人未満になっていた
チリンと音鳴りゃ化ける時間 貴方の望みを形にする 貴方がいつか出会うまで
彼女はいつもの通り中学校に登校した。
いつもの教室に入り眠くもないのにあくびをし席に着く。誰ともしゃべらずただ静かに周りを見ないよう、目を合わせないよう過ごしていく。
そんないつものクソッタレな日常が今日も訪れた。
ふと教室の外を見ると鉄棒の下で何かが動いている。何かと思いじっと見つめるとそれもこちらを見つめてくる。犬だ。犬が校庭に迷い込んでいた。
餌を取りに来たのか、はたまた誰かの犬なのか。それは彼女には分からないがこちらをじっと見つめている。
(あーあ……俺も獣になって俺のことを誰もしらないところに行きてぇな……あっ?)
──チリン
突然、彼女の頭の中にチリンという音が響いた。
すると突然頭が割れた……いや、割れるような激痛が頭に、心臓に一瞬で伝達する。
「がぁっ、が…ぅ……ぅ゙あ゙ぁ……あ゙ぁ」
彼女は脇目も振らず唸り続けた。ただひたすらに迫りくる痛みに耐え続けた。
それは時間にしてたった数秒の出来事だったが彼女には数分、いや数時間に感じられた。
(はぁっ……やっと落ち着いた……一体何なんだ?)
ふと気がつくと周りが静かだ。それはそうか、あんなに唸っていたのだから。
だがそれとはどうやら様子が違うようだ。なにやら化け物を見るような、そんな暗く奇異な目でこちらを見てくる。
「いくら俺が憎いからってそんな目を向けるのはおかしいだろ……普通に悲しいぞ」
その時あるクラスのやつが口を開く。
「ばっ…化け物……!」
「化け物だぁ? 俺はただの人だ。お前らどうしたんだ、あー……そりゃあんなに唸りゃそうなるのか……? いや、それにしてもそれは違うだろ」
彼女はクラスのやつに近づこうと考え、立ち上がろうとした。
「(おっととっ、少し足がおぼつかないな。というか立ち上がれない…)…はぁっ??」
だかそれは叶わなかった。
立ち上がれずに座り彼女が見たのはなにかの獣の足だった
(いや、えっ、あっ、なっんで??いや……落ち着け、落ち着くために素数を数えるんだ……2.3.5.7いや、素数で落ち着けるか!そうだ他の所は!)
彼女はバッと腕を広げようとした、だが実際に彼女の目に飛び込んできたのは茶色の艶のある毛を持つ獣の腕だった。
「はぁっ?? いや、どういうことだ! なんでっいや、えっ?」
──ビュッン
彼女が混乱しているとクラスのやつが急に物を投げてきて彼女の頭にコツンと当たった。
これがハサミとかではないことは幸運だと思っておこう。
「化け物……! ここから出ていけ! ××を返せ!」
「いってぇ……おい! 俺はお前のクラスメイトの…………あれっ? 名前なんだっけな? 俺誰だっけ? そうだ、物の名前を見れば!」
彼女は物を投げつけられながら慣れない身体を使い名前を探した。
だが見つかったもの全てに名前はなくただの空欄が広がっていた
(なんで? なんで……なんで?! なんで俺の名前がない? どこだ、どこだ!! そうだ……あいつらに名前を聞けば!)
「おい! 俺の名前はなんだ! 教えてくれ?!」
「はぁ…? そんなこと知らないよ!化け物が××の荷物を触らないで。それより××を返してよ!」
(なんだ? 何か聞こえないところがある? いや、理由は分からないがそこが名前なんだろう)
彼女は妙に冴えた頭で現在の状況を判断した。だが何か引っかかる……そして彼女はあることを思い出した。
「いや、お前ら散々俺のことを見ないふりしといて今更なんだ!」
「い……いや、あの子を無視してた訳じゃないし、こっちとしても理由があったの……よ……? それにお前は××じゃないよ! あの子はそんな口調じゃなくてもっと優しかった! いつから入れ替わってたのよ! あの子を返せ!」
「優しかっただぁ? 俺は元々こういう性格だ! それに前から俺のこと見ないふりしてたの分かってんだよ! 気味がわりぃ……俺が何をしたっていうんだ…………」
「だからお前が偽物っていうことじゃないか!さっさと出てけ!」
(なんなんだ…なんなんだよ……俺は俺だ、なんで分からない、なんで俺は自分が分からない。なんで、なんでなんだ……! いや違う、このままではやばい。一旦逃げないと)
彼女は四足で走り出しそのまま空いていた窓から飛び出した。
先程とは打って変わってまるで元から四足獣だったかのようにその体は彼女の思い通りに動いた。
「俺は何者なんだ……」
彼女は逃げ出したあと、ある公園で悩みこんでいた。
「はぁ……(何の手がかりもないしなー)あーあ! これからどうすっかなー」
(そういや今俺どんな姿だ?)
彼女は自分の体を見てみたが、いつの間にか獣ではなく人の姿に戻っていた。
(おっ、戻ってら! いやなんで変身したんだ……えーとまず俺はいつもの通り教室に入り……そして授業を受けていただけだったよな……? んーー…。そういやあのとき窓の外の犬見て獣になりたいって思ったっ……け? まぁ、ものは試しだ)
彼女は望んだ。ただ獣になりたい、ここから逃げ出したいと。
──チリン
その時またチリンと凛とした音が体を貫いた。
「い゙っ…! がっぁ……! ぐっ……ぁ」
どんどん体が内側から変わっていくような、そんな不快感と痛みに耐える。彼女ができるのはそれが終わるまで耐えることだけだった。
「はぁっ、はぁっ……これ毎回あんのかよ…まぁ頑張って慣れるしかないか…いつか慣れんだろ」
彼女は獣になった。だがその変身はすぐに解け人の姿に戻っていた。
「はぁっ!! あんな苦しい思いしたのにすぐ解けたんだが! どうなってんだ? つかなんでさっきは変身したままだったんだよ」
その時、あることを出来事を思い出す。
いつの日か寝ていて目が覚めると首元にでかい入れ墨のような爪痕があったことを
(そうだ、あれか? だがその前に何をしていたのか思い出せない……でも最近起こった不思議なことはそれぐらいしか? いやでもなんでそんなことを忘れていた?そういや今あの爪痕どうなったっけ?)
彼女が首元を見てみるとそこには何もなかった。ただそこには少し日に焼けた皮膚があるだけだった。
「あー……そりゃ忘れるくらいだしあるわけないか。あーあ…どうしよ」
(そういや、変身する時のあの音、あれはなんだ鈴の音か?鈴の音……鈴か、どっかで聞いた事あるんだよな…………あっ)
その時彼女はある光景を思い出した。どこかこことは違う場所で誰かと話したことを。
そしてそこから帰るとき鈴の音がしたことを。
「ふはっ……あーそうか。あれか。ほとんど記憶にゃ残ってないが約束したのならそれを果たしに行かないとな。さぁ、目的は決まったな。どこにあるか知らねぇがいっちょ人探しの旅に行くか!」
その時彼女は気づいていなかった。
彼女の上をなにか得体のしれない者が空高く飛んでいることを。
皆様、この度は私の物語を読んでくださり真にありがとうございます。
このお話はあらすじにもある通り前作と同じ世界線ですが見なくても、見ていても大丈夫。貴方に驚きをお届けいたします。
それではもしよろしければ次の話も読んでいってくださいね。