お稲荷様と霧烏
こんこん狐のお稲荷様 皆を守っていい笑顔 生きて生きてこの子らの 子孫も守り紡いでく
「ふいー、何だったんだ今の」
先程まで居たはずの俺の後ろをつける一つの影。
どうしようかと迷っていたとこだったが森に入った途端気配が消えた。
「危機察知は正常だな。しっかしやっぱあの雪うさぎバケモンだったんだな。俺の危機察知掻い潜ってあんな近づくって……ありゃ怒らせちゃ駄目だわ」
(わんちゃんついてきたやつと戦えると思ったが……まぁいつか、な)
奴の体長は俺より二周り大きいぐらいだった。体は布みたいな物で覆われていたから身体的特徴は何も分からん……いやあれが奴のそのままの姿か?
こりゃ妖魔について調べたほうがいいな。
(情報は戦いにおいて圧倒的有利を取れる。うーん……もっと人間界で図鑑読んどきゃ良かったなぁ)
「それはそうとしてなんだかんだ帰ってきちまったなー。帰巣本能は発動せんで欲しかったわ。いやこの場合ホームシックか? まぁええか。はよ家に帰って寝るか」
魂だけの時は大して睡眠を取らなくとも動くことはできたが今は休息を取らないと判断力、運動能力が低下している。
「魂だけの時のほうがそこら辺楽だったんだな……まぁそれでも余りあるメリットがあるから気にしちゃいないが。 ん……あー貴方はどちらさんですか?」
大体7時の方向、気配を感じる。
俺より体長はでかいが危機察知が反応してないってことは敵意は無い。
(まぁ、あったとしても狩るだけだから問題は無い)
「くっくっくっ……だーいぶ物騒な主だ。ほれほれ敵意は無いのだからその漏れ出てる殺気消せ。殺気ぐらい隠す力を身につけてから狩りしろ」
声からして声変わり後の男性、更に少し年老いた声だ。
「あーら神様。急に心読むのは辞めてくれ。こえーから。ところで姿見てもいいっすか?」
先程まで後ろの茂み程の距離に居たはずだが俺の真後ろに奴が居る。
奴が少しでも手を動かせば俺の首は飛ぶ。ほんとそんぐらい近い。さすがに怖い。
「別に構わん。わしは今、何者でもないのだからそう緊張せんでもええ」
──バッ ザザッ
(少しでも距離を取り奴の全体像を把握、ついでに霧化一歩手前まで準備。心を読めるのならば神、もしくは神に近い者だろう。圧倒的な力の差があるのは確定)
そこに居たのは白い毛に赤の模様が映える一匹の狐だった。赤の模様は火のような形をしている。目は閉じており俗に言う糸目というやつだ。
カエンなどとは違い着物は着ておらず四つ足で立っている。
言葉を話す程の知性があることは分かるが四つ足であるため今までにない異質さが際立つ。
「んー……その反応が正しい。小さき者が生き残るにはそれが一番だ。わしだってそうする、が、ちと悲しいな。気に入った者にその反応をされるのは」
(気に入った者? 俺はこんな奴見たことはない。これはあれか? ストーカーってやつか。ちゃんと怖いやつじゃねぇか。つかさっきこいつ俺のこと主って言ってたよな? どういうことだ)
「まぁ、そう思うのは当然だ。ということで自己紹介といこう。わしはこの森の元主空狐。よろしく頼む、我が後継者」
空狐と名乗ったその者は右の前足を胸の前に置き軽くお辞儀をした。
「後継者ぁ? 俺はそんな大層なもんになった覚えはないぞ。俺は見ての通りただの八咫烏だ」
外見は別に普通だけど中身について問われたら黙りこくるしかないがな。
「ふふっ、そう言われても掟は掟だ。君はこの地を治める力がある。それにもう君はこの地を変えておる。その様子だと無意識だろう」
「さっきから何を言っているんだ。意味が分からねぇ。もっと分かりやすく言ってくれんか」
「わしは君より年上であるのだが君は年上に対して尊敬の念とかは持ち合わせてないのか? それと訂正するが神でなくとも心を読む者は稀に居るぞ。注意せよ」
「すまんがお前みたいな奴とは色々あって怖いから諦めてくれ」
八咫烏とかあの夢の奴とか舎弟とか。
いや、いい奴らだってことは分かる。夢の奴は知らんが。それを消し去るほどの俺ら妖魔とは違う異質さというか考え方が根本的に違う何かが俺とは相容れない。
「あのカエンとかいう者に対してはある程度畏まっていたではないか。あのような態度で接すれば何も文句は言わぬ」
「カエンはまだ何となく良かったがお前らは胡散臭さが段違いなんだよ」
「わし悲しい。まぁ、わしの祠を掃除してくれたから何も言わぬがな」
(祠? んなもん舎弟の件があってこりごりなんだが……あぁ、あれか)
少し前の魂時代、霧ワープで飛んだ時辿り着いたあの祠だろう。
(あれ今思うと何も情報無い場所に突っ込んでったことになるよな。えっあっぶな、俺ただの馬鹿じゃねぇか)
だがあの霧ワープを極めればかなり使えるのではないか。
使い方としてはまず霧を散布しワープ場所に飛ぶ。
だが霧状態で視覚を広げられないのが惜しい。それができさえすればもっとできることが増えるのだが。
(だがあの頭痛は二度と経験したくは無い。ほんとにいてぇよ。脳が焼き切れるかと思ったわ)
「熟考しているのとこ悪いが話を戻しても良いか」
「あっはい。ごめん」
「えー何から話せばよいか。わしが何話しておったか覚えているか?」
「おう爺さん大丈夫か? 認知症か?」
「祟るぞ貴様」
「すんません。つかそんな簡単に祟れるんだ」
「わしは妖狐ではない。それに一応人の子に信仰者もおったからいたずらに祟ると天狐様に消される」
「えっ怖い。狐の世界も大変だな。そういや信仰で思い出した。なんでお前あんな祠に住んでたんだ? その口ぶりからするとかなり位の高い者だったと思うが」
俺がたまたまあそこに辿り着いたから良いものの、もし俺が見つけなかったら、俺がそのまま帰っていたら。こいつはまだあそこに縛られていたのかと思うと少し心が痛む。
俺が心を痛める必要も道理も無いが嫌な気分だ。
「うむ……そうだな。わしはただ、忘れられたのだ。この世の者、あの世の者からな」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
ここで前回の小話を、化け猫が着ていた黒装束、これは黒子と呼ばれる者の衣装になります。歌舞伎とかで使うあれですね。それは黒子の他にも雪子などの種類があるそうです。
もしよろしければ評価もよろしくお願いします。読んでくれるだけで嬉しいのですがまた嬉しさで咽び泣きます。
それでは次回も是非読んでいってくださいね。




