記憶なくとも刻まれる
帰る記憶はすでに無い 生きる意味などあるのだろうか だが目的果たすその日まで それだけを願って前を向く
「おい雪うさぎ!! 状況はどうだ! 偵察部隊は帰ってこねぇのか!! 街の様子はどうだ!」
「落ち着けやカエン! 偵察部隊は先程増援を向かわせた。現場の奴らにゃ帰宅命令を出してる。もうすぐ到着予定や。その他部隊長共にも連絡済み、すぐにでも動けるようにしよる。街も見回りを開始した」
現在、うちの右手には地図、左手は頭に添え念話を飛ばしている。周りには雪うさぎから送られてきた資料が山のように積み重なる。
急に迷霧の森中の霧が消え去りそこで生き残った妖魔が多く見つかったことで街は大混乱。森の奴らが街に来るんじゃないかーとか、めんどくさいことになった。
そして妖魔斬りであるうちらに事態収束を依頼されたって訳だが……。
「はぁぁぁ…………何が一体どうなってんだよ。原因なんてなんも……ん……。あー……一個あるなぁ。なんだっけ“あの八咫烏は異常です。”か……勿論そのことは分かってたんだが…………こりゃ思った以上の厄介事を拾ったかなぁ」
「まぁな。化け猫に気づいた状態であいつぁに勝てると踏んだ上での殺意、迷霧の森を我が物顔で飛び回る。異常の中の異常や」
「しかもお前にずっとしごかれてる化け猫がビビるほどとはなー。まぁ……憶測で物を図るのは忍びないよ。他の原因の可能性の方が今は高い。たまたま烏君の使う霧が迷霧の森の霧に似ていて、たまたま烏君の家が迷霧の森で、たまたま烏君が帰った後霧が消え去った。うん……」
──ポン
「長様……上への言い訳、頑張りましょうや」
雪うさぎが肩に手を置き困った顔をする。だがネガティブな感情はどこにもない。
なんだかんだうちらは似た者同士だ。こいつには色々小言を言われるがこんな時にはこいつは何も言わない。それどころか乗っかってくる。
「ふっ……勿論。あんなおもろい子逃す方が損だよ」
その部屋には悪い笑いとあくどい表情。蛇のように絡みつく重い気配が漂っていた。
「クシュン……風邪かぁ……?」
「お主、中々に可愛いくしゃみをするな」
「うっせ黙れ。つかあの霧俺のせいだったんだな。ただの霧かと思っていたから何も思わんかった」
「お主…………本気でそう思ってたのか…………?」
「いや俺が目覚めた時にそんなん無かったし……そんでその後帰ってきた途端霧出てきたし……ただの天候かと……」
今思えば雨が降っていた訳でもなく寒かった訳でもない。今考えれば違和感ばっかじゃねぇか。
この霧今思えばおかしすぎだろ。
「はぁ……あれはお主の妖気、つまりお主自身とも言える。それがいつも周りにある状態だとそれを感じず、見えもしない。つまりそれが普通だと思い込む。だが一度その場を離れたことで周りの妖気に触れ感覚がもとに戻ったのかもしれない」
「意味が分かんないがそういうもんなのねー」
「これからには関係ないから気にするな」
「へーい。という訳で……そろそろ俺は御暇させていただきますね」
──ガシッ
「帰すかドアホ。それと何か隠す時に敬語になる癖も直さないとな」
「おっと肩を掴むのやめてもろて。こちとら小さい子供だぞ」
「わしから見れば皆幼き者だ。そこに優劣などない。それではそろそろ本題に入ろう」
(えっあれ本題じゃなかったんか)
俺が口を開けるその刹那、空気が変わる。
我が身から出るはずだった言葉は出ることもなく吐息に変わり眼光が鋭く光るのをただ感じる。
勿論俺は空狐を襲おうなど思ってもいない。だが彼の他の者の精神に影響を及ぼすほどの場の支配力に俺は当てられた。
「さぁ、化けろ。もう一つの姿に」
─パチンッ
──ドォオォォン
拝啓、名も忘れた父母よ。私は今修行と称して無理難題を押し付けられています。
(というか今までがむしゃらに動いてきたせいで忘れてたが俺、所々記憶消えてるな。結構まずくね。ってそんなこと考えてる場合じゃねぇな!)
