能力発動!プラチナエクスペリエンス・レクイエム!
なんとか一人敵兵を倒したところで俺は辺りを見回した。
「ぐあああああ!」
土煙の中じゃ、上がった声が味方か敵かも分からない。
俺はショギョウ公卿の作戦通りに道を進もうとする。
・・・が、困った。土煙で道どころか、自分が向いている方向さえ分からないのだ。
「・・・声がした場所、生き残りが味方なら合流できるし、敵なら疲弊したところを攻撃できて有利になるんじゃないか・・・?」
戦闘になったところで勝てるかどうかは分からない。
ただ、1/2で味方と合流できるんだ。
無作為に進むよりは生き残れる可能性も高いだろう。
俺は静かに声の方に向かうことにした。
「ぐあああああ!」
少ししたところで、目的の方角からまた声が上がった。
しかも1人ではない。
「うわぁああああ!」
「やめ・・・助けて・・・!」
「ば、化け物がぁぁぁ!!」
何人もの声だ。重なって聞こえてくる。
混戦しているのか化け物級に強い味方が敵を薙ぎ倒しているのか。あるいは・・・
眼前の悲鳴が収まり数分が経過したところ。
ようやく土埃も晴れ、未開だった景色が姿を表した。
1人の大男が立っている。
・・・その男が着ている黒い服は血に濡れ、汚い茶色になっている。
見覚えのない服・・・ああ。敵軍の人間だ。
その大男は背中を向けたまま、静かに言った。
「貴様。今から俺様の質問に答えろ。」
・・・俺?
「お前らは魂兵団と呼ばれているそうだが、その名からして転生者だな?」
「・・・」
沈黙が流れる。
俺は声が出せなかった。
・・・俺、だよな。
だが、俺が発声できなかったのはなにも、敵に利する発言をしたくないからとか忠義だとかではない。
一切そんな感情はない。
しかし、俺と大男の距離は10メートルはある。
普通、気付くはずがない。
・・・やはり猛者は気配で背後の敵が分かるのか。
となると。俺はこいつに勝てることはないだろう。
こいつがどれだけの強さなのかは分からない。
だが、少なくとも一昨日までサラリーマンをやっていた俺よりは間違いなく強いはずだ。
・・・ステータスもオールEらしいし。
俺は降伏の意を伝えるため両手を上げると、依然こちらを見ない大男の方に足を進めた。
「あんた、すげぇな。あんな後方にいた俺のことを察知できるなんて。それがあんたの能力なのか?それとも、ただ強いのか?」
すると大男はついに俺のことを見て静かに俺に言った。
「誰だお前。」
。
大男は続けた。
「さてはこいつの援軍だな。だが無駄なことよ!何人雑魚が集まろうと、このブダの前では何人も虫と同じ!」
こいつ、と大男ブダが言った人物はボロ雑巾のようになってブダの前に両膝をついていた。
俺と同じ軍の人間だ。
そのボロ雑巾は俺を見て言う。
「逃げ・・・て。」
しかしそれを聞いていたブダは当然許しはしない。
「もういい。お前が答えないならあいつに聞くまで。」
ブダはボロ雑巾の首に刀の位置を調整させると、頭上まで高く振り上げた。
そして・・・
「待て待て待て待て待て!」
咄嗟に慌てた声が聞こえる。
ボロ雑巾はもはや声を出すこともできないはずだ。
一体誰が・・・?
ブダは俺の方を見た。
「なんだ?降伏した捕虜の分際で、仲間は殺さないでとでも言うのか?」
さっきの声の主はどうやら俺だ。
なんで・・・
自分の事を人生で一番責めながら、ブダが迫ってくるのをただ見ていた。
そして震える声でブダに向かってついに俺は言った。
「お、俺プラチナトロフィーを持って生まれた転生者なんだ。そんな俺が捕虜になってやるから、俺とそいつの命を助けてくれないか?」
プラチナトロフィーであることを強調させるため、あくまで対等な雰囲気を出した。
しかし、ブダは表情ひとつ変えずに俺の目の前に立つと、刀を振り上げる。
「早まるなよ。そうしたら手柄はお前のもんなんだぜ。プラチナトロフィーを土産に持って帰ったブダは、褒美を貰い昇級し、地位も名誉も手に入れるんだ。」
ブダの身体から力が抜けるのが分かった。
「俺は、俺と俺の仲間が死なないだけで儲けもんだ。悪い話じゃねぇ。どうだ?」
これは俺が社会人で学んだ交渉術だ。
俺はこの術でビジネスマン街道を走ってきた。
「・・・」
ブダは俺の表情を見ている。
やがてブダは口を開くと、そっと言った。
「ステータス開示。」
ブダは俺の顔周囲を厳しそうに見はじめる。
1分もした頃。ブダは開示されていたステータス画面を開いたまま、面倒くさそうに刀を持ち上げーーー
思い切り振り下ろした。
俺の身体はこうして、袈裟懸けの要領で二つに別れた。
・・・魂として身体を飛びだしたのが分かる。
死んだ瞬間のことは覚えている。
なのに、何故こんなにも軽やかなのか。
まるで死こそ幸福であるかの如く・・・
「はっ!」
俺は目を覚ました。
目の前には一匹のブタ、いやブダがいる。
「夢・・・じゃない・・・?」
それとも、助けられた・・・?
いや、それはないだろう。
目の前のブダもまた驚いているからだ。
・・・あれ?未来でも見たのか・・・?
俺が混乱して目を回していると、ステータス画面を見ていたブダが俺に向かって怯えた様子で叫んできた。
「お、お、お前はなんなんだ!なんだこのステータスは。攻撃力S判定・・・?所持スキル:承喇承喇・・・?ありえない・・・!ステータスオールE、所持スキル無し、ゴミ以下の存在のはずじゃねぇのかよ・・・」
ブダの取り乱した様子を見て俺は調子を取り戻す。
「ふっふっふ。ブタよ。これが俺の真の能力だ。プラチナトロフィー所持者にだけ贈られる謂わばスペシャルコンテンツ。プラチナエクスペリエンス・レクイエム!」
そして、それと同時に自分にスキルがある事を理解した。
まるで最初から本能に刻まれていたような、ずっと昔から知っていたような感覚だ。
これがスキルを所持している感覚なんだな。
俺は拳を握り、魂の限りブダを殴りつづけた。
「ウラウラウラウラウラウラウラ!!」
初めての長編小説となります。
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