混ざり合う化け物共
貴方が誰であろうとも貴方であることは変わらない だが他人はそうとは思わない 今までの記憶を持っているのだから
「う……うぅん? 俺……生きてる? ふはっ、そうか生きてるのか……」
どうやら落ちる時にバケモノの上に運良く乗っかり地面に叩きつけられずに済んだようだ。
気づけばもう夕方のようだ。辺り一面、赤く染まっている。
もはやバケモノは動く様子もない。
「いよっしゃぁああ!! ざまーみやがれって…………あれ? 体動かねぇ」
もはや体の感覚が無くなるほど妖華は傷ついていた。
だがそれは不幸中の幸いだったのかもしれない。今、本来ならば苦痛にのたうち回っているところをもうすぐ痛みなく逝けるのだから。
(こ……れやばいやつか? 不味い、まずい、まずい!ちゃんと死ねるやつだ。妖魔の回復量がどんぐらいかは知らんがこれはさすがに死ぬ。なっ、なんかないか! せっかく勝ったのに死んでたまるか!)
妖華が下を見るとそこにあったのは祠のバケモノの死骸だった。
「バケモノでも死骸って残るんだな……そうだ……これを喰えば、これさえ喰えば、俺は生き残れる。そうに違いない。生きるために殺し食う……そんな単純なことじゃないか。大丈夫だ」
妖華は動けない体にムチを打ってうつ伏せになり、そのままその大きな牙を使い
──ガブッ ブチリッ
バケモノを喰らった。ただただ一心不乱に生き残る為に。
──ブワッ
「えっ……なんだこれ?」
妖華がしばらくバケモノを喰っていたその時バケモノから黒い霧のようなものが溢れてきた。
そしてそれは妖華の中に入っていく。
だがそんなことを驚いているのもつかの間、何やら空が騒がしい。
「悪しき妖魔め!妖華から離れるのじゃ!」
妖華が今一番信頼している者の声が、羽の音が聞こえる。
「え……?その声は八咫烏か?!」
「妖華ぁあ! 無事かぁ! 生きておるかぁ!」
「おう! 結構やばいけどなんとかー!」
八咫烏はそのまま地面に降り妖華の元へ一目散に駆け寄った。妖華は仰向けになり八咫烏の到着を待った。
「お主! 大丈夫か?! なぜ逃げないのじゃ! この、大馬鹿者! 結界を出たらお主の妖気が感じられなかった妾の気持ちを考えてみよ! ほれ、神力注いでやるから少しまっと…………お主何もんじゃ?」
「? 俺は俺だよ。お前に名前を貰った妖華だよ」
「あぁ、見てくれは妖華そのものじゃ。じゃが内側、つまり魂が違うぞ。のぉ、お主、もう一度聞くがお前は誰だ」
少し前に見た、あの黒い霧が辺りを立ち込める。
風は止まりもう何も聞こえない。自分の心臓の音、脈を打つ音だけが耳に響いている。
「妖華を返せ、今すぐに」
「俺は……よ……妖華…………なんだ……? 妖華のはずなんだ?」
「そうか、そうなんじゃな。お主がそう言うならそうなんじゃな」
言葉とは裏腹に辺りは暗く深く沈んでいく。黒い霧はより一層濃くなっていく。
「なら、言うことができるまでじっくり待ってやる。なーに時間ならたっぷりあるからの。それにその体を傷つけるわけにはいかんのじゃ。なぁ、逃がしてやるものか」
そのまま妖華は霧に飲まれ消えていった。
何事もなかったかのように風は吹き夜になる。
だが確かにそこには何かいたはずだ。今はもういない何かが。
(はっ……! ここはどこだ?)
妖華が目を覚ますとそこは何もない白い空間だった。縄で繋がれているらしくその場から動けない。
だが片足だった足は治され四足に戻っていた。傷は治っていたが少し気分が悪い。
「なんか気持ち悪いが……まぁ、こんな空間にいたんじゃ気分は悪いわな」
──シュッ
「うむ、起きたようじゃな。元気かのー。一応見える分は治しといたぞ」
「うぉ、八咫烏……できればこの縄取ってほしいのですがーどうですかー。てか今どっから来た」
「うん? そりゃちょいって飛んできただけじゃ。そんでここは妾の領域じゃ。場所は教えられんがの」
獣人姿の八咫烏は軽い感じで話しているが目は笑っていない。圧を感じて嫌な汗が出てくる。
八咫烏は妖華の前に座り
「話し合いをしようかのぉ? まぁ、お主に拒否権なんてないがの」
「だっ、だから俺は妖華だ! 絶対に! 今まで生きてきた記憶だってあるんだ」
「あぁ、それはそうじゃろう。お主の記憶や人格その他全て妖華と同じじゃ」
「だったら俺は妖華じゃねぇか!」
声を荒げ、はっと妖華が顔をあげるも八咫烏は目をつぶり悲しそうな顔をしている。こちらを見ていない。
「少し話をしようかの。そこにはある人物がおった。其奴は自分のクローンを生み出し記憶や人格など全ての情報をクローンに植え付けた。それは其奴と言えるのかの?」
「そりゃ、どんだけ同じでもそいつとは違う別の個体だろ。なんていうかな……よく分からんが違うと思うぞ」
すると八咫烏は妖華の方を向き手を伸ばし抱擁した。
「お、おい急にどうした? きついぞ」
「……確か前に話したじゃろ。蘇りの話を」
「あ、あぁ記憶にあるが……でも俺は死んじゃあいないし……」
「確かに今の状況とは違う。じゃが魂の話はそれと同じことじゃ。魂が違えば記憶があろうとも其奴ではない」
八咫烏は妖華を腕から解放すると妖華の肩に両手をおき、まるで子供に話しかけるようにゆっくりと話し始めた。
「お主はどうやら混ざりすぎたんじゃ……もはやそれは個人とは言えぬほど不安定じゃ」
「なんでだ……? 俺は……おれは、カヒュ……」
「さっきおおた時はすまんかった。急に妖華をどこにやったと圧をかけてしもうたな……」
(いや、いや……いやだ、いや……いやだ、いやだ、いやだ……)
「今はこの空間におるから混ざり合うのは進行しておらん。じゃが、もはやお主は何者でもない、何者にも属さない。」
ここは音もなく静かだ。静かだからこそ現実を直視せざるを得ない。
八咫烏の声が響き現実を突きつける。
「お主はもう妖華とは言えんのじゃ」
最後まで読んでいただきありがとうごさいます。
それでは早速前回の小話を、前回の古本屋はモチーフがありまして、ある妖怪の世界の路地の奥の方にある骨董品屋がモチーフとなっております。そこが無くなった空き地でホースを拾いましたね。
それでは次回も是非楽しんでいってください。