ぅゎサイクロプスっょぃ
「サイクロプス風情が・・・!」
龍騎士は悔しそうに唇を噛み締めている。
サイクロプス、俺でも知っている。
ファンタジーの世界では専ら怪力として描かれている鬼の類の生物だ。
さすがは異世界、そういった生物もしっかりと存在しているようだ。
・・・ただ、俺の価値観では龍騎士がサイクロプスに負けるとは思えないのだが。
となると、龍騎士が弱いのか・・・それとも・・・
サイクロプスが強いのか・・・
「プラチナ!避けろ!!!」
考え事をしている間に、龍騎士の声が耳に届いた。
ボゴボゴと地面が隆起する。
地面はやがてバゴっと音をたて割れた。
ひび割れた箇所を覗くが、光さえ入らないほどに深くまで割れている。
かろうじて避けることが出来た俺は何事かとサイクロプスの方を見た。
「虫かと思ったが、避けたか。」
サイクロプスの手には棍棒が握られている。
その棍棒から落ちる土はもはや地面のようで、手にしている棍棒で地面を殴打しただけなのだとすぐに理解した。
「なぁ龍騎士!サイクロプスってあんなに強いのか!?」
龍騎士は俺の問いに答える。
「いや、そんなハズはないのだが・・・アイツは今まで会ったサイクロプスに比べて強すぎる!」
サイクロプスは再び棍棒を振り上げた。
「もうお前らが逃げられないようにしてやる!!」
振り下ろした棍棒は地面に当たるも、まるで空を切るかのように地面に食い込んでいく。
・・・そして、地面の内部が若干光り、爆発が起きたように地面が浮き上がる。
「これでまともに歩けまい。それに、魔法陣ももう描けないだろう。」
サイクロプスは思ったより頭がキレるようで、龍騎士は困惑の表情で唇を再度噛み締めた。
その様子を見てニタニタしながら龍騎士に近づくサイクロプス。
俺も先ほど地面を叩き割ったが、明らかに規模が違う。
力量にはハッキリとした差がある。
かと言って、不意打ちをしようにも逃げようにも崩れた足場がそれを困難にしている。
それに、俺はまだしも龍騎士はそれに加えて脚の怪我もある。
2人で逃げることはまず不可能だろう。
・・・龍騎士を置いて逃げるか?
・・・いや、
・・・それじゃ・・・
・・・だめ、か・・・?
・・・逃げて・・・何か悪いか・・・・・・・?
俺はサイクロプスが龍騎士を狙うのを良いことに、森の奥へと方向を変えて走った。
未だ動けない龍騎士の方をチラリと見たが、残念そうに呆れたように笑っていた。
勝てないんだから仕方がない。
この話の主人公は残念ながら俺だ。
超強いヒーローでも、めげない心があるやつでもない。
読者には悪いけど、惨めで汚い下世話な物語だ。
人を蹴落として泥臭く、後ろ指刺されながら生きる。
まだここにきて2日だ。適当に住処を変えればいつか汚名も忘れられる。
・・・後ろで大きな光が見えた。
俺は驚いて後ろを振り返ると、人間より小さいほどの龍を掴んだ龍騎士が上空へと逃げたのがわかった。
しかしホッとしたのも束の間、地上から飛んできたサイクロプスの棍棒に撃ち落とされかけている。
俺は耳を塞ぎながら走り続けた。
・・・そもそも敗戦したら俺は敵国へのギフトだ。
この戦争で敗北した場合、戦力が低下したところを侵略され、それを俺たち召魂者をプレゼントとすることで食い止める段取りだ。
そしたらわざわざ居住区を変えなくとも、どのみち他の国に移ることになる。
・・・そしたら、誰も俺のこの行動も知らず、仲良くしてくれる。
仕事にも困らないだろう。
戦力増強として渡されるんだ。戦士としての働き口はあるはずだ。
俺が戦士になって、あの超強サイクロプスなんかと一緒に戦果を上げて名誉を得ていって・・・
やがて国は更に領土や国力を得るために攻めやすい国、弱った国に侵攻する。
すると狙われるのは・・・
・・・アスタリアだ。
クローゼの顔が脳裏に浮かぶ。
そうか。そうすると俺は、クローゼも殺すのかな。
テガイ領主の顔が浮かぶ。
テガイとも殺し合って・・・
その勝負がどうなろうと、結局戦力の高いこちらが勝って・・・
俺は2人の死体を踏み越えた自分を想像した。
・・・あー。
・・・ダメだ。
あの介抱してくれた男も、優しかったし。
あの龍騎士も、声可愛かったし。
「まだ・・・2人の名前すら知らないし。」
俺は立ち止まった。
後ろを振り返る。
遠くに見える小さな龍は羽もボロボロでもはや飛んでいるというよりは漂っているに近かった。
そして、とうとう。
地上から飛んできていた棍棒が龍を撃ち落とした。
俺は全速力を出して走った。
龍騎士とサイクロプスが戦っている方へ、力の限り。
「間に合え、間に合え、間に合え!!!」
口から血反吐が出るほどに、走った。
初めての長編小説となります。
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