貴方が誰であろうとも貴方を支え糧となる
貴方は誰だ 俺は俺だ それを決めるのは俺自身だ それは誰にも譲らない たとえ俺を失おうとも
「元に戻るってどこまで戻れるんだ?」
妖華が訝しげな表情で疑問を口にする。
[いや、元に戻るというのは語弊があるな。我が主の魂は獣の術が混ざっている。そのため獣の姿が魂に縛りつき、刻まれている。それが変わることはない]
「おぅおぉ、ずいぶんバッサリと行くな。まぁ、そっちのほうが分かりやすいが」
[だが化けることでそれは誰かを騙すことができる。それは他人かも知れないし我が主自身でもあるかも知れない。だがこれは一度決めたら元には戻れぬ。それをするかどうか決めるのはワレではなく我が主d]
「話がなげぇな。校長かよ。はよ話せ舎弟」
祠のモノは黙りこくった。どうやら舎弟と言われたことに驚愕しているようだ。
しばらくたち話し始めた。
[妖魔を喰い妖気を溜め人の姿に化け続けろ]
言葉が脳内に響く。それはこれからの未来を決める道筋だった。
「それを始めからそう言え。そんでこの状況を打破する方法はなんかあるのか?」
[…………我が主はワレとも魂が混ざっている。だが力までは共有していない。ワレの力をも混ざることができたならばワレの毒を無効化できるだろう]
「なんでそんなこと分かるんだ? つか舎弟いつからここに居たんだ」
[我が主がワレを喰ろうたからだろ。まさか喰うとは思わなかった。我が主、よくその年まで生きれたものだな]
妖華の額に汗が流れ黄金色の毛が水で濡れる。
どうやら図星だったようで顔が強張っている。
「いやー……あのときはどうにかしないと死ぬとこだったしなー! しょうがないさー! はっはっはっ。 そんでお前の力を使うにはどうすりゃいい」
[それはワレの話に乗ってくれるということになるがいいのか? それは我が主が己であったという唯一の証拠である肉体をも完全に捨てることになる。すなわち我が主自身も己を己で騙し続けることになるぞ]
「何を今更。もう人間ではないって言われたときからもはや何も思わんわ」
[……? 我が主は八咫烏ではないのか? 人の子なのか……?]
「なんかいつの間にか人じゃなくなってた元人間です。真名がないらしいから八咫烏に妖華と名付けて貰ったが今度は魂が混ざったと言われた元妖華です」
祠のモノは沈黙した。気まずい空気が流れる。
それを紛らかすかのように妖華が口を開いた。
「ゴホン、ところで今の俺の体ってどうなってるんだ」
[あ、あぁ……我が主はまず種族は八咫烏、元は人の子だったらしいが、それは置いとこう]
「あー、うん。置いといてくれ」
[体は獣に縛られているがそれは元の肉体を媒介にしているようだな。そう言えば元は人の子と言ってたな。その肉体は人の物か]
「あー、たぶんそうだと思う……?」
[そして魂、今は我が主と獣の術が混じり合いそしてワレはあまり混じってはおらん]
「お前ボッチやん。おもろ」
[黙れ。オッホン……今からワレがやるのは我が主と獣の魂にワレも混じる。これにより我が主の肉体は新たなモノとなるが魂も深く混じり合うこととなる]
妖華はそこである者が頭をよぎった。
妖華自身に術を刻んでくれた八咫烏だ。今まで八咫烏の名前が一度も出ていないのだ。
「なぁ、八咫烏の術はどうなるんだ?」
[あぁ……術は肉体に刻まれているのか。肉体なら新たなモノになる時に術も取り込まれるだろう。種族自体も変わらんだろうて]
「つまりこの体が新しくなったら八咫烏になるってことか?」
[うむ、おそらくそうなるだろう。そしてワレや獣、我が主の精神、力は魂にそのまま取り込まれ未来永劫その身朽ち果て生まれ変わろうとも終わらぬ輪廻となりて我が主を支え続けよう]
「ふはっ……いい感じの言葉だがそれも誰かの受けよりか?」
会話の間が少し空いたがすぐに声が頭の中を響く。祠のモノは心なしか少し楽しそうだ。
[これは今考えたものだ]
「そうか……いいな、それ。頭の隅にでも置いとくわ。そういや舎弟の名前聞いてなかったな。なんていうんだ?」
[ワレは常世の国より使いせし龍蛇神と申す。我が主、短い間だったが楽しゅうございました。これからの貴方様のご活躍を心より願い申し上げます]
「その言い分だとやっぱり舎弟は消えるんだな。まぁ、お決まりではあるか」
[はい、もとよりワレは地獄に堕ちるところを我が主に助けてもらった身分。我が主の為ならばこの命捧げましょう]
「なんかそれ前に言ってたな。……?つか龍蛇神って言ったか?」
[あぁ、確かに言ったがそれがどうした?]
妖華は苦虫を噛み潰したような顔をし悔しそうな様子で。
「……てことは舎弟、ウミヘビかよ」
[う、うむ。そうだが……]
沈黙が流れる。妖華の方を見ると顔がどんどん暗くなっていく。すると突然。
「あ゙ぁぁーー!! そりゃピット器官ねぇわ!! くそっ……俺としたことが生物の検討を外すとは……ウミヘビならそりゃあ毒もあるわ!」
妖華は大声を出しゴロゴロと暴れ始めた。
訳では無く縄があるためその場で唸るだけだったが。
それでも悔しそうな気持ちはひしひしと伝わってきた。
「は、はぁ……、もう過ぎたことだからいいんだがな。ふはっ……あーあ、せっかく舎弟ができたのに居なくなるんか…………面白くねぇ」
[舎弟になったつもりはないのだが…………だが我が主、ただ居なくなるのとは訳が違うぞ。ワレは我が主にワレが居た証拠を残すのだ。あのまま忘れられ意味もなく何も残せず逝くところを我が主がワレに意味をくれたのだ。それだけでワレは充分だ]
「でもよぉ、残された側はどうなるんだよぉ……なんかやってほしいことでも無いんか……?」
[こんな短い間でそこまで思ってくれるのか? この出来事の元凶なのにか? 我が主は本当に不思議だ……それはワレが哀れだと思ったからか? 意味が分からない。 だが我が主が優しいのは分かる。……そうだな]
祠のモノは考え込んでいる。
本当にこれ以上望んでいいのかいいのか。この望みが妖華への負担になるのではないか。呪いとなるのではないか。
そんなことを考えていたがしばらくして口を開いた。
[ではワレを祀っていた社に行ってくれないだろうか。そしてその街でも観光してくれ。ワレの愛した土地だ。是非我が主に見てもらいたい]
「そんな簡単なことでいいのか?」
[こんなこと我が主にしか願えない。頼む]
「ははっ! もちろん、やってやるよ。舎弟、いや龍蛇神のその願い。聞き届けた。必ず俺が叶えよう」
妖華の中にいるため祠のモノの表情は分からない。だが安堵している気持ちはよく伝わってくる。
[もうこれ以上の願いは無い。では行って参る]
「おう! 元気でな!」
その言葉を皮切りに妖華の意識は深く、深く意識の海に沈んでいく。
だが不快感は無い。必ず戻ってこれると信じているから。
(ううん……?俺は…………?)
俺が目を覚ますとそこは何もない白い部屋だった。足元には縄が転がっている。
音は聞こえない。舎弟の声はもう聞こえない。
(舎弟は……もう居ないな。俺は今どうなっている?)
足を見ると、腕を見るとあるべき物がそこには無かった。
俺はもう人としての形も失った。




