その日森は震撼す
一歩踏み入れ前を向け 後ろ下がろうものならばその道全て消え失せる ならば自分の信念を糧に その身突き動かす者であれ
「えー……何をなさるおつもりですか? 空狐様」
「なに、ちとやってもらうことがあるだけだ。何も食ったりせん」
何? 只今の状況を知りたいだって? しょうがないなー。
現在場所は根城にしていた巨木。周囲は先程の場所とは打って変わり晴れ晴れとしており太陽光が降り注ぎ辺りを照らす。前に向かい合うは不敵な笑みを浮かべる空狐。背筋は凍りつきそうなほど冷たい。
(これらを一言でまとめ、声を大にして叫びたい。今すぐ助けてくれ!」
「お主は気づいてないかもしれぬが思いっきり声が漏れている。思考を読まれないよう修行する前にまず口を閉じんとな」
「うっ……」
空狐が前足を挙げ小指から順に手を握る。もっともその手は肉球があり完全には閉じれてはいない。
だがその瞬間、俺の身に異変が起こった。急にくちばしが開かなくなり喋れない。
例えるなら結束バンドで強制的に閉められた感覚がする。
(はぁっ? なんだこれ!? よくうるせぇ奴に口のチャック閉めろとか言うけどさぁ物理的に閉ざすなよ!)
「まぁまぁ落ち着け、話が進まん。暫く黙っとれ。もっとも、わしにとっちゃあその思考すら邪魔になるが。まったく……不便なものだ」
(悲壮感漂わせてないではよ要件言え!)
「そう焦るな。お主、森の主になることで何が起きるか知りたがっていただろう? それを教える為にここに連れてきた」
(ほーん、なら今くちばしが塞がれとんのもそれの為ってか)
空狐は急に黙って必死に笑いをこらえた表情をしている。なんなら少し笑い声が漏れている。
(おめ人のこと言えねぇじゃねぇか! 潰すぞ!)
「ふっ……あー面白いw。口を閉ざしてもなおうるさいどころか悪化するとは……これも意味がないな」
──パッ
「はぁ……あ゙ー、あーー。声が出せる喜びに感謝だわ。ほんとに」
空狐が握りこぶしを開くと口の拘束が取れ声が出せるようになる。
その間にも空狐は笑いをこらえている。凄いムカつく顔してる。
「くくっw。ふぅ……すっ、はー……。それでは説明に入ろう。お主はこの森の主、つまりこの地の環境を整備する権利を得た。この地は全てお主の思い通りとなった! と、言っても妖魔共が最低限住める、もしくは適応できる余地があるような環境にせぬと天罰を喰らうが……それはおいおいだな。ということでお主、この霧どうにかしてくれ」
空狐は横を指差し軽く言う。
「はぁ? 何言ってんだおめ」
「それはこちらのセリフだ。これはお主が創った物だ。何か不手際があれば生産者が責任を持ち回収するものだ。なに、お主はこれを無意識の中創り出せたのだ。もとに戻すのも簡単だろう」
「えー……こちとらそこら辺何も飲み込めて無いんだよ。とりあえずこの霧は俺のせいってことでオーケー?」
「うむ、無意識の中これほどの物を創り出すとは流石としかいいようがない。だがお主、もうすぐ時間切れになるぞ」
「は? すぅ……えー、時間切れになると……どうなる」
「天罰でも来るんではないか? わしは喰らったことはない。だが、わしの先代の主が森の住民に無理を強いておったそうだ。がその後、突如として姿を消し去った。とのことだ。その後この森の祟りじゃとそれはもう話題になった。まぁこの事件のせいでぽっと出のわしにお役目が回ってきたのだろうな。上の者さえ誰もやりたがらない」
「はぁ!? まずっ、えっいや展開はえぇよ! もっと起承転結考えやがれ!」
ふと前を見ればそこにはこの状況を心の底から面白がっている空狐の姿があった。
その姿は神本来の残虐さ、理不尽さを体現している。もはや邪神と見まがうばかりだ。
「ほれほれ、はよ動け。このままだと死、いや魂自体が消え失せるかもしれぬなぁ。そうすれば輪廻の輪からも外れ二度とどこの世にも生まれることはない。おー怖」
「雑! 具体的にどうすればいい!?」
「うむ、こればかりは感覚だ。こう……妖気の粒を一つ一つを掴むような。まぁ暫く修行すれば身につくだろう」
「そんな時間ねぇよ!」
(一旦冷静になれ。物事を整理しろ。つまり今はこの霧をどうにかする。そしてこの霧は俺の物っぽい、なら妖気を掴めさえすれば後は俺の中に戻すだけ。よしオッケ。妖気を認識し妖気を掴む……あれ? 俺それもうできてね?)
