人となるか妖魔となるか
この世に咲く一輪の華 この一輪がこの世界に混乱を招く だがこの混乱が良いのか悪いのか それは誰にも分からない
あぁ?ここどこだ?俺はあたりを見渡したがここに見覚えはない。
「おや、お久しぶりですね〜もう来てくださったのですか?」
……?あれはなんだ?なんかモヤッとしてて分かりづらいが確かにそこにいる。なんだろ、あれは犬系の耳か?ぼやぼやすぎて分からん。
「まったく、私に対してあれ程突っかかっておきながらこの体たらくとは……見てる分には面白いんですけどね……」
なんだ?俺はコイツと面識があるみたいだな。覚えてないが。
うおっ…なんか急に近づいてきた。
「ささ、私との約束を果たしてもらいましょう。さぁ、逝きますよ」
へっ?いや、まてまて!なんだ?何かどうなっているんだ!
「?なにって約束ですよ。私、前言いましたよね。次ここに来たら一緒に参りましょうって……おや…?もしやここに来ても記憶が戻らないんですか?」
なにを言っているんだ、こいつは?もしやこいつは俺が何かを約束したやつか?
「ということはまだ貴方は現世に繋がりがあるということ……はぁ……まだ完全には壊れていないようだ。まぁあの犬っころ程度で貴方の精神は壊れたりしないと思っていましたが。いや、ここに来ているということは。まぁ、しょうがない。また考え直しましょう」
助かったのか??
「まだこちらに来ていないなら約束とは違いますね。ささ、お送りいたします。こちらへどうぞ。転ばぬようにお気をつけて」
おい待て!俺はお前となんて約束をしたんだ?
「ふふっ…それを教えたら面白くないでしょう?それに教えたら私の願いが終わってしまう。またいつの日か私のところに直接来たらお話いたしますよ」
いや、その前にお前の居場所を知らんのだが!おい、おい!
─カラン カラン
「お…い、おい……おい、おい!童!無事か?!」
彼女が目を開けるとそこには黒い塊もとい八咫烏がいた。とても心配そうな顔をしている。
「うあっ……おぉ、八咫烏か。おはよー」
「おはようて、呑気じゃの……部屋との温度差で風邪ひくぞ……」
「部屋?部屋がどうしたってんだ?」
周りを見渡すとガラスは割れベットは歪み、物は壊されたりと荒らされたような部屋が広がっていた。
「えっ?いやなんで?いつの間………あーーそういやなんかやばいの入ってきたっけな」
「童、覚えてないのか?本当に大丈夫なのじゃ?怪我とか…………もしや、記憶がないのか?それは大変じゃ!!はよ病院に行かんと大変なことになるのじゃ!!」
八咫烏は慌てた様子で話してくる。今にも彼女を掴んで飛んでいきそうな勢いだ。
「いやいや!大丈夫だから!そんなに心配せんでも怪我してない!ほらっ!」
─ピキッ
彼女は立ち上がろうとした。だがそれは叶わず座り込んでしまった。
「え?立てねぇ?なんでだ」
「ほら、言うたじゃろ?童、妾が見つけた時には血だらけで倒れていったのじゃぞ?一応神力は注いで回復はさせたが妾は童の信徒でもなんでもないのじゃからな。あんまり回復はできんかったのじゃ」
「ということは、俺ずっとこのまま?!いや、それはまじで困る」
「そんなわけないじゃろ!足の筋肉が切れたぐらいでそこまで重症じゃないわい。それにある程度回復もさせたしの」
一瞬間が空き彼女は困惑したような表情を見せた。
「えーと、つまりアキレス腱断裂ってことでよろしいのでしょうか?」
「アキレス何とかは知らぬが別にそんぐらい二日もあれば治るじゃろ。いやしかし……その間移動が大変じゃの……うむ、童に妾の化け術を教えちゃるか。しかし童の種族が…………」
