しい時間にごめんなさい。会社から…今、電話があって…賢二さんが亡くなったって…お義母さんに何って言っていいか…」

受話器の向こうで息をのむ音が聞こえた。

「…わかった。すぐ行く」



直ぐにかけつけてくれ、義母に伝えてもらった。

詳しいことはまだよくわからない。

ただ、ついさっき知らされた事実だけを。



重い空気の流れる中、1時間ほど待っただろうか? 迎えのタクシーに娘と二人で乗り込んだ。

義母は高齢だし、夜遅いし、何時になるかもわからないので、自宅で待機してもらうことに。

義弟は自分の車で。タクシーとで2台で会社に向かう。

終始無言で、ただ、ただ、間違いであって欲しいと思いながら。



街灯の少ない田舎道を40分ほど走り会社に着いた。


事務所の二階に通されて、奥側に娘、私、義弟が座り、その向かいに会社関係の人が一列に並んだ。

説明を受けるも頭に入ってこない。

ようやく理解できたことは、2人で作業中、1人が資材を取りに行ってる時、音がして振り向いたら、主人が器械に挟まれていたと…。

…まだ警察の検分中で…事故現場には行けないと。



頭部が挟まれて…潰れて…顔の確認が出来ず、名札でしか確認ができないが…主人だと…。



「…ほかの…他の人ってことは…???ほかの人じゃ???主人じゃなくて他の人が???」

「…義姉さん…」

義弟が何か言ってくれていたが、音として聞こえるけど言葉として理解できずただ混乱していた。


なんで自分はこんなところに居てるんだろう??ここで待ってたら主人が来る…??


長い机が並べてあって、椅子も並んでて…娘も不安気で。


なんで私はこんなところで待ってなきゃいけないんだろう…?わけが判らなかった。


義弟がロッカーの荷物を取りに行ってくれた。

受け取った主人の着てた服を抱きしめた。

主人の匂いがする…ほんのり汗と煙草の匂い。

主人の匂いだげが不安を和らげてくれる。他は何もいらない。何も聞きたくない。

ただ服を抱きしめて待つことしかできなかった。


数時間待ったように思う。

時間の流れが把握できず、曖昧で…現実味が無かった。


かなり長い間待ったのだが、結局、会社で主人には会わせてもらえなかった。


車の中に安置され、警察に移動するとゆう段階で呼ばれた。

事故現場には行けず、ワゴン車には入れず、車の外側しか...見せてもらえなかった。



「この中に?」

「…はい」


「ケン・・・?居るの?」

窓にはスモークが貼られてるのと、夜とゆうことで一切中は見えない。


窓を軽く叩くが返事など無い。


「ねえ?開けて」


混乱してるからか、車のドアがどこにあるのかがわからない。ドアがあることすらわからない。

ただ目の前の鉄の塊の中に主人が居てると言われたので中に入りたい。


わかってる。開かない。開けてもらえないのは。

扉が無い。開けれない。

反対側に回れば扉はあるのだが、それすら考えつかない。

 

ただ、ただ、冷たい車体を叩き、引掻く。


もちろん、開かない…


でも叩く。


「ねえ?あけてよぉ??ケン??ねえ、開けてよぉ??」


自分の中で何かが壊れた。


今まで涙は出なかったのに、涙が溢れて歯止めがきかなくなった。




「お願い 開けてよぉ・・・」




車を叩き、引掻いた。でも開かない。




「開けてよぉ…」




立ってられなくて座り込んでしまった。




「義姉さん…運んでもらおう。そしたら会えるから」

義弟の手が肩にかかる。




車から離れなきゃいけないのはわかってる。でも嫌だ。この中に居てるはずだ。笑って出て来てくれるはずだ。


呼んでるのに出て来てくれない。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だった。この先を知るのが嫌だった。




「イヤーーーーーーーーーー!!!!!」




夜中の暗い工場の一角、信じられないほど響いた自分の声が、今でも耳に残ってる…。


 




 


