最高にハイってやつだ。
龍騎士を持ち上げていた小さい飛龍の羽は最早、羽と呼ぶに無相応な形をしていた。
大部分に穴が空き、殆どがヨレている。
その全体を形成している小さな羽根は抜け落ちている。
「くっ・・・ここまでか・・・」
龍騎士は意識も朦朧とする中、ただ近づく地面を眺めることしかできなかった。
最後の棍棒が龍騎士を目掛けて地上から飛んでくる。
龍騎士は目を閉じた。
そして・・・
ズガアッ!!
「か・・・はっ・・・」
棍棒が龍騎士の頭部に直撃し、遂に彼女の身体は宙に投げ出された。
地上に打ち落とされた彼女は、既に意識はない。
ボロボロになった小さい龍も既に消滅している。
「ボグァ!ボグァ!愚かだなあ龍騎士。高々(たかだか)雛鳥を一匹召喚する為に生命霊子をそんなに使うなんて。魔法陣が無ければ龍騎士とやらもこんなもんなんだな。」
サイクロプスが笑いながら近づくも、龍騎士の耳にはもはや届いていない。
「無視されている気分になるな。ムカつく。沢山いたぶってから殺してやるぞ。」
サイクロプスが棍棒を龍騎士の脚目掛けて振り下ろした。
・・・
「待てや!この・・・!」
俺、オクダケイは間一髪で棍棒の下に滑り込むことができたらしい。
棍棒は俺の頭部に振り下ろされた。
ブジャッと音を立てて吹き飛ぶ俺の頭部。
俺から見える景色もグルグルと回っている。
空が見え、森が見え、頭が無くなった俺の胴体が見えた。
首から大量の血が吹き出している。
・・・
「はっ!」
俺は周りを見渡した。
サイクロプスは棍棒を振り下ろしたまま、困惑した表情でこちらを見ている。
「・・・やっぱり、ブダの時と同じだ。」
俺は・・・不死身(?)なんだ。
そして。もう一つ俺には分かる。
こうやって一度死んだ後は所持スキルが変わるようだ。
まるで・・・ああ、リセマラだ。
「プラチナトロフィーの力・・・なのかな。」
自分の拳を見て、強く握る。
「・・・よぉ、ご無沙汰だぜサイクロプス。お前は俺には勝てないよ。」
俺は握った手を静かに前に出す。
「炎帝の我儘。」
すると俺の腕から爆風と共に火柱がサイクロプス目掛けて放たれた。
「ば・・・なんだこれは・・・ぐああああ!」
直接的にその火柱に巻き込まれたサイクロプスは灼熱の中でもがいている。
棍棒ごと身体を振り回し、少ししてサイクロプスに着いていた火は消えた。
ところどころ火傷のように爛れたサイクロプスは、プスプスと煙を出している。
そうだな、サイクロプスプスと言ったところだ。
焦点の合わなくなった目でサイクロプスは俺を見る。
「驚いただけだ・・・驚いただけだ!!!」
棍棒を持って降り掛かるサイクロプス。
俺は辛うじてそれを避けた。
「ば、か、が!!!」
サイクロプスは地面にめり込んだ棍棒に力を入れると、ヒビ割れた地面が光り輝いた。
俺には到底逃げきれない範囲の地面が隆起し始める。
「ま!まてまてまて!」
俺は叫ぶが、サイクロプスには最早届いていない。
「うがあっ!」
サイクロプスが力を込めると、隆起していた地面は内部から大きく爆発した。
土埃が舞う。
サイクロプスにはオクダケイの様子は良く見えていないようだ。
煙の中から俺が話しかける。
「・・・あー・・・いてー。・・・なぁ、お前は死んだことあるか?これさ、めちゃくちゃいてーの。何度死んでもその痛みは残るわけ。」
俺は土煙を払いサイクロプスを見て続ける。
「だからあまり俺のこと殺さないでくれる?」
「・・・でも、悔しいことに死ぬ瞬間ってそんなんどうでも良くなるくらい気持ちいいんだよ。」
俺はまるで演説をするかのように腕を広げた。
「最高に・・・ハイってやつだ!」
サイクロプスに冷や汗が流れる。
「お前も味わってみろよ。なぁ。イけるぜこれは。」
俺が前に腕を突き出すと、そこに光のようなものが集まっていった。
魔力のようなもののようだ。
「喰らえ。まるで龍のような鞭。」
俺の腕が鞭のようにしなる。
そして。
ブランと無力に垂れ下がった。
「・・・は?」
サイクロプスは気の抜けた声をあげて呆然としている。
「あー!なんだ、これ!自力で打ち込まなきゃいけないのかよ!」
俺はその垂れた鞭のような腕で頭をワシワシと掻いた。
俺は試しに振ってみるも、ぺち、といった音が少し聞こえるだけで、先端は持ち上がってもいない。
「むりそー・・・。・・・おい、サイクロプス。一度殺してくれ俺を。」
しかしサイクロプスは微動だにしない。
足が震えていることから、怯えているようだ。
「・・・はぁ。肝っ玉は小せぇのかよ。」
俺は呟くと、その弱々しい鞭を持ち上げた。
・・・そして自身の首に巻きつけ、強く引き締める。
「ぐ・・・ぐえ・・・げえ・・・・・・」
鞭で自分の首を締めている俺の意識は、だんだんと遠くなっていく。
「・・・お・・・」
そして、またフワフワとした感覚に囚われ。
・・・
「い・・・イカれてる・・・」
サイクロプスの呟きと共に俺は目を覚ます。
「あー・・・ふぅ。気持ちよくイけたぜ。待っててくれてありがとよ黒焦げロースちゃん。」
次のスキルはどうやら魔法のようだ。
俺は髪を後ろにたなびかせると、足元に落ちている木の枝を拾い上げた。
そしてその枝を振り、呪文を唱える。
「創世・永久凍氷界。」
バキバキバキという音と共に、瞬く間に枝から直線上の空間が凍りつく。
そして、サイクロプスを含めた全てがまるで氷像と化した。
「ふーっ。」
俺の吐いた息が白くなる。
喉まで凍ってしまいそうなその空間だったが、どうやら俺自身は少し肌寒さを感じる程度のようだ。
「・・・うわ、さむ・・・」
俺はクシャミをしながら龍騎士の元に走って向かった。
初めての長編小説となります。
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