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人未満が行く化け物探し  作者: 猫烏
妖魔となりてこの世を見る
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月光映る灯火

その身の呪えど出会いを祝う どれだけ逃げに徹しようとも 最後笑うは己でありたい

 彼はその黒い瞳をこちらに向け首を少し傾ける。上を見れば角の鎖に月光が反射し鈍く光を放っている。


「君の親はかなり不思議な人たちのようだ。普通の子はね、鬼を怖がるまではいかずとも多少の警戒心が刷り込まれてる。先程の回答も合っているところはあったが、君みたいな良い感情を普通は持ってないかな。まぁその理由は知っての通り、俺ら鬼の血を持つ者は唯一閻魔様に仕えることを認められてるからだろうね。流石に閻魔様の役目は知ってるだろ?」

「……死者の生前の行いを判断し天国か地獄か裁きを下す」

「うん、そうだね。俺らはその案内や罰の執行を担う。いわゆる刑の執行者ってとこだね。だから鬼は妖魔から見ても異端なのさ。種族全体が罰を与える者として生きている。でも俺は違う……」


 俺の前に座り直した彼は自分の手を忌々しそうに睨んでいる。その目はまるでこれは自分の手では無いとでも言いたげな目をしている。


「俺は殺しが怖い。血が怖い。他の奴を傷つけることが怖いんだ。でも俺は鬼で、次男で、俺は閻魔様に仕える義務がある。俺は鬼としての感覚が備わっていないんだ。そんな時、兄さんがこれをつけてくれたんだ。これは見ての通り首と角が繋がっていてね。鬼の角については習っているかい?」

「いんやまったく」

「そうだと思ったよ。鬼は力を込める時、角でバランスを取ったり角を起点として力を発揮する。鬼の力の源は角にあるっていっても過言ではない。でもこれ()があることで俺は力を意識せずとも抑えることができる。これがあることで他の奴を傷つけるほどの力は今の俺ではでなくなってんだ」

「でもそれは役目を放棄したってことだろ? 閻魔様に仕えるっていう。そこら辺は大丈夫だったんか?」


 この疑問を問いかけるとこちら見て少し微笑む。それはまるでこの問いを尋ねることを初めから分かっていたかのようだった。

 だがその微笑みは一瞬で切り替わり下を向いて恨めしそうに地面を睨む。


「そう、兄さんは本来跡目を継ぐ為に閻魔様に奉公に行くことはなかった。でも次男である俺がこの状態になっちゃったから兄さんは責任を取って閻魔界に行き、俺は追い出され妖魔斬りの皆に拾ってもらったんだ。ふぅ…………ははっ……」


 一通り話し終わったのか一息ついて力なく笑っている。だが彼はどこかやってしまったと言いたげな表情を携えている。


「ごめんね……小さい子にこんな重い話するもんじゃなかったね。しっかしここまで話す気は無かったんだが君には何か不思議な力があるようだね」

「んな力はねぇよ。俺はただの八咫烏。ただの妖魔だ」

「本当にそうかな?」

「なに?」


 彼はすっと立ち上がりこちらをじっと見つめる。それはまるで俺を品定めしているかのようで背筋がゾワゾワする。


 ──カランッ


 下駄の音を周囲に響かせ()()()はこちらに近づいてくる。

 距離にして約1メートル、あいつの影が俺を、俺の周りを灰色に染める。


「君は見た感じ学生にもなれない小さな妖魔。なのに精神と肉体が合っていない。そうだな……君の中にはその体とは似ても似つかない魂が入っていて、その()をその()が操作しているようだ」

「だから俺はぁ!」


  ──ガンッ


 あいつの両手が後ろの壁に当たり大きな音を発する。俗に言う壁ドンといったところだが風情もクソもない。ただそこにあるのは黒い感情。

 警戒を怠った。逃げ道を作り忘れた。そうだ、ここは安全な日本とは違う。力を持つ者が跋扈(ばっこ)する世界。安全な場所が一瞬でその価値(安全)を無くす。何か起きてから動いてはすぐに淘汰される。命の価値が低く一歩間違えればその灯火()は一瞬にして消え去る。


(くそがっ……日本の感覚がまだ染み付いてんのか……? 倫理観は悲しいことに割と消えちまったがその他の感覚は中々こっち(妖魔)に染まらないな……。いや今はそんなこと考えてる場合じゃねぇだろ!)


