千里の道も一歩から
自分の勘を信じて進め ときにそれが導となろう 命を救う光となろう
(してどうすんだーこれ)
俺の前には怒り狂う獣、対してこちらは肉体も何もない俗に言う魂。
(基本的に肉体ある方が強いよな。だが俺は今までと一味違う! 腹に力を込め……突進!)
──ビュッ タッ タッ タッ ダンッ ──バリッ
当たった。
そう思ったが手応えはなくしかもあいつは森の中に隠れてしまい見失った。
一瞬あいつの体が稲妻に変化しているように見えたし流石妖魔、常識は通用しない。
風が強く吹いている。木の葉や風の音が邪魔でなかなか音が見つけられない。
(そりゃそうだよな。あんな予備動作多いやつ避けん方がおかしいか。それよりあいつはどこだ。こんな森の中で自由にされんのは困る)
「キシャアッ」
前ばかり見て背後まで気が回らず音がし振り返った時にはもう遅かった。回避なんてできもせず、今は自分の鈍感さを憎んでいる。
─ガブッ
(うわっ、そこにいるならそう言えよ! いや言葉分からんけどさぁ!)
そんな馬鹿なことを考えているうちにあいつは俺の体をどんどん喰い進んでいった。
体の内側を直接触れられ削られていくような不快感。
実際に体の外側なんてないので表現方法は合っているはず。
(やばい、やばい、やばい! このままだと全部喰われちまう!)
とにかく体をぶんぶん震わせ動き回ってみたがなかなか離れずそれどころか歯がくい込んでいった。
普通にやばい。
(まずい……離れろや! 獣野郎がぁ! いや魂風情にそんなこと言われたくはないか。いんやそれよりこれどうすんだよ! 死ぬ! 真面目に!)
思考が加速していく。走馬灯のようなものなのか。それとも何とか生きようと考える時間を与えられたのか。
だがその時間が俺を助けた。自分の体が喰われていくうちに一つ疑問が浮かぶ。
それに賭けるしか道は無い。
(疑問は即刻実験だよなぁあ!)
──ズルッ グジュッ
「ギシャアァ゙アア!」
魂にちゃんとした形があると思うか? ある程度形を保っていればパーツは変えれると思ったがそれは当たったようだ。喰われている場所に口を回しそのまま口の中に流し込んだ。
どうやら何かを食べるという意思があるときに口らしきものはでてくるらしい。
(うっ、げほっ。急にでかいもん入れたら喉死ぬわな。喉無いけど。はぁ……がぁ……ふぅぅ……。ふふっ、ふははっ、よっしゃあ! 勝ったぞ! 喰ってやった! 俺は自分の意志で! この体で! 生き残ったんだ! やっべぇすっげー嬉しい)
俺はこの世界で自分の力で命を勝ち取った。それだけでなんともいえぬ優越感。
気づけば太陽の光が上の方から差し込んでくる。時計がないので正確な時間は分からないが昼は過ぎていないだろう。
(さぁどうする。このまま休んでもいいが……たぶんあいつ喰ったことで体力は有り余ってんだよな。いつの間にか喰われたところ治ったし。もうちょい動くか)
あたりを探索してみることにしたがめぼしいものは見つからず小さい魂がたまに浮いている程度だった。
見つけた魂はちゃんと喰ったが肉体を得ているやつはいなかった。
──ガサッ
(ん?)
「シャャアア」
草陰の隙間から顔を覗かしていたのは胴回りだけでかい丸々とした蛇だった。
じっくり見ていると急に奴が視界から消えた。
(さっきも見たぞ。種族が違うとは言え考えることは同じのようだなぁ!)
──ガブッ ──ジャ!
(横から来るぞぉ! 気をつけろ! ってな)
俺はさっきと同じように口を横にずらし喰ってやった。
味は分からないがさっきより不味かった気がする。
なぜそう思ったかわからないしそいつも喰っちまったので確かめようも無いが、その疑問は案外すぐに解決した。
しばらく漂っているとさっきの蛇と火を纏う小さな鼠二匹睨み合っていた。
(お、ただいま交戦中か? あんま他のやつと合わないから新鮮だな。やっぱ図体差あるし蛇が勝つかね……おっし蛇に賭ける)
戦いの火蓋が切って落とされようとしている。
天候良好、風は無し、一対一のタイマン戦。
(さぁ、勝利の女神はどちらに微笑むのか! 命を賭けた大勝負! さぁさぁ寄ってらっしゃい! 賭けてらっしゃい! 賭けるものなんも無いけどな!)
結果としては蛇の圧勝で戦いは終わった。
だが有益な情報は手に入った。
まず、蛇が不味かった理由だがあいつ、毒持ちだ……
(そりゃいくら舌が無いとは言えなんとなく不味く感じるわ。一応野生の勘か? 野生の勘って当てになるんだな)
起こったことといえば蛇が鼠に噛み付いた、それだけだ。だがそのまま鼠が泡吹いて倒れて蛇の胃の中に収まった。
自分の予想とすれば体格差を活かした戦闘が見れると思ったから正直おもろくはなかった。
(実際戦闘経験はほとんどないから参考にしたいと思ったが……これじゃどうしようもねぇな。いやまぁ蛇もついでに喰えたし万々歳ではあるんだけどな)
ちなみに喰われていた鼠の方も喰おうと思って腹を掻っ捌いたが中には何もいなかった。
どうやら喰われたら即刻消化されるらしい。
(少し残念だったがしょうがない。ひとまず一旦休みなから考えてみるか)
最後まで読んでくださりありがとうございます。
早速前回の小話を、前回の獣はハクビシンがモチーフとなっています。
それでは次回も是非読んでいってください。