「すぅ……どうやるか分からんものをいきなり出来るわけないだろ! アホがぁぁ!!」
「そう言って先程は霧を飲み込めたではないか。お主は土壇場での性能が飛躍的に上昇するのだろう。大丈夫、これができなければこの先死ぬだけだ。ならば今死んでも問題なかろうて」
「問題大有りだゴラァ゙っぶね。本気で死ぬ! あ゙ー近いって!」
後方歩幅にして約3歩、空狐の創り出した鼠の幻影が迫る。
体格にしてその差は3倍近く。煙のようなその体はその一つ一つの粒子が光に反射にきらりと不気味に光る。
俺の身には術がかけられており霧にはなれずこの身一つでどうにかしなければならない。
このまま逃げることも可能だがそれは空狐の思い描く情景ではないことは確かだ。
(逃げるのは流石に癪だよなぁ)
「つか第一何に変わりゃいいんだよ! 化けろって言われても取っ掛かりがなさすぎるんだよ!」
「お主には兄者の信徒か何かなのだろう? そのようにせい。全く……兄者は何をお考えなのだ……。面倒を見るならばきちんと人様に見せれるくらいには育て上げ、送り出すのが師匠となる者の責務であろう」
「さらっとディスんなぁ!!! てか信徒ってなんの、ぐえっ……」
──シュッ
バランスを崩しかけたとこをすかさず鼠が襲う。
幸いにもすぐに体勢を立て直し飛び立てたがそのすぐ真横に4本の深い亀裂ができる。
「ひえっ……あと数ミリの世界かよ。爪が鋭くて強そうっすね!」
「半人前にもならぬ童が何を言う。減らず口をたたく暇があるなら思い出せ。その糸を手繰り寄せ物にしてみせよ」
(何か……何かないか……! 空狐は俺に何を求めている? それを知るのは空狐、ただ一人。ならば会話から求める物を導き出すしかねぇな!)
さっきの会話から俺が化けるべき物は、こいつの兄貴の信徒ならできる。
俺にはまったく身に覚えがないがな! 兄貴って誰だよ。
八方塞がり……と言いたくなるがまだ手を置ける窪みはある。
こいつは空狐で元は普通の野狐。そして力をつけ天狐にお役目を頂いた。信徒持ちの兄貴ができるとすればここぐらいか。
そして空狐と兄貴、同じ師匠を持つならば種族だって同じか違うとしてもある程度系統は近くはなるだろう。
(狐、もしくはそれに近い……狸か? いやイタチ、テンだっている。変わりどころでは猫とかも……)
「ふっ……さぁ、我が後継者、お主はどう立ち回る。このまま堕ちて二度と戻れぬ深淵へ向かうか、それとも生きて崖を登り切るか。これこそ運命の分かれ道。どちらに進もうとも時間は過ぎ、過ぎた時間はそれまでとなり、もう戻れぬ不変の時となる。…………わしはその時間に固執していたがな。それを破ることができたお主なら後悔する結果にはなるまいて」
「狐……きつ……あっ! あれじゃねe『ジュウッ』」
──ドンッ
その瞬間、わしの目の前は砂埃に包まれ耳に届く音は土が落ちるパラパラという音だけになった。
「駄目か……仕方ない…………少しずつ修行をつけてやろう。鼠、戻れ……」
(流石に無茶を言い過ぎた。訳ありなことをもっと重要視するべきだった。それにしても化ける事さえ分からぬとは……さてどうしたものか)
思いにふけるが何かおかしい。いつもなら鼠の術など疾うの前に解けるはずだが一向に戻らない。
「鼠……? おい、どうしっ…………ふはっ……なるほどな」
鼠の幻影を無力化し、その上に四足で立つ、太陽に輝く毛を携えた黄金色の獣が姿を現していた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
もしよろしければ評価もよろしくお願いします。読んでくれるだけで嬉しいのですが嬉しさで咽び泣きます。
それでは次回も是非読んでいってくださいね。




