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Mad Utopia  作者: 星輪 慧
1/1

霧の森

 

 目が冷めたら薄暗い場所。霧のかかった暗い森。10歩も歩けば景色が全くの別物になるレベルの濃い霧。

 気づけば僕はそんな森にいた。


「ここはどこ?私は誰??」


 取り敢えずお決まりのセリフを吐いてから今の状況を整理してみる。


 まずは僕が誰かだ。名前は覚えている、東妻エルだ。八重歯がチャームポイントの誇り高き東妻家の末っ子だ。先天性の能力は"治癒"で気力量はだいたい15000オーラくらいだったはずだ。


 この場所は一体どこなんだろう。僕の記憶にこのような場所はなければそもそもこんな場所に来た覚えすらもない。霧のかかった森…。確か周辺地図でこんな場所が書いてあった気がする。場所は確か東の地域だったはずだ。


 つまりここから家に帰るためには西の方角に行けばいいわけだ。ただ生憎コンパスは持ち合わせちゃいない。どうするべきなのか。

 今の状況を整理してみると絶望的なことに今更気がついた。


「どうすればこの状況を打開できるんだよ」 


 やりようのない気持ちを吐き捨てる。もちろん返事などない。

 早く戻らなければならない。そんな気持ちがさらに僕から冷静さを奪う。だが取り敢えずは進むしかないのだ。幸い治癒の能力のお陰で気力が尽きるまでは歩き続けられる。西へ進もう。家を目指して。


 

 神は僕を見放していなかった。途中何度も挫折しそうになりながらもなんとか見覚えのある場所まで来ることができた。

 ここに来るまでにかなりの時間が経ったからか気力の量は底をつきそうだ。もっと気力の消耗を減らす訓練をする必要がある。


 「ただいま…」


 家に帰っても誰からの返事はない。うちの三姉妹はこの時間は学校に言っているし、父さんも母さんもSCO(Skill Control Organization)の仕事に出ている。

 東妻家の誇りとはあの二人のことだ。父さんは第一部隊の隊長。母さんは第一部隊の副隊長だ。どうやら父さんが副隊長である母さんに恋をしたらしいが真相はよくわかっていない。

 

 もちろんそんな二人の子どもである僕らも才能で溢れている。はずだった。三姉妹は能力も気力量も才能に溢れているが、僕だけは違った。

 能力も治癒と微妙。気力量も三姉妹には劣る。周りの人間からは東妻家のホコリと揶揄されることさえあった。大変遺憾だ。


「ただいま〜」


 玄関の方から声がした。声的に長女の陽向だろう。今日は高校が終わるのが早かったんだろうか?


「……ただいま。体調はどう?3日もどこかにいたらしいけど??」


「体調に問題はないよ陽向。僕は3日もあの森にいたのか…。」


 あんな森を3日近く歩き続けていたなんて驚きだ。にしてもいくらクール系女子だからってそんな反応はないだろう。僕を見るや否や顔をしかめるなんて。


「森?どういうことなの?遭難でもしてたってわけ?」


「まあだいたいそんな感じ?目が覚めたらよくわからない森にいてさ」


「そう、あんただって東妻家の人間なんだから実感してよね」

 

「ごめん」


 相変わらず冷たい態度を取る陽向に嫌悪は抱かない。なぜならば知っているからだ。陽向は誰よりも東妻家のことを考えている。両親がここまで上げたこの家の地位を自分たちの代で下げまいと誰よりも努力しているのだ。

 両親が仕事でいないときは妹二人の面倒を見て、学校では優等生として常に気張っているのだ。そんな努力を水の泡にしてしまう可能性のある僕を快く受け入れる理由はない。


 そんなこと思うと玄関からまた音がした。


「ただいまー。あれ?陽向ねえもエルにいもいるなんて珍しいね!」

「3日ぶりだねエル。元気してた?」


 三姉妹の双子の真昼と小夜。明るく活発な真昼とおしとやかで可愛らしい小夜。双子のくせして真逆の性格のこの二人は、陽向と違って僕のことを慕ってくれている。

 学校では陽向はクールで常に冷静な優等生。真昼は明るいアイドルのような存在。小夜はその愛嬌でクラスカーストとやらの最上位にいるらしい。

 

「エル、せっかく帰ってきたんだし料理の一つでもやって頂戴」

「はいよ、僕の最高の手料理を振る舞ってあげよう」

「エルにいのご飯だー」


 そうして両親が帰ってくるまで3人で夕食を楽しんだ。

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