警察まで同行し、待合室に案内された。


奥に細長い狭い待合室。

真ん中に長机。机に沿って、向かい合わせにベンチや不揃いな椅子が置かれている。

義弟と娘と私と。

あと一人…誰??わからない。

誰か男の人。


どのくらい待っただろう?刑事さんがやってきて、ビニール袋に入れられた主人の私物を受け取った。

最期の時に所持していた物だ。胸ポケットに入っていたのだろう、

血だらけの手帳やペン、結婚指輪やら何やらを受け取る。


主人の文字の書かれた手帳。血が染みて…まだ濡れていた。

サイズが大きな結婚指輪。

主人の指輪…主人の大きな手の指にはめられていた結婚指輪。


…状況は聞いた。

かなり悲惨な状態だろうと…想像は付いた

でも…会わないと信じられない。


「会わせてください」


「…見ない方が良いと思います」


「会わせてください」


「…とても気の毒な状態で…」


「私は病院に勤務していました。仕事上、えげつない死体にも慣れてます。会わせてください」


渋る警察官に食い下がる。




会わないなんて選択肢は無い。


どんなにひどい状態だろうと耐えてみせる。


 


主人に会える最後の機会かもしれないのだから。


 

さらに待って、会わせてもらえるよう準備してもらう。

娘は…無理だ。状況を聞くと、とてもじゃないけど会わせられない。義弟も無理だという。


私だけが会うことに。




案内されたのは別棟の遺体安置所。


6畳ほどのコンクリート打ちっぱなしの狭いシンプルな部屋。


真ん中の台の上に白いシートで覆われた…人の大きさのかたまり…。



お線香とむせかえる血の匂い。

コンクリートのままの床は濡れていたので多分洗い流したのだろう。

それでも、なお残ってるすさまじい血の匂い…


…無意識に、唇を強く噛んでいた…




覆っていた白いシートをめくってもらう。


全裸の身体が出てくる。

頭部と右手を隠したまま…。



毛深い胸毛、大きな手、左手の人差し指が十数年前の事故で欠けている。

主人の手だった。

毛深いスネ。去年怪我したその跡が残ってる。主人の足だった。


主人の体手足なのは確実なのに、顔が確認できない…。


覆われていたシートを取ろうか?とも思ったが、怖くでできない…。


本当に主人だったらどうしよう…と…。


こんな状況でもやっぱりなんか…間違いであって欲しいと…。


でも、手は主人の手だ…。

大きくて…とても大きくてゴツゴツしてて、指の甲にも毛が生えてて…。


主人の手だった。 



血は拭き取られていたけど、血の匂い。

無事であった左手を握り手の甲にキスしたら血の味がした。



主人の足元にはビニールに入った赤黒い水っぽい塊。


「触らない方が…」と言われたが確認をする。


赤黒い血と…柔らかい肉塊の中に布っぽいものと…。


初め何かわからなかった。

赤黒い液体は血と体液の混じったものであることは間違いない。

ではこの柔らかい固形物は主人の体の組織片で…その中に何か覚えのある布っぽいもの……何??

しばし考えて、気が付いた。ヘルメットの下に被っていた帽子だ!?そして髪の毛。


…ビニールに入っていたのは主人の頭部の内部だった…




警察の人が隠すように下に置こうとしたから


「主人の身体を床に置かないでください」


と言い、元の台の上に置いてもらった。


 


顔はあごのラインだけが見えた。あとは見せてもらえない。シートをめくる勇気もない。


主人の笑顔が上書きされそうで…最後に顔を見たいけど…見れない…。きっと…無い。

…あっても…ズタズタに押しつぶされた皮膚と破裂した眼球と……  


……見れない…ごめんなさい…見れない…ごめんなさい…。



ごめんなさい…。



手を握ると冷たい。


お腹に触れると少しまだ暖かい。

主人がさっきまで生きていたその名残の熱がまだ感じられた…。


足は冷たい。冷え性だもんね。足はいつも冷たかったね…。

少しでも温まらないかと、震える手で、しばし主人の足を擦る。


寒いのに…裸で…こんなところに寝させられて…


「ケン?起きて?ねえ??帰ろう??」

そっと呼んでみる。


でも返事してくれなかった…。


起きてもくれない。




今朝、会った時は元気だった。

私が先に出勤で、主人はソファーに座ってコーヒーを飲みながらテレビを見てた。

「行ってきます。」と声をかけると「行ってらっしゃい」って言ってくれたのに。


なんで???

なんで????

なんで素っ裸でこんなとこ寝てるの???




訳がわからなかった。

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