敗戦濃厚・・・?
倒れ込んだブダを背に、俺は一言決め台詞。
「終わりがないのが終わり。それが・・・」
しかし俺が一番好きでイケてると思っている台詞を、男の声が遮った。
「なあおいアンタ。大丈夫か?」
先ほどのブダに捕らわれていた男だ。
「見ての通り余裕さ。」
男は心配そうに口を開く。
「それにしてはあんた、膝が震えているが・・・」
俺は自分の高速振動する脚を見るや否や、疲労感にどっと襲われ崩れるようにしゃがみ込んだ。
「ふっ。心配ご無用。俺は天下の・・・プラチナ・・・と・・・ろ・・・」
俺の記憶は一旦ここで途切れることとなった。
次に目を覚したのは、男が俺のことを揺り起こしたからだ。
「おいあんたもそろそろ起きた方がいい。撤退命令が下された。」
「・・・看病してくれたのか?」
「僕は医学にも精通していてね。・・・それより、ほら逃げるよ。」
寝ぼけ眼で目を擦っていると、大砲のような音ののちに目の前に飛龍が落ちてきた。
撃ち落とされたのだ。
飛龍と共に落ちてきた、兜を被った龍騎士はぐったりと項垂れている。
龍騎士の腕にはアスタリシアの国章があった。
男が龍騎士の元に駆け付けると、ポケットから緊急医療用の止血テープを龍騎士に貼り始めた。
「大丈夫か、あんた。」
すると龍騎士は男と俺の方を見ると、女性的な声で震えながらに答える。
「逃げ、ろ・・・。そして、テガイ様かショギョウ公卿に伝えろ・・・。アスタリア軍は壊滅的、だ・・・。飛龍隊空挺部隊、全滅。地龍隊特別部隊も混乱で戦況不明だが、確認できる範囲で重傷者、死者多数。ハナヤ海峡最西地点まで、前線後退・・・」
俺はやっぱりちんぷんかんぷんだった。
「おい、伝えてやりてえのは山々だが全然覚えらんねぇ!お前は歩けねえのか?」
俺が叫ぶと、龍騎士は手当をしてた男を指差しながら言った。
「・・・お前には言ってない。そこの男だ・・・。」
俺はまた悲しくなった。
「ああ。分かった。止血は終わったが、右腓骨が斜骨折している。僕は行ってくる。プラチナ君、添木をした上で杖の代わりを探してやってくれ。」
プラチナ君と呼ばれた俺はやはり訳わかめだった。
だが、その男の勇ましい表情を見ると聞き返すことはできなかった。
「わかった。ここは俺に任せろ。・・・死ぬなよ。」
俺は男に親指を立てた。
「馬鹿かお前らは。私は2人ともに逃げろと言ったのだ。敵はバケモノそのものだ。お前のような新参者では太刀打ちできるはずがない。」
そして龍騎士は一拍ほど置いて、弱々しく俺に言った。
「私を置いて今すぐに逃げろ。」
俺は男の方を見る。
男は親指を俺に立てた。
俺もまた、それに返答する如く親指を立てる。
男はアズ・アスタリア城の方角であろう方向に走り出した。
俺は・・・
少し恐怖で泣きそうになりながらも龍騎士の方を向き、上服を丸めた枕に寝かせた。
「お前、なにをやってる!なんで逃げない!」
龍騎士は叫ぶ。
「うるせー。逃げたいわ。・・・でも、なんか偶々俺つえーみたいだし、だったら今ならなれるかなって思ったんだよ。誰かを救うヒーローに・・・。」
その後恥ずかしくなって、人中の部分に人差し指を置いた。
「なあ、俺治療の仕方とか分からねえ。龍騎士さん、指示してくれ。」
しかし龍騎士は左脚を使い起き上がると、もたれかかりながら言った。
「分かったフリをしていたのか?よう分からん人間性だな。だが、いい。どうせ斜骨折だ。脚に体重を掛けたら添木が有ろうと貫通する。」
「・・・でもじゃあどうやって歩くんだよ。」
龍騎士は静かに答えた。
「ふっ。私は行かないよ。お前が私を守る為に残るなら、私はお前を守るためにそれを振り払う。」
そして兜を外し、紫がかった美麗な目を細めて笑うと、俺にありがとうと告げた後に呪文を唱え始めた。
「天の御心を抱える始まりの竜よ。我はピリチュアの血。我が全ての生命霊子を捧げる。交わされた契約によりその身、ここに具現せよ。高次元竜・ケシァマガドウ」
彼女の前方には魔法陣が描かれ始めた。
その緑に輝く魔法陣はとても巨大で、立っている場所からでは全貌が見えないほどだった。
魔法陣が出来上がっていく。
俺は龍騎士の方を向いた。
「すげぇ・・・けど、これで逃げたら良かったんじゃない?」
龍騎士は眉をひそめて言った。
「無理だ。この契約は召喚時に私のエネルギーを全て譲渡するというもの。この召喚が終わると同時に私は死ぬのだよ。」
「・・・じゃあ・・・」
「あわよくばと思っていたが、お前に助けられて考えが変わった。私のこの命と引き換えにこの戦争に勝利する。」
「じゃあ・・・」
「すると勝利をもたらしたのは、お前だな。」
「じゃあ!死ぬってのか!?」
「さっきからそう言っているが。」
俺は手を握ると足元にパンチを放った。
地面が割れ、魔法陣の一部が崩壊する。
「馬鹿か!お前の命だけじゃない!この戦争に関わるアスタリシアの人間の命も賭かっているんだぞ!」
「俺はっ!!あんたも含めて全部を救うって、言ってんだ!!」
俺の声が響く。
「お前にできる訳がない!敵は本物のバケモノだ・・・!!」
この時、突如として地面が大きく揺れた。
まるで何か巨大なものが近くに降ってきたかのような音だ。
「ボグァボグァボグァ!あれだけ大きな魔法陣を描けば、見つけてくれと言っているようなもの!」
俺と龍騎士は声の方を見る。
「探したぞ女。龍騎士を全滅する契約だったんだ。給料が減るからよぉ・・・今度は逃げるなよ。」
そこには額に一本のツノの生えた単眼の、まるで山のような男が立っていた。
背丈は俺の5倍程度はある。
テガイ領主よりも更に大きいように見える。
龍騎士は唇を噛み締めた。
「・・・サイクロプス風情が・・・!」
初めての長編小説となります。
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