──スッ タンッッ
俺は足を振り上げ地面に叩きつける。その衝撃は地面を伝わり森全土に響く。その衝撃は森の妖気を掻き集め俺の元への道を作る。
魂時代に攻撃法として使っていた突進、あれは妖気の粒を足場にし加速している。あれの要領で今度は触るだけでなく物体を認識し掴むようにイメージする。
幸いにも今は掴むための足がある。イメージのしやすさは段違いだ。あの頃とは何もかも違う。
──ビュウゥウウ
目をつぶり集中。
周りは見えないが体に妖気が流れる感覚がするということは成功しているのだろう。体の端から芯まではっきりと妖気の脈を感じ、血が沸騰しそうなほど熱く燃え上がる。
─ビュゥウウゥゥウ
(きっちぃぃい! いつになったら終わるんだよ!! でも目を開けたら集中きれそうで開けれん! くそがぁあ)
─ヒュウゥゥ……
「ぐっ……がはっっ……! はぁはぁ……ふっ……はぁっ。お……終わったか……?」
妖気が途切れた、つまりこの苦行が終わったことを意味する。
座り込み目を開けるとそこには先程まで木々の合間から白い霧が見えていた頃とは思えないほど青々とした木々や近くを流れる川がはっきりと見える広大な森がそこにはあった。
「うむ、よくやった。まさかここまでできるとは思いもしなかった」
「ふぅ……そ、そりゃ速くどうにかせんと死ぬってなったら必死にもなるわ。言い方からしてもう時間はほとんど無かったんだろ」
「あー……それは……実を言うとそこまで切羽詰まった状況でもない」
「は?」
何か耳を疑うような言葉が聞こえたが気のせいだろう。きっとそうだ。
「時間制限があり天罰を喰らうというのは事実だ。だがその時間がな……ざっと10年はあった。あぁいや勿論ただお主を苦しめてやろうなぞ思ってもいない。妖気を掴むという修行は5年はかかる。ならばできるだけ速くこのことを伝え、修行をつけこの10年の間で少しずつ取り込んで貰おうと思ったのだが……」
「俺が思ったより感覚を掴むのが速く、なおかつ普通は少しずつ取り込むもんを一気に取り込んでしまったと」
「うむ、そのとおりだ。」
どうやら嘘ではないようで空狐は冷や汗をかいている。
(俺を安心させるための嘘とかであってほしかったなぁ。まぁそんな嘘つく必要もないけど)
空狐は向き直りカッコよく決めようとする。だがその額にはバッチリと汗が見える。
「くっくっくっ……ようこそ我が後継者。ここの名は迷霧の森。その道は霧に支配され一寸先も見えない悪路となる。ここは神さえ手を焼く悪の森。わしら森の住民はお主を歓迎し、お主にこの身捧げましょう」
そんな空狐を前にして俺は一つ物申したい。
「お前にもうそのムーブは無理だ! というよりそれで誤魔化せると思うな!」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
ここで前回の小話を、「眼光には決意がみなぎっていた」はある地下のゲームが元となっています。自分はやったことはありませんが。
もしよろしければ評価もよろしくお願いします。読んでくれるだけで嬉しいのですがまた嬉しさで咽び泣きます。
それでは次回も是非読んでいってくださいね。




