導く神と居場所がない者
チリンと音なれ化け続けろ 貴方がここから逃げ出すまで 貴方が安心出来るその日まで
「さーて、まずは旅の為に家に帰って、そしたら物取って目的地決めようかね」
「おい!童!」
「……?なんか聞こえるが気のせいか」
彼女はあたりを見渡した。だが周りを見渡しても何もいない。
「おい!童どこを見ているのじゃ上じゃ上!こっちを向かんかい!」
「上……?あっ?上にはなんかでかい鳥ぐらいしかおらんが……えっ…まさかあれか?」
「あれとはなんじゃ!無礼者が!まったく……なぜ妾がこんな童の為に降りてやらんといけんのじゃ……まったく童は感謝するのじゃぞ」
すると上にいたでかい三本の足を持ったカラスが降りてきた。が
「おぉー!おっ?あっちょまっ!!ぐぅっ!」
降りてきた風圧で転んでしまった。
「えっ!すまぬ!大丈夫かの?人の子ってこんなに弱かったかの……いいやそれより、おい童!しっかりせぇ!」
だが、すぐさま立ち上がり怒った様子で
「おい、お前!危ないじゃないか!降りるときはゆっくり降りてくれ!じゃないとわんちゃん死人が出るぞ!」
「ううむ……すまんかった。いやなぜ高貴な妾がお前のようなちんちくりんに謝っておるのじゃ!童が謝れ!」
「はぁ??何か悪いことをした方が謝るのが筋だろうが!俺は被害者だろうが!」
「なんじゃと貴様!妾を誰と知っての狼藉じゃ!そこになおれ!しっかり妾の偉大さを妾直々に教えてやろうぞ」
「いや、その前にお前の名前を知らんのだが」
「おや?まさか妾の名を知らんと申すのか?!妾も落ちぶれたものじゃ……」
カラスはひどく落ち込んだ様子で羽をパサッと地面に落とした。
「おいおい、大丈夫か?えー……とカラスさん?」
「妾は烏であるがそこらの烏と一緒にするでない!妾は高皇産霊尊より遣わされた導きの神である八咫烏であるぞ!」
そのカラスは羽をバサッと広げ彼女にそう名乗った。切り替え速度は速いようだ
(あぁ…なんか聞いたことあるような気もするが覚えてねぇ……)
「ささ、妾も名乗ったのだから童も名を申せ。妾が特別に聞いてやろうぞ」
「(こいつめんどく)」「ちなみに妾は人の心を読むなんて造作もない。じゃから用心するといい。まぁただの童にそんな事が出来ると思わんのじゃがな」
(あっやべぇ、俺死にかけるか?それとも死ぬか?)
「くっくっくっ、そんなに警戒せんでも良い。別に、取って食おうなんて考えたりせんわい」
だが彼女はそれをはっきり見えていた。怒りのオーラが……それはそれは色濃くそして鮮明であったそうだ。彼女は一歩たりともその場から動けなかった。
「ふっ、ふぅ……(落ち着け、落ち着きやがれ)よっ、よし!と言っても俺、その名乗る名前分からないんだよな。」
「名乗る名がないじゃと?くっくっくっぁはっはっはっ!なんじゃ、そんな妖の気を纏わせといてしかも名前がないとは……それじゃまるで妖魔そのもののようじゃの!おやっ?童、お主本当は妖魔のようじゃ。妾を騙すとは相当腕が立つようじゃな」
(妖の気?なんだそりゃ?いや、その前に俺は人間なんだが)
すると八咫烏は首を傾げ、心底驚きと混乱した様子で
「童が人の子?かっかっか!そんなわけないじゃろ。そこまでの妖の気がありかつ名がない……しかも妾が童の心を覗いてもそこはただの空欄じゃった」
(はぁ…?俺は人間なんだが。それにしても心を読んても分からんとは俺はなんなんだよ)
「妾がしたのはただ心を読むのではなく心を覗くじゃ。読むのとは格が違う。そして人の子には必ず真名がありそれは変わることのない物じゃ」
あたりは急に静かになり八咫烏の声がよく響いている。まるでこのことを彼女が聞き漏らすまいとしているかのように。そしてこの現実を受け入れろと言わんばかりの静けさが彼女を襲った。
「童にはそれが無い。それはつまりお主は人の子ではない」
その瞬間、彼女は何か得体のしれない不安感、そして完全に自分を見失った。
「妖魔には真名をつけることはできず基本種族名で呼び合う。稀に自分で名をつけるものもいるのじゃが、それは勝手に呼んでいるため真名ではなくどちらかというとあだ名といった具合かの。…………おい、童大丈夫かの?」
彼女はもう呼びかけに反応しなくなっていた。
