過去を恨む狐と未来を掴む烏
狐のお社どこにある? とある村ではその昔 優しいお狐様が居たんだと されど語る人の子もう居ない
そう話す空狐の姿は一見、上位の者としての傲りを感じるが心の奥底には不安や哀しみが降り積もり暗い闇を映している。
神のような紅白の狐と先程親元から追い出されたかのような若者の狐が同時に目に映る。
「どうって言われてもな。俺は実際にその時を体験したわけでもなんなら今さっき会ったばっかだ。そんな一瞬でそいつを判断できるわけ無いし、判断したとしても失礼だろ」
「やはり……そうか。そうよな。無理言ってすまない」
空狐は尻尾をしゅんと垂らし耳を畳んでいる。
この感じやはり自分の本当の気持ちには気づいてはいないようだ。
「ふふっ……お前の心を覗いてやろう。お前は恨まれててほしいんだろ? こんな事をしでかした自分を怒ってほしい。そうでもせんと皆の気持ちが晴れん。とか思ってんだろ」
「なっ……そんなわけないだろっ!! ただの人の子に我が身差し出すような事はせんわぁ!! お主……わしを愚弄するつもりがぁ!! 神としての地位を失おうとも人の子に魂を売った覚えはない! いくら後継者という替えの利かない存在であろうとも許しはせぬぞ!!」
空狐はすぐにでも飛びかからんばかりに体を大きく見せるがこれは動物がよく威嚇に使う方法だ。
しっかし、口ではそう言うが心が付いてこないようだ。どれだけ大口叩こうとも威圧感は微塵も感じない。それどころか浴びるこちらが悲しくなるほどの嘆きが漏れ出ている。
今、俺が普通に立っていることが何よりの証拠だ。怒りに比べて悲しみは気迫としては弱いが感情に強く揺さぶりをかけてくる。
先程とは別の意味できつい。というかもはや怒りすら湧いてくる。はぁ……。
「すぅ……んなわけないだろうが! お前気配消せとか言っとるがまずお前の気持ち隠せや! 見てるこっちがきついわ! お前なぁ、どうせ自分が一番悪いのに村の人からの恨みとか一切無いから客観的に見て自分の存在を否定して愚弄して欲しいんだろ? そんなん頼むな。もはや怖いわ。お前腐っても神だったんだから恨みとか感じ取れるだろ。まぁその感じ恨みが無いのは明白だな。それが事実だ。諦めて村の人からの愛情やら敬愛を受け入れてくれ」
「!? えっ……あっ、いやっ……その」
急に怒鳴ったからかどっかから連れてこられた猫みたいに小さくなっている。物理的にじゃなくて精神的に。
でも物理的にも小さくなれそうだな。知らんけど。
「まったく……自己肯定感どこいったよ。なぁ空狐さん、お前は村の人らを愛してたんだろ? なら唯一お前に遺してくれた気持ちぐらいは信じてやれよ。お前がそれを否定して、わしを恨んでるはずだ。なーんて受け取る側が望んだら遺す側が報われんだろ。つーかそれしたら村の人が悪霊と同じ扱いになるわ」
空狐は下を向き顔が見えなくなっている。つか今思ったが尻尾七つなんだな。切り悪っ。九つあるかと思ってた。
本当に子供みたいだ。俺より何百年も生きた大先輩なのに。
やっぱ生きすぎると考え方やら凝り固まるんかね。後悔とかも多そうだし。
(仕方ねぇな。まだ生まれて十何年の若造が新たな風を吹かせましょう)
──トッ トトッ
近くで見る空狐の顔は何か不思議な物を見るような目をしている。と、言っても瞳は相変わらず見えないし目尻が少し下がっているだけだが。
そんな表情もするだろう。なぜだって? そりゃ空狐のすぐ目の前に俺は今いるからだ。
俺の少し上には空狐の綺麗な純白の毛と、細い目の下の赤い模様が見える。
それは今まで散々見てきた血の色と同じ赤のはずなのに、もっと神聖な物のように感じる。赤の差し色のおかげもあるだろう。真っ白な毛が更に美しく感じれる。
「ど、どうした? 何か変な事を考えたかと思えば急に近づいてきたな?」
「えー貴方様の凝り固まった考えをほぐすため馳せ参じました、ただの八咫烏でございます。この度、貴方様の過去を拝聴いたしまして僭越ながら意見を申し上げてもよろしいでしょうか?」
「あ……あぁ」
空狐の困惑した様子がひしひしと伝わってきて微妙に面白い。
だがここで笑うと示しがつかんため雰囲気を壊さないよう慎重に、かつ言葉を選び思いを乗せる。
「誠にありがとうございます。それでは……ごほん、まず思ったことですが、もう過去は消えません。もう貴方が愛した村は戻りません」
「っ……! そんn「そんなこと分かってる、ですよね。それは実際に見た貴方が一番分かっているしその記憶は一生消えない。でもその記憶が嫌で嫌でなぜあの時自分は動かなかったー、とかこうすれば救えたのかも、とかいろいろ考えてんだろ。でもお前が勝手に後悔して自分が一番悪いからって決めつけて死んだ奴らにお前が勝手に、恨んでて欲しいと願う。なーんて思いを押し付けんのは虫が良すぎるよなぁ。死人に口無しとは言え気持ちを捏造するのはいかんよ」
「だ、だが……お主もそんな経験があるのではないか……?」
「まぁな。俺だって部活してたが自分がミスって点を取られたのに怒られずに“いーよいーよ。大丈夫”なんて、嬉しいかったが申し訳なさ半端なかった。そんでもっとこうしておけば、とか誰しも考えるものよ。だが他人にまで自分の意見を反映しちゃ世話ねぇな」
(勿論これは例え話であってこいつの過去は俺の状況とは比にならない程の重い過去ではあるが。それだからこそこいつはこんなに悩んでるんだろうな)
言葉遣いは難しい。最初は意識できても思いを言葉に乗せるとどうしても戻ってしまう。
でも今思えばこちらの方が良かったのかもしれない。誰かの言葉はでなく俺の言葉で伝えれる。
(勿論どっちも俺の言葉ではあるがな)
「お前の感情は正常だ。もっとこうすればって考える人は多いだろう。どんだけ考えても過去は変わらんのに。だからこそ、その経験を活かし未来をもう少しマシなものにする。過去を恨まず未来を掴め」
カエンが言っていた事を信じれば妖魔の平均年齢はずっと上。俺は青二才どころかこいつらから見たら赤ん坊だろう。 人生経験なんて無いも同然。
だけどこいつの気が少しでも紛れさせることができたならそれはとても嬉しいことだと俺は思う。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
ここで前回の小話を、実は空狐が生きた年代はきちんと決まっておりまして最初の京が都であった時代、これは940年。人に会ったのが1440年、村が滅んだのが1940年です。ざっと1000年ですね。
もしよろしければ評価もよろしくお願いします。読んでくれるだけで嬉しいのですが嬉しさで咽び泣きます。
それでは次回も是非読んでいってくださいね。