 実を言うと、この状況を打破するのは容易ではある。

 こいつの体重は腕に集中しており警戒すべき腕力が使われることはないだろう。

 このまま毒を霧に乗せ周辺に漂わせる。これは一番だがこいつは妖魔斬りの一員、その後の処理が大変そうだ。喰っても構わないが流石にアジトの真ん前でやるのは気が引ける。

 だとしたらこのまま霧化で逃げるのが最善か。多少攻撃されようとも霧の塊が残ってさえいれば復活できる。

 我ながら化け物じみてんなぁ。その通り化け物だけど。がっはっは。


「考えは固まったかい? 改めて問おう。君は人間な『おい鎖ぃ!! なにしとるんやぁ!!』あっはいぃ!!」


 逃げようか迷っていた所に地獄から響く悪鬼の声、ではなく言葉の節々に怒気が漏れ出る雪うさぎの声が響く。

 ちらりと後ろを見れば少し俯いた状態で歩み寄ってくる雪うさぎが見える。が、その表情は影で包まれ読み取ることはできない。

 ここで少し上を見上げてみましょう。鎖と呼ばれてた張本人()は脂汗と動悸、呼吸の乱れと動転状態のフルコースとなっております。

 これはもはやかわいそうですねー。一つも同情できないけど。


「おい鎖。おまぁ何やっとった? 業務はどうしたんや。おまぁには書類整理を命じとったはずやぞ? あ゙ぁ? なんやまたサボりか?」

「やだなー。俺はただこの烏君と一緒にいただけっすよー。なんでもカエン様にお呼ばれた客人だって言うからお客様を一人でお待たせさせるわけにはいけないなって思って待機してただけっす。あっそうそう、俺今から用事があったんでした。てなわけでこの子のこと引き継ぎしますね。ではっ!」


 ──ガシャッ ダッダッダッ


「おい鎖! またんかぁ!! くそっ……また逃げよった。はぁ……次の給与は安く済みそうやな」


 一瞬にして消える鬼と、その場に残された雪うさぎと俺。

 鬼の居た痕跡はそこに渦巻く煙だけだがそれはしっかりと雪うさぎの逆鱗に触れていた。

 未だに怒りが収まっていないようでこちらの形見が狭い。どんな顔をすればいいか教えてほしいものだ。


「さて、すまんな子烏君。あの鎖野郎に何かされんかったか? あんの大馬鹿野郎はいっつも新人をビビらせるってんでこっちも手を焼いてんや。次会ったら躊躇なく殴ってくれ」

「あー……ははっ。大丈夫ですよ。あの時と比べりゃ可愛いものです。あーちょちょちょ……落ち着け」


 雪うさぎはその大きな目に涙を孕んだ表情でこちらを見つめる。

 そうだった忘れてた。この人すぐに泣くんだ。そんな今にも泣きそうな目をするのは辞めてくれ。なんか罪悪感すごいから。


 ──パンッ


 心配を通り越して呆れが入ってきた頃雪うさぎは涙を払い手を叩き大きな音を出す。

 少しして口を開くがその言葉は沈んだ声をしていた。


「いやー……この癖どうにかしたいんやがどうにもならんくてな……気を害したなら謝る。すまなかった」

「いや、それは雪うさぎさんが俺の身を案じてくれているからこそ出る言葉だろ。そんなの嬉しいに決まってんだろうが!! ……言葉遣いがあれでしたね。とにかく俺は嬉しいですよ」


 沈黙の時間。周りから聞こえる生活音だけが耳に届く。

 そこから導き出される正解は一つ。


(やっべこれ大丈夫か? また泣いてたり……?)


 顔を見上げても予想された光景は存在せず、それどころか笑っている雪うさぎがそこに居た。大きな笑い声が辺り一帯に満ちる。


「あははっ! おまぁ好かれやすい体質やんな。そう言ってもらえてうちぁも気が楽やわ。こちらこそありがとぉな」

「そいつは何より」


 なんか知らん内に事態は収まったようで先程とは打って変わって、にこにこした雪うさぎが話しかけてくる。


「それはそうとしてどうやら()()()()になってたみたいやな。丁度昼に異常が発生してな……すっかり約束忘れとったわ。カエンももうすぐ帰ってくるからもうちょい待っててな」

「ん……? 約束……?」

「うん? 今日の()から挨拶やったろ? いやーうちぁらが居らんかったけ大変やったろ。すまんかったねぇ」

「あーー…………そっ……そうなんですよ。いやー不安でしたよ。知り合い誰もいなかったんで」

「そうやろそうやろ。あいつぁら柄は悪いけぇな。でも気のええ奴らや。しっかり頼れ」

「はい!」


 絶対にバレてはいけないことがここに追加された。約束時間勘違いしてたなんて口が裂けても言えねぇよ!

 最後まで読んでいただきありがとうございます。

 ここで前回の小話を、鬼の色については例の妖怪ゲームからです。

 それでは次回も是非読んでいってくださいね。

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