「ううむ……これはちと言い過ぎたかの?一旦妾の縄張りに還ろうかの、このまま置いといても妖魔に襲われるとは思えんが、ちっこい童を置いとくわけにはいかんしの……」
八咫烏は彼女を体に器用に乗せそのまま羽ばたいていった。
「ううん…………?んぁ?ここどこだ?」
彼女が次に目を覚まし初めに見たものは知らない天井だった。
「おっ!起きたかの?なんじゃぁ、あの後急に静かになって心配したぞ」
彼女があたりを見渡すとそこはどこかの神社のようだった。仏壇がありその横には和太鼓が置かれていた。
「なぁ、ここはどこだ?」
「ここは島根県にある多鳩神社じゃ」
「しっ…島根ぇ?!なんでそんなところに……俺がいたの三重だぞ!なんでこんなところにいるんだよ!」
三重県から島根県までは道なりでは約600キロメートル、直線距離にして約325キロメートルである。
「しょうがないじゃろ、今は神無月、出雲大社に集まって会議するためにここを縄張りにせんといかんのじゃ。これが終わるまで我が家には戻れんのじゃよ……」
(神様も大変なんだな、そういや十月は昔の呼び方で神無月、島根だけ神有月になるんだっけ?もう習ったのが昔すぎた分からんな)
そんなことを彼女が考えていると八咫烏が急に前に出てきてクチバシが当たりそうになった。
「そうそう、おい童!お主、妾の信徒とならんか?」
(はぁ?信徒?そんなものになるわけないだろ。つか圧がすげぇよ)
「おおっと、すまんすまん。つい化けるのを忘れておったわい。」
─パチン
そんな音がしたと思ったら次の瞬間にはそこにはでかいカラスはおらず、カラスの頭に人の胴体を持った獣人のような姿がそこにあった。
「うぉ…!おぉ!凄い!えぇっ、そんなこともできんのか!」
「なんじゃあ?急に元気になりよって……まぁ良い。話に戻るが信徒になる気はないか?」
「信徒かぁ。だがそれになったとしてメリットが無いだろ」
すると八咫烏は勝ち誇った様子で
「三食、宿屋付き、さらに、化け能力も分けちゃる」
そう言っていた。が、彼女は怪訝な顔をして布団から出るとあぐらをかき
「いや、俺は今から旅に出るんだ。というかそんなことしてお前の何の為になる?ばあちゃんに『ただより怖いものはない』って教わったんだが、つか化け能力ってなんだよ」
「そのばあちゃんしっかりしとるのぉ……して妾とて童のようなちんちくりんを飼う趣味は無い。童には少しばかり依頼をしたいのじゃ」
八咫烏は座りそう言うと
「童、お主はこのまま生きていけるすべはあるのか?金だって稼げぬ、衣食住何もどうすることもできぬではないか。それだったら妾の下で働かんか?それだったら最低限の衣食住と依頼を受ければ報酬だって出るじゃろう。さぁどうする?」
いつの間にか周りは黒い霧で包まれ、身動きが取れなくなっていた。
「おいおい、神様は頼むとき逃がさないようにするのが鉄則なのか?」
「童、他に神におおたことがあるのか?」
「はぁ?そんなわ……あれっ?俺さっきなんて言った?これは俺が覚えてない記憶か?」
彼女は混乱し、頭から煙が出そうな勢いで考え込んでいる。
(つまり、こいつと居ることで記憶を取り戻せるかもしれない。それだったら充分ここにいる価値はある……しかも、衣食住が保証されるとは……断る理由がないか?)
「決まったかな?」
「あぁ…俺はお前の信徒となろう。そしてお前に忠誠を誓ってやる」
「ふふっ、くぁっかっかっ!童、それがこれからお主の主となろう者にする言葉使いか!まぁ良い、童の許可も取れた、さぁ早速結ぶとするかの」
八咫烏が彼女にふれ、なにやら念仏を唱えたその時……
バチッ
急に八咫烏の手が弾かれ八咫烏はよろめいてしまった。
「なっ、なんじゃ?急に弾かれよったわい。おい童!お主一体何をした!」
そんなことを言われても彼女は心当たりがなくただただ不思議そうな顔をするだけだった。
「んんっ?童、お主もう契約がされておるようじゃの?」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
それでは前回の小話を、実は最初化けるのはカラスだったのですがこれ最初から飛べたら面白くないなと思い獣にしました。
それでは次回も是非読んでいってくださいね。