「まてまて!話についていけんのんだが!おーい、おーい!聞こえてるかー!」
八咫烏は自分の世界に入り込みこちらの声は聞こえていないようだ。
しばらく考え込んでいると急に獣人の姿に化けた。
「よし!おい童!お主、何の妖魔じゃ!」
「いや、だから俺は人間だっちゅうの!」
二つの声が部屋をこだまする。
「んなわけないじゃろ!さっきも言うたが真名がないのじゃから!」
「いや、まじでそれは知らねぇ!つかその話したの昨日だろ!さっきじゃないだろ!」
「昨日ではないじゃろ!それに一日程度さっきの範疇じゃ!」
「長命種特有の時間感覚!絶対さっきの範疇ではない!お前今何歳だ!」
「淑女に歳を聞くな!失礼じゃろ!」
「それはすいませんでした!」
ひとしきり言い合ったあと二匹は肩で息をしながら落ち着いていった。
「はぁ……とにかく化け術を覚えるためにはその者が何なのか明確に分かる必要があるのじゃ。じゃが自分の種族が分からんとなると……はぁ……まあこの方法を使うかの……おい、童。お主に名を授ける。何か要望はあるかの?」
「えっ?名前?そんな簡単につけていいのか?」
すると八咫烏は呆れたように話しだした。
「そんなわけないじゃろ。童、本当に世間知らずでは説明がつかんぞ。まぁ良い。妖魔に名を授ける。これは神ではないとできんしろものじゃ。先程も言うたが妖魔が自分で名を名乗るのは稀。その理由は単純にそこまで神との関わりが多い者が少ないからじゃ」
「じゃあ神と関わりがあると名前って自分でつけれるのか?」
「まぁ、名付けする名は適当じゃからな基本的にその名を授かる方が決めるかの?だが名を授ける方も名付けをあまりしたくないのは確かじゃ」
「なんでだ?」
すると八咫烏は少し首をかしげ困ったように話し始めた。
「ううむ……妾もしたことないからよくは知らないのじゃが……儀式としては名を授けることで自分の半身を作る。ということになるらしい。じゃから名を授けられた方は種族も変わるしその分授けた方も神力を消費するらしいのじゃ」
「えっ……?そんな大変なことを俺にしてくれるのか?いいのか本当に?」
八咫烏は少し笑い小馬鹿にしたように言葉を紡いだ。
「童はこのままじゃと死ぬぞ?」
「は?なんでそんなことが分かる?」
「分かるも何も童、先程の惨状を覚えてないのか?お主は何者かは分からぬが狙われてはおる。そんな中お主のようなちんちくりんが生き残れると思うか?無理じゃ。じゃから妾が力を授けちゃる」
「それはそうだが……だがなぜお前がそこまでやってくれるのかまでは説明がつかんぞ」
八咫烏は少し困った様子だ。だがどこかしら嬉しそうな表情でもある。
「なぜそう思うのかは分からぬがなんとなく守ってやらんといけん気がしてな……それに何か面白いことがありそうじゃしの」
彼女はよく分からないという表情をしているが八咫烏の方に向き座りなおした。
─ビキッ
「いっ……てぇ」
「童!何をしておる!無理をするでない!」
「いや、俺の為に何かをしてくれるのならそれは誠意で返さないといけない。これはおろそかにしちゃいけねぇ」
八咫烏はもう何も言わずただ彼女の言葉を待った。
「八咫烏、私は貴方の半身となり貴方に忠誠を誓います。この身が尽き魂の一片になろうとも貴方のご厚意に恥じぬよう尽力いたします。どうか我が身を貴方に仕えることをお許しください」
「…………ふふっ…お主そんなことできたのじゃな。少し言葉はあれじゃがお主は面白い子じゃ」
すると八咫烏は彼女の頭に手を置き念仏を唱えた。
「……お主は妾に忠誠を誓う。その誠意に対してこちらも対価を支払おう。お主の名は妖華。この妖魔の世に咲く一輪の華となれ」