森の住人奇っ怪につき
神の神力、妖魔の妖気 交わること無い二つの力 どちらが上がる? どちらが消える? 誰も分からぬ未来のことを 今から憂うのはお門違いにも程がある
神と妖魔の気配が混じる子。不思議な不思議な八咫烏。
将来あの子はどんな色で光るのか。これからしっかり見させてもらおう。
「ところでなぁカエン。これはなんや。うちぁの目にはあの時渡した契約書に見えるんやが」
雪うさぎの手にはひらひらと動く一枚の紙があった。それは契約内容はあれど名前も署名も無いある意味真っ白な紙だった。
こうなるとうちがすべきことは……。
──チリッ
(化け猫、聞こえますか。今貴方の脳内に直接問いかけています)
「すぅ…………おい化け猫! ぜってぇに逃すな! 逃しちゃただじゃおかねぇ! それじゃ」
「それじゃ。じゃねぇよ! ドアホがぁ! おまぁの落ち度を他人に拭わせるなや!」
──ボカッ
「いっ……すんませんした! 話をしてたら忘れてました!」
(こいつ……お前の打撃特化過ぎてただの小突きでも痛いんだぞ! いやうちのせいではあるんだけど!)
「しっかもこの紙に妖気込めたのうちなんやぞ。くっそ高けぇんやぞこれ! …………はぁ……化け猫の追跡能力はピカイチやしうちも匂いを追っちゃあいるから逃がすことはねぇよ。そこは安心しな」
「妖魔斬りの魔物種族長である雪うさぎさんがそう言うなら安心だな」
「褒めたって無駄や。元はと言やぁおまぁのせいや。せめて化け猫に飯奢ってやれ。たけぇやつ」
(うっ……化け猫、あの体格に見合わずすげぇ食うんだが……あとなんぼ残ってたっけ……お小遣いがぁ……)
「あのぉ……できればお小遣いを少し前借りすることっt……すいません」
一気に重力が強くなる、ように感じた。あぁ……白い毛が黒く見える。後ろの方からゆらゆらと影が見える。
あの子もこんな気持ちだったのかな。それだと悪いことしたなぁ。
(つかこの歳になってまで小遣い制なんて……しかもうちより年下に管理されるとは……なんでやぁ)
「おまぁに金銭関係任せたらろくなことにならんとお師匠様直々の言葉や。諦めな」
「あのくそ師匠が。余計なことを告げ口しやがって。さらっと心読むな。つかうち結界張ってたはずなんだが……」
「これはただの読心術や。極めりゃ人の子でも使える。術を介さないから結界なんて意味ないぞ。んっ?」
──チリッ
「おっ、どうした化け『ご報告します! 追跡対象が……迷霧の森に入りました! 至急ご命令を!』……はっ?! おい! 雪うさぎ!」
「こっちも追跡が途絶えた。どうやら化け猫の言葉は本当のようや。にわかには信じがたいがな」
迷霧の森、元は主がおらず妖魔の均衡が保てなくなり廃れた森だった。
だが少し前突如発生した霧により一気に危険度が高まり侵入禁止が発令された場所だ。
昼、夜共に霧が濃く一歩踏み入れるだけで辺りは一寸先も見えない。昼の方はまだいいが夜になると昼の霧に加え更に視界が暗くなる。
基本的に妖魔は夜目を持っているがそれが許容できないほどの闇。普通の妖魔は一寸先も見えないほどの暗闇など経験したことが無い。
その中での探索は困難を極め、現在政府の探索部隊が調査をしているようだが進展はないらしい。
(あそこは一回入ったことがあるがうちでさえ帰れなくなるほどの所だ。なんであんな所に入ったんだ……? 分からねぇ)
「とりあえず化け猫はこっちに帰ってこい。できるだけ情報を持ってな。『了解。すぐに帰還いたします』おし、ひとまずあそこに入られたんじゃどうしようもないから一旦放置だな」
「あぁ、すまんがあそこはうちの探知範囲外や。だがあの子はなんであんなとこに行ったんや」
それが一番の問題だ。
あるとすればうちの思考を読んで逃げた。だがそれは無いだろう。さすがにそんなことされれば気づく。
思い返せば帰る時、あの子はなんて言っていた? そうか……そこに答えがあった。もうあの子自身がその答えを話していたんだ。
「なぁ雪うさぎ、あの子がここを出る時なんて言ってたか覚えてるか?」
「んー? 確か……“一旦家に帰ります”やっけ……えっあの子の家ってまさか……」
「あぁ、十中八九迷霧の森だろう。あんなやばいところが家ってあの子どんな妖生送ってきたんだよ。そんなに居場所が無かったのか? 一旦保護して宿舎にぶち込むか? あー……ごめんごめん雪うさぎ、一旦落ち着け、ね」
いつもの涙だ。先程はあの子が居たため出来なかったがこいつの涙を止めるには……。
「うっ……すまん。涙腺が……。あー涙引っ込めー」
──モフッ
「ほれほれー落ち着けーあいっかわらずモッフモフだな。触り心地抜群だこりゃ」
「ほいっ! ひゃめろやヒャエン! おいっ……おい! ごら!」
モフっている所に飛んでくる右フック。当然避けられるはずもなく。
──ゴンッ
「ぶっっ……いってぇええ。音が拳の音じゃねぇよ! お前の拳は鉄か!」
「辞めろゆうたやろが! 触り過ぎや。左フックが飛んできなかっただけありがたく思いな」
「でも落ち着いただろ? ならいいだろ」
白い毛で覆われているが赤くなるのは隠せない。雪うさぎの顔が白い毛と赤で桃色に染まる。
「ぐっ……それはぁ……ありがとう……やな。カエン」
「素直じゃないねー。そういう時は素直になるのが一番よ」
「遺言はそれでいいか?」
「すいませんした」
真っ黒の影で覆われている顔でファイティングポーズをとっている雪うさぎ。
何度も殴られてきたから分かる。あれは普通に死ねる。
(顔がコロコロ変わって面白いなー。あはは)
──ビッ
「ひゅっ……すいま『次は当てる』誠に申し訳ありませんでした」
「はぁ……化け猫、入ってきてええよ」
──ギィッ
「しっ……失礼します。偵察隊所属。化け猫、ただいま帰還しました」
そこには一つの尻尾をピンと立たせている化け猫がいた。
帰還してすぐに来たのか黒装束に身を包み手足は魔物型の肉球のままだ。顔はよく見えないが浮かない顔をしていることは察せれる。
「おうお疲れー。すまんねー色々ごたごたしててー」
「その原因、おまぁなんだけど」
「あははー。それで話してもらおうか。あの子のことを」
爪を器用に使い頭にかぶっていた黒布を取る。頭巾を取れば綺麗なキジトラ模様が顔を覗かせる。
彼は少し俯きながら話しだした。
「……はい。あの八咫烏は異常です」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
ここで前回の小話を、鳥の部位で人で言う腕にあたる部位は羽翼といい両方を指す場合には双翼と言います。
もしよろしければ評価もよろしくお願いします。読んでくれるだけで嬉しいのですが嬉しさで咽び泣きます。
それでは次回も是非読んでいってくださいね。




