魑魅魍魎のその一体
鬼さん、鬼さんこちらへおいで 悪い子、悪い子こちらに居るよ 天国地獄大地獄どちらに転ぶか貴方次第
「おーい、この資料の続きどこあるか知らんかー? 頼むからちゃんと置いといてくれ!」
「誰かー! 偵察部隊の現在位置知っとる奴おるー? あとどいつが行ってるのかも教えてー」
「あらあら……人手が足りませんね……。確か討伐部隊の下の子らは待機だったはず。呼んでくるわね。あの子らにも手伝わせましょうか」
「ちょっ……誰か食料買ってきてくれぇ! これこの調子じゃ終わらねぇ! 後で金出すからぁ。 『じゃあ私行ってきます。ついでに紙も足らんのでそこら辺も買ってきますねー』おぉすまんねぇ。んじゃ頼むわぁ」
「ははっ……これどうしよっかねぇ……」
眼前に広がるは施設内を忙しなく動き回る妖の姿。それはまさに魑魅魍魎。のっぺらぼうが何かの資料とにらめっこ。ろくろ首が首を伸ばしどこかへ向かい、一反木綿が買い出しと思われる外出をしている。その他にもよく分からんのが大勢と。
現在時刻は正確には分からないがおそらく午後7時頃。空はすっかり黒く染まり、星々がきらきらと自己を象徴している。
空狐と離れ街に着いたは良いもののアジトに入れそうに無く、只今絶賛困り中でございます。窓を覗けど俺に気づく様子もなく、ただ呆然とするばかり。さてさて一体どうしたものか。
「君? いったいどしたこんなとこで。迷子か?」
「つっ……誰だ!?」
どうしようかと迷っている所に一声かけられ、急いで振り返ればそこには赤い体に2本の立派な角を持つ、いわゆる鬼と呼ばれる存在がいた。
鼠色の着物を着用し上の方を見れば片方の角と首に鎖が巻き付けられており、囚人のように見えなくもない。この世界の囚人に対する扱いを知らんけ何とも言えんがな。
そいつが頭を傾げれば角に巻きつけられた鎖がガシャリと音を鳴らす。よく見ればその鎖は首に繋がっているようで首を動かし鎖がピンと張った拍子に音がなるという仕組みのようだ。
「おぉすまんすまん。俺は赤鬼だ。急に背後に立って悪かったな。今色々あってドタバタしてんだ。用がないならまた日を改めて来てくれんか?」
「それが割と大事な用なんですよね。そちらの長であるカエン…………さん。に呼ばれてここに来ました」
危機察知が反応しなかったということは少なくともこいつには敵意がない。話しぶりからしてここの一員のようだし丁度良かった。
つか危機察知を嘘発見器みたいな使い方するとは思いもしなかったぞ。割と便利だなこれ。
「なるほど、カエン様に呼ばれて来たんか。そりゃ大事な用だな。でもすまんね。そのカエン様は今一番ドタバタしてんだ。朝からおらんくて今どこに居るかすらも分からん状態だ。どうする? ここで待っとくか?」
「あーじゃあ待っときます。色々ありがとうございました」
「いいってことよ。んじゃお隣失礼」
「ん?」
いつの間にか俺がいる窓の近くの壁にすがり、どこからか取り出した瓶を口にしている。カシャリとなる鎖をよそに辺りには甘い匂いが広がり、その中身は甘い物だということが分かる。
あれ? この感じここに居座るつもりだな、こいつ。えっいいのかこれで?
困惑する俺をよそ目に彼は話だした。
「いやーすまんな。俺こんなん付いてるからサボっても音ですぐバレて面倒なことになってんだ。次サボったら減給だとよ。世知辛いよ」
首に巻かれた鎖を指差し自虐的に笑う。
「なんでそんなん付いてんすか? その口ぶりからして自分でつけたもんじゃないでしょ」
「おっ敬語取れてきたね。うんそっちの方がしっくりくる。それでこれが付いてる理由ね。これはね、兄さんからの贈り物さ」
彼は微笑みを浮かべ鎖を大事そうに撫でている。その表情は先程まで文句を言っていた鎖に対する表情だとは到底思えない。
「そうだなぁ……カエン様が来るまで暇だし鬼さんが昔話でもしてやろか。なに、そこまで長い話でもないから寝ないでくれよ。これはさっきも言った通り俺の兄さんが付けてくれたものさ。鬼の兄さん、鬼いさんってね。ここ笑うとこよ」
「あっすんません。聞いただけじゃ分からんかった」
「こういう時空気中に文字でも浮かんでたら分かりやすいんだろな。これがほんとの空気読みってね。…………。君はさ、鬼って聞いてなんて思う?」
少し疲弊した様子でこちらに問いかけてくる。その疲弊の原因は向こう側なんだよな。
だがそうだな……鬼といやぁ地獄の門番、獄卒等をしてるイメージ。その種類は赤、青、黒とあり黒に至っては白と赤の模様……これはよそう。あとは桃太郎とか一寸法師の悪役だな。それと……。
「……忠義に厚く力仕事はお手の物。強くて金棒振り回し、されど何かしら信念を持ちそれに従う。こんなとこかね」
うん、なかなかにうまく表せたんじゃねぇかな。
どうしても獄卒やらで悪役のイメージが付きやすいがそれは人から見た場合だ。鬼が裏切って敵側に付くのはあまり見たことがない。それどころか最後まで主人に仕えている。
それに泣いた赤鬼でも赤鬼は人の為に動き、その友の青鬼は赤鬼の為に悪となる。それは悪く言えばヤラセだ。だがどちらも自分以外の誰かの為に動いている。
人の世の物語がどこまで通用するかは分からないがこれが俺の見解だ。
(あれ? 何も反応が無いが何か地雷でも踏んだか?)
顔を上げると妖魔にしては普通の人の目のような色と形をした目を丸くした鬼がじっとこちらを覗いていた。瞳孔が開き白い部分は見えづらくなっている。
その様子はこの答えが少なくとも期待されたものではないことを現していた。
だがどこを間違えた? 一応妖魔から見た情報を予想して答えたが実は人の世と鬼に対するイメージは同じなのか? いやしかし、ここで人の世の常識を出されても怪しまれるだけだと思ったがその考えが裏目に出たか。
だが彼の頬はみるみるうちに緩んでいく。
「ふっ……ふはははっ! なかなかに面白い子だね君は。面白い見解だ。だがそうだな、君も幼い頃にイタズラとかをするとこう怒られてなかったかい?」
そう言うと彼は立ち上がりこちらを向く。
その背後には大きな月があり、こちらを月光で照らしている。それにより彼の影が俺をすっぽりと覆い隠している。
「悪い子の所には鬼がやってきて閻魔様の所に連れてっちゃうぞってね」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
ここで前回の小話を、シュレディンガーの猫は思考実験であり、実際に行われていません。これを実際に行った場合倫理観を問われるでしょう。
もしよろしければ評価もよろしくお願いします。読んでくれるだけで嬉しいのにまた嬉しさで咽び泣きます。
それでは次回も是非読んでいってくださいね。




